天魔界戦

皇神凪斗

第41話 シャールの過去

シャールは政府本部の地下牢へ入れられた。その後、アルマは一言も話さず暗い表情で本部の入口に佇んだ。
そして横を通るメルに気づかず、メルも話しかけようとは思わなかった。

メルは受付に行き、シャールとの面会を望んだ。
「魔法が使えなくなる手錠がしてありますが、油断しないで下さい。」
「分かりました。」
そのまま案内される。シャールの孤立した場所に放り込まれており、周りにはメルに付いてきた監視役と看守の計四人しか存在しない。
だが、メルはその状況には満足しなかった。
「すみません、二人きりにして貰えませんか?」
「・・・どうしてだね?デスペラードのリーダー、その側近の彼女ならリーダーの弱点など有益な情報を持っているだろう。
君が聞き出したとして、我々に知られて損があるのかね?」
それだけではないだろう。今さっき会ったばかりのメルに、女だからと言って信用は置けない。当然の反応だ。
「ここは・・・女同士で話させて貰えませんか?デスペラードに『関する情報』を得たならちゃんと話します!」
看守はメルの瞳を見つめる。
少しの沈黙の後、目を閉じる。
「・・・わかった。おい、付いてこい。」
「はっ!」
二人は早々に出て行った。
するとシャールは口を開いた。
「あなたの聞きたいことはデスペラードに関した情報では無いのでしょう?」
メルは少し笑った。
「どうでしょう。・・・結構緊張しました。」
「・・・それで?私に何の用でしょうか?」
メルは真剣な顔になる。

「あなたは・・・あの人ロキが好きなんですか?」

「え?・・・。」
突然の発言にシャールは少し混乱した。
「多分、そうだと思います。あの方には多大な恩義と尊敬を抱いています。」
「・・・どうして?失礼な言い方ですけど、あの人は多くの人々を殺したんですよ!?
・・・やっぱり、強いからですか?」
メルは感情的になる。
メル自身は気づいていないが、その洞察力は人間の真意を見抜くことが出来る。
その無知な瞳が、シャールを悪人だとは判断しなかった。そして、ロキと言う男さえも。
だからこそ、分からなくなった。二人とも悪人には見えない。しかし、デスペラードと言う組織は多くの人間の財や命を奪ってきた。その動機とシャールがロキに向ける好意がメルには全く分からなかった。
シャールは少し迷い、口を開いた。

「・・・私は奴隷でした。」




いつからか分からない。物心着いた頃には首や手足に枷が付いていて、それが当たり前だと思った。
同じくらいの子供を見ても、ただ生き方が違うだけ、としか思わなかった。
色々な事をさせられた。力仕事や家事、出来ない事があれば鞭で叩かれながら教えこまれた。
何度も主人が変わった。飽きたからと売っぱらう者、何としてでも有能な彼女が欲しかったのか主人を殺して奪いに来た者もいた。
しかし何があっても、することは変わらない。言われたことをこなし、生き抜く。
歳が十を越えた頃、その生き抜くと言う行動に疑問を抱いた。
他人に人生を捧げる。聞こえはいい。しかし、その者の人生は?
私の主人は誰かの為に生きているだろうか。少なくとも私にはそう見えない。
それどころか、私の人生を踏み躙っている。
こんな人間のクズの為に生きる理由があるのだろうか。
その日、私は主人に逆らった。
「何だ!言うことを聞け!」
「・・・・・・。」
主人は鞭を振るう。
体に走る激痛。
「・・・くっ!」
「このっ!このっ!!」
最初は耐えていた。しかし、その小さな体で痛みに耐えられるはずもなく、最後まで仕事はこなせなかった。
ただただストレスが溜まる。
最後の仕事を終え、草を敷いただけの寝床に戻る途中、通りかかったドアから主人とその妻の声が聞こえた。
「もうそろそろ売るか。あのガキ。」
「そうねぇ。使うだけ使ったし、今なら高値で売れるわ。」
「・・・そうとなると、最後に少し楽しもうか。」
「全く。・・・ほどほどにしなさいよ。」
また・・・また何かされる。
その後、主人は寝床に入ってきた。
「な、何か用ですか?」
「いや、気にせんで寝たまえ。」
シャールは後ろに隠した手に、注射器を持っているのを確認していた。
「さっさと出てって下さい!!」
「!!・・・このガキがっ!!いい加減にしろよ!」
主人は私を押し倒し、腕を押さえつけた。
そして注射器を取り出し、シャールの腕に────
シャールは目を瞑る。先の見えない恐怖に。

次の瞬間、その瞼に光が当たるのを感じた。
それはありえないこと、この部屋には照明など存在しないはず。
目を開ける────
「え?」
シャールを押さえつけていた腕。
その上、つまり主人の上半身が

吹き飛んでいた。

ついでに言えばその家の一階、半分より上も吹き飛んでいた。
「ん?しゃがんでいて生き残ったか。」
近くで男の子の声がした。しかし、そんなことよりシャールの目には首のない主人へと向けられていた。
シャールは注射器を取り上げる。
そのまま手を振り上げ、主人の腹目掛けて振り下ろす。
「うあああぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
ブスりと突き刺さる注射器。手に着く気持ち悪い赤い液体など気にせず、また注射器を振り上げて、下ろす。
刺す、刺す、刺す。
何度も。何度も。
今までの仕返し、それだけでは足りない。
10年も自分の人生を奪った、人間達への恨みをその手に宿す。
「お前の如きに!!お前の如きに!!お前の如きに!!
私の人生を奪う資格などある物かぁぁ!!!」
渾身の力で振り下ろしたことにより深々と刺さった注射器は二度と抜けなかった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
シャールの人生の最後の咆哮。
私は後ろにいるであろう人物に殺される。その前に少しだけ恨みを晴らすことが出来た。
それだけで充分だった。

しかし、シャールの肩に小さな手が優しく乗せられた。
もう光が消えた瞳で振り向くと、そこには黒い髪で黒い瞳の少年が一人いた。
信じ難いが、この少年が主人の家を吹き飛ばしたのだろう。そんな気がした。
私も殺される。そう思った。 
しかし、
「お前、俺の仲間にならないか?」
「・・・ぇ?」
「そんなもので満足か?お前の恨みはその豚一人で完全に晴らせたのか?」
「・・・ううん。」
シャールはただ直感で答える。

「ならば俺に付いてこい。人の殺し方を教えてやる。」

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