天魔界戦

皇神凪斗

第25話 絶対強者の実力

新街のある山岳の周辺。そこにある森で、殴り飛ばされた黒死竜は身体を起こす。

コレガ人間ノ力トハ・・・。一度コノ身体ガ朽チテカラ、ドレ程月日ガ経ッタノカ・・・。
シカシ・・・。

《人間如キガアアァァァ!!!》
黒死竜は人間への怒りを叫ぶ。下等な生物と思っていた人間に地に落とされた事に多大な怒りを感じた。
空気の振動と共に黒死竜は魔法を発動する。




「な、何だ?」
「お前に殴られた事に怒りを感じている様だ。」
黒死竜の叫びは新街にいるアルマとロキにも聞こえていた。
その声の主へと二人は向かう。
その途中、黒死竜が黒き霧に囲まれているのを視た。
否、恐らくは黒死竜があの霧を発生している。
それは黒死竜が姿を表すときに纏っていた霧。それをアルマは覚えていた。
「あれには触んなよ?魔力が吸い取られる。」
「あの霧か?・・・ほう、面白い魔法だな。
・・・だが───」
山の表面を蹴り宙へ飛ぶロキ。そのまま森の中へ落下、地面に手を当てる。
「『俺に従え・・・』」
その言葉に応えるように地は蠢く。
ロキを中心に六つの柱が地面より飛び出る。
いや、その柱には顔と鱗があった。細い眼にズラリと並ぶ牙、歪な生え方の角。
そう、まるで黒死竜の様な。竜の顔がその柱の先に付いていた。
「自然操作魔法!?ロキも使えたのか。」
しかし、それだけではない。それぞれが違う物から出来ていた。
炎、水、雷、土、風、闇の六つからなる六匹の竜がロキに従うように地面から顔を出していた。
「・・・嘘だろ!?自然操作魔法を六属性?しかも全て同時なんて・・・聞いた事ねぇぞ?」
「そうか?かの『原初の魔女』ならば出来たかもしれんが・・・。」
確かに歴史上、『原初の魔導書』を解読した『原初の魔女』より優れた魔法使いは存在しない。
しかし、目の前でロキが行っている事はその歴史を塗り替え兼ねない偉業である。
その事に驚く間もなく、ロキは手を黒死竜へと向ける。
それにより、六匹の竜が動き出す。地面を縫うよりに進み、黒死竜へと向かう。
そして、黒死竜の四本の脚と二枚の翼に噛み付く。黒死竜を動きを完全に止めてはいないもののかなり動きを制限している。
《鬱陶シイゾ!人間!》
竜を振り払えないと悟り、ロキを睨む黒死竜。
その黒い身体に纏っていた黒い霧が、ロキへと伸びる。あれに触れては魔力が吸い取られてしまう。
それを避けるためロキは魔法を発動する。
「『サイクロンウォール』・・・!」
ロキの前に大きな黄緑色の魔法陣。そこから竜巻が生まれる。それも一本ではなく、ロキ視界を奪うように六、七本の竜巻が現れる。
その竜巻は黒い霧を阻む。
しかし、異変が生じる。
「?・・・。これは・・・。アルマ、下がれ!」
「お、おう!」
アルマとロキはその場を飛び退く。
次の瞬間、竜巻が消滅する。だがそれはロキが魔法を解除したからではない。
黒い霧がその魔法を飲み込んだ。
「あの霧・・・触れた魔力、魔法を『消滅』させているな。」
「消滅?じゃあ魔法が効かないってことか?」
「そうなるな。直ぐに消える訳では無いが、あまり効果は期待できないな。そして、生身の人間は近づくだけで死ぬな。」
よく見ると、黒死竜に噛み付いていた竜も消滅していた。
魔力とは人間の身体を動かす、血液と似た働きを持ち、触ることも見ることもできない物。
だが、それが奪われた時、人間の身体は活動を停止する。
『見たものは必ず死ぬ。』その真相はあの霧に隠れていた。
「さて、魔法で生み出したものは霧で消滅してしまう。ならば・・・『魔装』!!」
ロキの身体を魔力が覆う。
「まさか、拳で戦うのか?いくらなんでも厳しいだろ。」
「『魔装』は魔力により、身体能力を強化する。その魔力の量と、一箇所に集める事でその分強化される。そして、魔法で攻撃するより魔力の消費は少ない。」
ロキはさらに多くの魔力で身体を覆う。
アルマは隣にいる男から、身体を縛られるような威圧を感じた。
その目線が黒死竜に向いているとはいえ、今にも拳を突き出してこないかと思ってしまう。
アルマが警戒する中、ロキの姿が掻き消える。転移魔法ではない。正真正銘、肉体能力で進んでいく。
それは目の前の木々が、嵐に晒されたように切り刻まれる事で確認できた。
目で負えない速度で地を蹴り、剣を振っている。
あっという間に黒死竜の前まで道ができる。
そしてその巨体が傾く。顔を殴ったのだ。
横に寝転ぶように、倒れる。
いつの間にかロキは剣をしまい、拳を使っていた。
次に腹を殴る。横倒しの状態で、後ろに吹っ飛ぶ。

「さあ、まだまだ行くぞ・・・?」

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品