天魔界戦

皇神凪斗

第24話 カイトの戦い

新街が恐怖の叫び声に飲まれる中、門の前でカイトは一人の男と対峙していた。
「お前はデスペラードの一員では無さそうだな。」
カイトの問に男はそのごつい顔でニヤリと笑う。
「フンッ。ただの賊と国の王で、どちらに付くかなど考えるまでもない。」
あんな男ガゼルが王?国を持てば王になれるとでも?」
「貴様がなんと言おうとあの方がこの街の王だ。・・・それよりも、一人で良かったのか?俺の方はあのレイジとやらがいなくて助かるが・・・。」
「精々自分の心配をするんだな腑抜け。貴様はここで死ぬ。」
男は呆れたように溜息をつき、ナイフを構え直す。
カイトもそれを確認すると、槍を構えて突撃。
しかし、槍が男に当たる瞬間男は影になった。
それは地面に這いつくばっている影ではない。男の身体が黒い何かに包まれ地面の上を滑るように、しかも素早く。
槍を振り切る前にカイトの背後に回り込む。
ナイフの風を切り裂く音を聞き、カイトは即座に地面を蹴り距離を置く。
「変わった動きをするな。」
「気にする必要は無い。どうせ貴様では付いてこれない。」
それだけ言うとまた影になる。
カイトの周りを素早く動き惑わす。後ろに回り込んだと思い、振り向くがもうそこに影はない。
代わりに左肩に痛みが走る。背後から切られた。

傷は浅い。遊んでいるのか?相手は自分が格上だと思い、手加減している。
その考えは間違いではない。相手には実戦経験がある。それも真剣勝負、命のやり取り。
自分も槍を教わった師とは幾度か模擬戦はしたが、もちろん命などかけた戦いなどではない。

しかし、だからこそ戦うべきだとカイトは思う。
この所、アルマに敗北したり、『氷姫シャール』や『絶対強者ロキ』と圧倒的な力の差を見させられたり、己の無力さを感じることがありプライドよりも強くなりたいという思いが強くなってきた。
そして、現れた強敵。だがカイトは直感で今の自分でも勝てると確信した。
「『アイシクルランス』!」
痛みを物ともしないように左腕に氷の槍を持ち、振り返ると共に影に向かって放つ。
当然のように避けられてしまう。
「『吹雪』!」
瞬間、視界が霧に染まる。白い霧、それが視界を埋め尽くす。カイトには何も見えないが、相手にも見えない。
「『アイシクルランス』・・・!!」
カイトはもう一度氷の槍を形成する。
そして無造作に放つ。しかし、何にも命中せず、地面に刺さる音だけが聞こえた。
だが懲りずに氷の槍を放ち続ける。
「なんだぁ?まさか当てずっぽうか?舐められたものだな・・・。」
この男にもカイトの姿は見えない。しかし、周りには放たれた槍が数本、さらに増える。
その槍が刺さる角度と向きから、距離と方向と掴む。
「それで隠れたつもりか?」
男もまた影となる。ジグザグに動き、カイトに近づく。
また槍を放つ準備をしていた。
「甘いな・・・。」
影はカイトの前を往復し、霧の中へ消える。
そして次の瞬間カイトの服に切り刻まれ、血が飛び散る。
「ぐっ・・・!・・・この程度・・・!!」
今度は腕や脚が切られたものの、またしても傷は浅い。数が数だけに力が入りにくくなっていた。
「まだだ・・・。充分動ける・・・!」
一度その場を動く、同じ場所にいては狙ってくれと言うようなものだ。
移動した後『吹雪』を使いまた『アイシクルランス』を放つ。

はぁ・・・。また同じ手か。若い奴だからもう少し骨があると思ったんだが・・・。
どこに移動しようと血の跡が残っている。その上また槍を投げ始めたからかなり正確にわかる。
これで終わりにしてやろう。

男は影となり、カイトへと近づく。
そして難なくその姿を確認する。
これまでより速く、せめて本気で葬ってやろうと思った男は自分の持つ技術を最大限使い、とどめをさす。

そのつもりだった。
カイトより少し手前、あと数メートルという所で足が動かなくなる。
「何!?」
すぐに足元を確認する。
凍っていた。脚どころか、周囲の至る所が。
「馬鹿め・・・。俺がただ魔力を無駄使いしていると思ったのか。」
「この霧は・・・!地面を凍らせるのを悟らせず、俺を誘い出す為か!?」
「そうだ。鼠を捕まえるには充分だろう?」
カイトは槍を握り直し、凍っている男に突撃。
その瞬間、男はすぐそこに刺さっていた氷の槍を引き抜く。
「・・・!!」
「ハッ!馬鹿な奴め、死ね!!」
完全に間合いに飛び込んだカイトは男の突き出した槍を避けることができず、胸を貫かれる。
油断したせいか、カイトの槍は男の左腕を貫くだけで終わる。しかし槍が当たった事によって左腕が凍る。
右腕も氷の槍を持ったことで凍ってしまった。
両腕両脚が動かない状態、しかし敵を倒した。あとは誰かが来るのを待つだけだ。
そう思い、今一度倒した敵を確認する。
「・・・あ?」
確かにそこには敵の姿があった。
しかし、そこには色がなかった。
と言うより───
「これは・・・氷?」
氷だ、今この手で殺した人間が氷になっていた。
「もう終わりか?」
背後から声。
ギリギリ動く首を回し、恐る恐る後ろを確認すると、傷だらけの執事服を着た男が佇んでいた。
「ば、馬鹿な・・・。」
「馬鹿は貴様だ。まんまと俺の氷に触ったな?」
しまった。と思うがもう遅い。動くのは首から上のみ、相手は背後で周りには何本もの氷の槍。
カイトはそのうちの一本を引き抜き、構える。
「クソッ!!お前如きに───」
カイトの手から槍が放たれる。
それは完璧に男の胸を貫き、全身を凍らせた。

「腑抜けが・・・。
だが、なかなか手応えはあったぞ?」

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