天魔界戦

皇神凪斗

第12話 スピード

一方のレイジ達は氷姫こおりひめシャールの相手をしていた。
瞬速で避ける事が出来ず、防げば凍るナイフ。
近づこうにもナイフがそれを阻み、異常な身体能力で距離を取る。遠距離攻撃としてはカイトの『アイシクルランス』だがもし当たっても水魔法ではダメージは与えられないだろう。
「それにしてもなんてスピードだ。ナイフを投げる速度とあの身体能力。これではいつになっても不利のままだ。」
「貴様の高速移動ライジングでどうにかならんのか。」
「仕留め切れなかった場合、凍らされて首を切られるだろう。それに───」
「俺を舐めるなよ?心配などしている内に犬死にするぞ。」
「!!・・・。全く、困った部下しかいないんだね。」
レイジは目を閉じ、1度深呼吸する。
そして目を開く。
「『ライジング』!!」
レイジは光となる。地面を蹴り、建物の所々を蹴りながら上昇。シャールのいる屋根まで到達する。
「速い・・・!しかし。」
シャールはまたナイフを投げる。瞬き程の一瞬で8本。
レイジはナイフをスレスレでかわし、シャールに突撃する。
しかし、あと5mの時点でレイジの動きは突如静止する。
「これは・・・!!ワイヤーか?」
「掛かりましたね。」
レイジの体にはワイヤーが巻き付いていた。両足の動きを完全に止め。腕にも2、3本巻き付いていた。
月の光が照らしているものの、シャールの影にひっそりと仕掛けてあったこと。ナイフを避けるためにシャールに意識が向いていたことで見つける事ができなかった。
「では今度こそ、終わりですね。」
シャールはナイフを構える。たったの1本。それで仕留められるということだろう。
そして、投げる寸前。
レイジの足元に黄色い魔法陣が現れ、魔法が発動する。
ショック電磁波!」
レイジの体、額の部分から光が飛び。シャールのナイフを持つ腕に電撃が走る。
ナイフを投げるより早く。威力よりもスピードを重視した魔法。
電撃というのは威力が強ければ心臓を止められるが、弱くとも痛覚を刺激する。
「ッ!」
声にならない声を上げ、痛みで態勢を崩すシャール。足で引っ張っていたワイヤーが解け、レイジが開放される。
「ここだ!『ライジング』!」
自由になったレイジはライジングを発動。光となり、シャールに接近。拳をシャールの顔面へ伸ばす。
高速移動の勢いに乗った拳は風を突っ切りシャールの顔へぶつかる。
と思った瞬間、レイジは目撃した。
いきなり視界の外から黒い腕が現れ、レイジの顔を、体を吹き飛ばした。

「危ない危ない。俺の大事な駒に・・・何をする?」

声、男の声だ。それもまだ若い、アルマやカイト位だろうか。
レイジは直ぐに敵だと感じ、距離を取り剣を構え、目を向ける。

そこいたのは1人の男。整った顔立ちは悪戯っぽくにやけており、黒い髪に長袖で踏んでしまいそうな程長いコートを腕まくりでボタンを外し、中にはまたもや黒いシャツ。黒いズボンに黒い靴。
そして────
「なんて魔力量だ・・・!」
その男から感じる魔力は尋常ではない。感じただけでも通常の魔法使いの3人程度はありそうな魔力。
何より驚くのはそのスピードだった。
ライジングを使ったレイジより遅く動いたのは確実だが、それよりも早くレイジに一撃食らわせた。
魔装を使っているのだとしてもそれだけのスピードを出すとなればかなりの魔力を注ぎ込むか、魔道を極め。魔力操作を極める。
しかし、メルの様に魔道だけを極めるならば魔装は必要ない。遠距離での戦いを主とする魔法使いに魔装は必要ない。
つまりこの男は魔法戦士、魔法を扱いながらも武器や素手で戦う戦士。
それでも戦士としての訓練をしながら魔道を極めると言うのはほぼ不可能。
それなりに鍛えたであろう肉体と人間とは思えない魔力。

戦場で生き、成長してきた。そんな過酷な彼の人生をそれが語っていた。

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