天魔界戦

皇神凪斗

第6話 グラン

アルマ達が入団してから1週間、彼らは毎日沢山の依頼をこなした。もちろん人を殺すことなどしない、比較的簡単な依頼だ。
「・・・つまんね」
アルマは呟く。
「これ以上やると、他の新人用の依頼が無くなってしまう。そろそろ休みを入れてもいいんじゃないかな?」
「そんなこと言ってもレイジ。全っ然手応え無いんだけど・・・。もっと強そうなやつ行こーぜ。」
このレイジ率いる優秀なルーキーのチームは、初日から依頼を3つこなした。
もちろんこれが普通ではない。他の新人チームは1日1つが普通で、本当の戦いをした事の無い者は緊張しすぎてリーダー任せになっている事だろう。
しかし、このレイジのチームは違う。最初から新人用の中で1番難しい依頼を受け、3時間程度ですぐに帰ってきた。そして、次、次と受けメルがギブアップしたのでそこで解散した。それから1週間ずっとそんな感じが続いている。
新人の研修は1ヶ月、状況によって前後するが、それまで依頼を受けては訓練、依頼、訓練とゆっくりこなすもの。周りの者も驚きを隠せない。
アルマ達が話し込んでいると、ギルドの事務員がレイジに向かって歩いてきた。
「レイジさん、ギルドマスターがお呼びです。」
「はい、分かりました。ご苦労様です。」
それだけ伝えると事務員は仕事へ戻った。
レイジは手を叩き、3人の視線を自身へ向けた。
「皆、ギルドマスターがお呼びだ。」
マジで?なんかやらかした?
とアルマは考えていた。


ギルドマスターの部屋はそれなりに広かったが、やはりと言うかなんと言うか、書類が多くて狭いとまで感じた。
その部屋に入るための扉からまっすぐ見える大机には肘をつき手の上に顎を乗せた男がいた。
髭が生えているし、少し老いを感じる顔から40代前後だろう。しかし、その覇気というかオーラからまだまだ現役じゃないのかと感じた。そしてその男には

───左腕が無かった。

一同が何も言えず立っていると、
「まあ、とりあえず腰掛けたまえ」
「「失礼します」」
メルとレイジが答える。カイトとアルマは何も言わず、高級そうなソファーに腰掛ける。
「ちょっと二人とも!?」
メルが慌てて、レイジは苦笑する。
「別に構わんよ。私はグラン。ここでギルドマスターをさせて貰ってる。」
「・・・あんた、相当強いだろ?」
アルマの問にグランは微笑みを返した。
「腕がもう一本あれば君にも勝てたかもしれんな」
いやいやいや、あんたギルドマスターでしょ。
と思うメルとレイジだったが、口に出すことは無かった。
レイジはギルドマスターの実力を知っている。元魔法戦士グラン、1本のハルバードをたずさえ、1人で戦う。かつて、100人余りの闇組織を1人で壊滅させた。理由は『暇つぶし』。
ギルドをこっそりと抜け出すグランを追っていったレイジはまさか闇組織の本拠地に行くとは知らず顎が外れそうになったそうだ。
だがアルマは未知数、今回の新団員の中で飛び抜けているのは確かだが、本気で戦った所は見たことがない。さらに言えば闇以外の魔法を使えると言っていたが、魔装しか見ていないので正直、完全近接タイプだと思っていた。

「さて、そろそろ本題に移ろうか」
グランは真剣な表情になりこう切り出した。
「君達には『新街』へ行ってもらいたい。」
「新街?・・・聞いたことねぇな」
「そうだろうな、いい意味でも悪い意味でも人気の無い街だからな。」
「んで、何をすればいい?まさか観光とは言わねぇよな?」
「調査だ。行くだけ行って少し遊んでくるといい。」
「遊んでって・・・。だが調査と言う時ことは、やべぇ噂でもあんのか?」
「いいや、むしろ全くない。そう、怪しいくらい何の噂もないんだ。」
「だったらなんで。」
「管理政府によると、街の外、新街を囲むような形で人が行方不明になっている。だから怪しいと思って管理政府自体も捜索したらしんだが、そこは普通の街だった。文化もそこそこ、技術も申し分ない。犯罪のはの字もない街だった。」
「確かに、ちょっとやばい匂いがするな。」
「新人にやらせる依頼ではないが、君たちなら問題はないだろう。行ってくれるね?」
アルマとグランが話していると、レイジが突然手を挙げた。
「ちょっとすみません。その前に彼らに聞いておきたいことが。」
「ん?あぁ、構わない。」

レイジがかなり真剣な表情で3人を見つめる。
3人と目を合わせてから、一呼吸おき、こう言った。



「君達・・・、人を殺す覚悟はあるかい?」

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