マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔を隠しているのが気に食わねえ 5


「それでは早速、始めて行きたいと思いますッ! 《Ex 》vs《Godly Place》Music Battle !!」
「「ワーーーーッ!!!」」


 大歓声と共にミュージックバトルの幕が上がる。

 音楽対決のルールは至ってシンプルで、イクスとガップレのメンバーそれぞれが、自分の担当の楽器同士で競い合うという、ただそれだけのことなのだが、そもそもなぜ、イクスと俺たちが音楽対決をしなければならないのか?

 もちろん、レオンが言っていた『借りを返しに来た』という話も、全くこれっぽっちも身に覚えがない。

『まさか… 俺のことを忘れたなんて言わないよな? 『入月勇志』…』
『そういうところ、昔から全然変わらないのな?』

 レオンは確かに、俺のことをガップレのユウではなく、入月勇志として知っていた…

 それは、ごく一部の人間以外、誰も知ることのない真実…

 レオンは過去の俺の事を知っている。それは紛れもない事実…

 それはつまり、俺は間違いなくレオンを知っているという事実でもあるのだが…
 
 あー、ダメだーッ! 全く、これっぽっちも思い出せない!!


「ほんと、どうしてこうなったんだ… 」


 思えば、家での大和撫子何ちゃらに始まり、水戸さんからの急な呼び出しで、事務所に行けば、「先程、《Ex 》から戦線布告をされたわ… 」とか言われて、トントン拍子で話が進み、白黒つけるために、生放送で音楽対決をする羽目になっていた。

 ていうか、借りだか何だかんだ知らんが、わざわざメディアと、こんな大勢の人たちを巻き込んでするか、普通!?

 あーッ!! 色々考えてたら、だんだん腹が立ってきた…!

 もう、こうなったら全米ナンバーワンだろうが、全力で叩き潰してくれるわッ!


「かかってこいやッ!!」


 俺は、これでもかと自分の顎をシャクって、イクスのレオンを挑発するが、もちろんお面の下でのことなので、全力のアントニオ猪吉の顔真似も無意味に終わってしまった。

 まあしかし、気合いは入った!


「おぉ! ユウからやる気がみなぎってる!? 俺も負けていられないな!」


 どういうことだか、俺のみなぎるやる気を感じ取ったマシュが、ボディービルダーがするような決めポーズを、次々と繰り出し始めた。


「はぁーッ! ふんッ! ふーんッ!!」
「ちょっと! マシュ!? ここはマッスルコンテストじゃないんだから! 暑苦しいし、むさ苦しいし、気持ち悪いからやめてよ!!」


 マシュがポーズを繰り出す度に、少しづつマシュから距離を取るヨシヤ。


 「ショウちゃんからも何か言ってあげてよ!?」
「うむ… 」


 マシュから距離を取れば取るほど、反対側のショウちゃんとの距離が狭まり、なくなく救援要請を出すヨシヤだが…


「間違いなく、勇子ちゃんはピンクも似合いますぞ。何て罪深い子なのですかッ!?」

「だっ、ダメだ… ショウちゃんの頭の中は、9割くらい、勇子ちゃんになってる… うん、これはもう救いようがないな」

「ふんんッ! 見よ! この肉体美をッ!!」

「おい、マシュ? お前、キャラ設定おかしくなってんぞ? せっかくいい具合に気合い入ってたのに〜!」

「はぁ… 大丈夫かしら、こんなメンバーで… 」


 この緊張感のかけらもない異様な光景を見れば、ミュアの苦悩もわかるが、俺たちなら大丈夫だ、問題ない。 何となくだけど…


「くッ…!あいつら舐めやがって…!」


 そんなガップレの様子を見ながら、レオンのやつがどんどん苛立っているのがわかる。

 ふっ… こんなことで腹を立てていたら、この先身がもたないだろうよ。

 こんなの俺たちからすれば、まだまだ序口なんだぜ?

 何となく、マウントの取り方がおかしい気もするが、気を取り直して行ってみよーう!


「では、まず最初はドラム対決ッ!!」


 MCの掛け声と同時に、薄明かりだったステージが、一斉に昼間の輝きを取り戻し、その全貌が明らかになっていく。

 俺たちが立つステージの中央には、先程と同じように巨大なスクリーンが設置されていて、その前には、一際目を引くものが2つ、向かい合うようにセッティングされていた。


「あ、俺のドラム… 」


 まるで、生き別れた恋人を見つけたように、マシュがボソッと呟く。

 マシュが言った通り、ステージの下手側のドラムは、俺たちガップレには見慣れたもので、普段からマシュこと真純が愛用しているドラムセットだった。

 マシュのこだわりで、スネアからバスドラム、タム、シンバルの一つ一つ、フットペダルの踏み具合まで、その全てを自分でオーダーメイドして組み上げた、世界に1つだけのドラムセットだ。

 バスドラムの外側には、ガップレの頭文字である《GP》が大きく刻まれている。


「ああ… 何てこった…! 」


 マシュが体を震わせながら、食い入るように自分のドラムセットを見つめる。

 マシュ、お前の気持ちもよくわかるよ… 自分で運んだわけでも、運搬の許可を出したわけでないのに、こんな出来レースで自分の愛用のドラムが持ち運ばれていたら、誰だって怒るさ… 普通。


「やっぱり、俺のドラムって、めちゃくちゃカッコいいんだな!」
「えッ?そこ!?」

「なあ、ユウもそう思うだろッ!?」
「うん、ちょっとよく分からない… 」

「お前なら、この良さを分かってくれると思ったのに〜ッ!」


 うん、心配して損したよ。

 マシュのドラムセットに対して、上手側のドラムは、全てが真っ赤に塗装されていて、これだけ見れば1つの芸術作品のような気さえしてくる程だ。

 この真っ赤なドラムセットの持ち主は、同じ真紅の髪をした《Ex 》ドラムのリサで、これもマシュと同じく、リサが普段から使っているやつらしい。

 あんなデカブツを、わざわざアメリカから運んできたと言うのだから、開いた口が塞がらない。


「それではドラム対決のルールを説明します… 」


 それぞれのバンドのドラマーが、技術と技をぶつけ合うドラム対決。

第1ラウンドは『テンポキープ対決』

 テンポとは、拍の時間の長さで、簡単に言えば『スピード』だ。

 2人は同時にドラムを叩き、一定の間隔で変わっていくテンポに合わせて、いかにテンポを崩す事なくドラムを叩き続けられるか? という勝負らしい。

 ドラマーにとってテンポキープは基本であり、最も重要なことの1つだ。

 どんなに派手で、フィル(即興的な演奏)が豊富でも、テンポキープが出来ないと、バンド全体が締まらなくなってしまう。

 つまりこの勝負は、単純に2人のドラマーとしての技量を計るもの、ということなのだろう。

 俺個人としては、人と比べることは好きではないのだが、マシュがドラマーとして、どれ程のレベルまで上がったのか、というのはすごく興味があった。


「それではイクスのリサさん、ガップレのマシュさん、準備をお願いします」
「はい、お願いしま〜す」

「よしッ、じゃあ行ってくる」


 MCの呼び掛けを受けると、マシュはガップレのメンバーに順番に目配りしてから軽く頷いた。


「マシュくん、頑張ってね!」
「いってらっしゃい」
「マシュ氏なら勝てますぞ!」


 メンバーそれぞれがマシュにエールを送る。

 俺も何かマシュに言ってやらないとな…


「マシュ!」
「ん?」

「楽しんでこい!」


 咄嗟に口から出た言葉は、エールとは程遠い一言だったが、今まで苦楽を共にしてきた俺とマシュにとって、その言葉は他のどんな言葉よりも力強く、ありのままの自分をぶつける事の出来る魔法の言葉だった。


「おう、任しとけ!」


 俺の一言に、少し驚いたような仕草を見せたマシュだったが、直ぐに冷静さを取り戻して、ステージ中央へと向かって行った。


「《Ex 》リサ! 《Godly  Place》マシュ! 両者向き合って!!」


 ステージの中央で互いに向かい合う両者、これから始まる熾烈な戦いを前に静まる会場。

 そんな中、今まで沈黙を守ってきた《Ex 》のリサが徐ろに口を開いた。


「ハーイ!マシュ、会いたかったわ」
「こちらこそ、まさか天下のイクスのドラマー、リサに会えるなんて光栄だよ」

「そう? 私はずっと前から、あなたのこと知ってたわよ?」
「え?」

「私はね、あなたのお兄さん。プロドラマーの『林田 正樹』の1番弟子なのよ… 」

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