マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで
顔を出すの? 出さないの? いえ両方です 11
 落ち着いて、一度話を整理しよう!
 たしか、アキラとキアラにはどこで寝てもらうかという話を愛美としていて、流石に男の部屋に寝かせるわけにはいかないと言うことで話がまとまり、2人とも愛美の部屋で寝てもらうことになったはずだ!
 俺はいつも通りに部屋に戻り、明日の支度を済ませ、ベッドに入ろうと布団をめくると、そこには何故かアキラがいた。
「えーっと… 一緒に寝るか、ユーシ?」
 愛美から借りたのであろうピンクの上下お揃いのパジャマを着て、悪戯っぽく顔を赤らめたアキラに、もう一度布団を掛け直す。
 「わッ!? ちょっとぉー!」
 まだだ、まだ間に合う!俺は何も悪いことはしていない!身の潔白を証明するため急いで部屋のドアに向かう。
 しかし、物凄いスピードで布団の中に引きずり込まれ、両手両足をアキラに抑えられてしまう。
「う、動けない…!? 一体何の真似だアキラ!!」「ごめん… でも、こうでもしないとユーシと2人っきりになれなかったから…」
「だからってこんな!?」「私って、どう… かな? 可愛い?」
「ええッ!? こんな上から押さえつけられている状況で何を言わせたいんだよ!?」
「可愛くない… かな…? これでもアイドルやってて、自身あったんだけどな…」
 何故か急に泣きそうな顔になったアキラに、何か言えることもなく…
「そりゃあ、まあ… か、可愛いよ…?」「ほんとッ!?」
「う、うん」「私もね、最初にユーシを見た時から、ずっとカッコいいなって思ってたんだ!」
「最初って、全国大会の時だよな? あれは本当に命が懸かってると思ってたから必死だったんだよ。ほら! スポーツでも何でも本気の奴って格好良いだろ? そんな感じでアキラも俺の事を勘違いしてるんだよ?」
「違う! …ううん、そうなのかもしれないな…」「わかってくれたか!」
「だから、もっとちゃんとユーシのこと知らないといけないよな!? だからもっと教えてくれ!」「ファーッ!?なぜそうなるッ!!」
 いやいやいやいや何をーッ!!?? こんな体勢で言われたらいけない事しか思い浮かびませんから!!
 俺のいけない想像の通り、アキラの顔が徐々に俺の顔に近付いて来る。
 その距離が20センチ程になったところで、スッと目を閉じて少しだけ唇を前へ突き出すような形になる。
「待って? ちょっと待って! 知りたいって言っても順序があるでしょ!? 」
「んと、ショートカット?」「ちゃんと知る気あるッ!?」
 10センチ、5センチ… ゆっくりと迫ってくるアキラの柔らかそうな唇から目が離せないまま、その時が訪れようとしている。
 もう… 駄目だ… さようなら俺の純情… さようなら俺のファーストキス…
「「キャ~ッ!!」」
 そんな、わざわざ俺の心の声を代弁してくれなくてもいいのに…って、あれ? ここには俺とアキラしかいないはず… まさか!?
 アキラから逃れるように身体を捻り、声のした方へ顔を向けると、部屋のドアの隙間からこちらを伺うキラキラした目が4つ輝やいていた。
 まあ誰なのかは見当はつくし、このまま見られ続けるのも何か嫌だな。
「アキラ? 気付いてると思うけど、見られてるよ? さっきから」「えッ!? そうなのか!?」
 気付いてなかったんですかーい!
 そういえばアキラはこういう子だったなと思い出し、少し緩んだ顔を元に戻しながら話を続ける。
「アキラ? こういう事は人に見られたら恥ずかしいから…. その… 」「うッ!? くぅ~~ッ…」
 恥ずかしいという言葉に反応したアキラがゆでダコのように赤くなる。頭から湯気が出そうだ。 
 ガバッと手元にあった布団を頭から被り、ベッドの上でのたうちまわっている。
 そんなに恥ずかしいなら、やらなきゃいいのに…
 のたうちまわっているアキラをそのままにして、こっそりと入り口から見えない角度でベッドを抜け出し、ドアの隙間に近付いていく。
『ちぇッ、キスしないのかよ! あそこまでいったらもう思う存分やっちゃえばいいのに、お兄ちゃんほんと情けないんだから!』
『でも、愛美ちゃん? この後も何があるかわかりませんよ、 夜はまだこれからなんですから!』
 俺はゆっくりドアを内側に引き、こそこそと中を覗いている2人に、真正面からご対面する。
「「あ、」」
 その場に一瞬の静寂が流れる。
「お、お兄ちゃん? どうしたの、こんな時間に…」「あら、勇志さん? 今晩は~、きっ、奇遇ですね、こんな時間に…」
 2人とも完全に目が泳いでやがらぁ。
「随分と楽しそうなことしてるじゃないの? お二人さん」
「な、何のことだかさっぱりだよ、お兄ちゃん」「そそ、そうですよ~、私たちのことは気にせず続きをどうぞ!」「「どうぞ、どうぞ」」
「しらばっくれた上に、まだ続きをやらせる気かッ!?」
 そんな悪い子にはお仕置きですよ! 愛美の頬っぺたを両手で摘み、縦へ横へと伸ばして引っ張る。
「いとぅわぃ、いとぅわぃ! ふぉひぃ~ちゃん、ごふぇんなしゅあ~ぃ」
「わかればよろしい。とりあえずあそこで丸まってるアキラを引き取ってくれないか? 俺はもう寝る」
「えーとね、お兄ちゃん残念なお知らせです」「はい?」
「私の部屋が狭いのはご存知ですよね?」「俺の部屋より広いよね?」
「そんな狭い私の部屋で、アキラさんとキアラさんに寝てもらうのは申し訳ないので…」「ねえ、俺の話聞いてた? あと、愛美が2人にベッドを譲ればいいんじゃないか?」
「そこで1人がお兄ちゃんの部屋で寝ることに決定しましたーッ!!」
「まあ、それで広々寝れるならいいか、じゃあ俺の部屋には愛美が…」「お兄ちゃんの部屋で寝るのはアキラさんに決まりましたーッ!!」
「はあッ!? 何で!?」「多数決でちゃんと決めました~!」
「じゃあ、俺は愛美に1票入れる!」「残念でした~、3人ともアキラさんに票を入れたから満場一致でーす」
「いや、おかしいだろ!? 本人が自分に1票入れてるから! もうそれ多数決でもなんでもないから!! ただの立候補だからッ!!」
「往生際が悪いよ、お兄ちゃん! もう決まったことなんだから、素直に言うこと聞く!」
「もし何か過ちが起こったらどうすんだよ!? 」
「その時はお兄ちゃんがしっかりと責任をとればいいんじゃない?」
「せッ、責任!?」
 責任って… 
…
……
………
「よーし、じゃあいってくるな!」「おう、いってらっしゃい! 頑張ってな」
 どこにでもある普通の一軒家、どこにでもいる普通の家族。少しだけ違うことは、この家の稼ぎ頭は夫ではなく妻の方だということくらいだ。
 俺はエプロンをした姿のまま、妻であるアキラを玄関まで見送る。それが毎日の日課である。
「ママ~、今日も仕事なの~?」
 俺の横にはまだ3歳になったばかりの娘が、眠い目をこすりながら母親に尋ねる。
「ごめんな。ママ、今日も仕事なんだ… パパと一緒に良い子にしてるんだぞ?」
「うん、僕良い子にしてる!」「ほら、『僕』じゃなくて『私』だろ? まったく誰に似たんだか」
 こんなにも母親似の可愛い女の子が自分のことを『僕』なんて言い出したときは、遺伝というのは恐ろしいものだなと思った。
 心なしか仕草や態度も、どことなく男の子みたいな雰囲気があるし、このまま性格まで似てしまわないか若干の不安はある。
「そろそろ行かないと! じゃあ行ってきます、アナタ」「いってらっしゃい、ハニー」
 子供の前だというのに『いってらっしゃい』のキスは欠かさない。唇と唇が少し触れ合うだけの短いキスだが、それだけでお互い愛情の確認がし合える。
「あーッ! ママだけズルいよ~。僕もパパとチューする~ッ!!」
「ダーメッ、パパのチューはママだけのものなの」
 駄々をこねる娘の頭を撫でながら、アキラは悪戯っぽく微笑む。きっと俺はアキラのこういう所に惚れたのかな…
 「夕方までには帰るから!」「おう、ママさんアイドル頑張ってな!」
「任せなさいッ!!」
 そう言って俺はアキラの姿が見えなくなるまで手を振って見送ったのだった…
…
……
………
「何を想像してたの?お兄ちゃん」「いや、責任を取った後のことをちょっとな…」
 もしアキラと結婚して家庭を持ったらということで簡単に妄想してみたが、どう考えても俺が養われてる姿しか想像が出来ないのはなんででしょうか?
「とにかく!アキラさんはお兄ちゃんの部屋で寝てもらうからね!?」
「いやちょっと待て! ちゃんと話し合おう!?」
「ちなみに来客用の布団はこっちで使ってるからお兄ちゃんの部屋の分はないからねー」「勇志さん、アキラちゃんをよろしくお願いしますね」
「一体何をよろしくするんですかねえ?ちょっと? ちょっとッ!! 」
 じゃあ愛美の部屋に戻ろうとする2人を追いかけようと前に出た瞬間、勢い良く閉められたドアに鼻をぶつけ、その場で小さくうずくまる。
「ぐふぉッ!!」
 くっそ~ッ… アキラと2人で寝ろなんて、愛美のやつ一体何を考えてるんだ?
 愛美とキアラがいなくなり、この場を異様なほどの静寂が包み込む。聞こえるのは時計の針が進む音と、俺の張り裂けそうな心臓の鼓動だけだった。
「ユーシ?」「おおお、おうッ! どうした!?」
 不意に後ろから掛けられた声に過剰に反応してしまい、何とも情けない声が出てしまった。
「ユーシが嫌なら私、床で寝ようか?」
 愛美とキアラに見られていたと知った時からずっと布団を被ったままのアキラが思いがけない提案がされる。
 だが、その提案を受け入れるほど俺は駄目な人間じゃない。
「別に嫌とか、そういう意味じゃないよ! それに女の子を床で寝かせて自分だけベッドで寝るなんて出来ない!」
 そう言って椅子の上に轢いてあったクッションを取り、丸めて枕代わりにして床に寝転がる。
「ダメだ、ユーシだけ床に寝るなんて! 私も床で寝るッ!!」
 俺が床で寝転がったのを見て、アキラもベッドから枕を抱えて飛び降り、俺の横で寝転がる。
「………」
 あれ? 何だろうこれ…. 何で2人して床に寝転がって、天井をボーッと見つめているのだろう…
 結局これじゃ意味ないんじゃ…
「なあユーシ? これなら2人でベッドで寝るのも変わらないんじゃないか?」
「奇遇だな、俺も同じことを考えていたところだ」
「じゃあベッド行こうか?」「そうだな」
 のそっと起き上がり、アキラに導かれるままベッドに入る。
「じゃあおやすみ、ユーシ」「おう、おやすみアキラ」
「………」
…
……
………
「いや、だから何でこうなった…?」
 たしか、アキラとキアラにはどこで寝てもらうかという話を愛美としていて、流石に男の部屋に寝かせるわけにはいかないと言うことで話がまとまり、2人とも愛美の部屋で寝てもらうことになったはずだ!
 俺はいつも通りに部屋に戻り、明日の支度を済ませ、ベッドに入ろうと布団をめくると、そこには何故かアキラがいた。
「えーっと… 一緒に寝るか、ユーシ?」
 愛美から借りたのであろうピンクの上下お揃いのパジャマを着て、悪戯っぽく顔を赤らめたアキラに、もう一度布団を掛け直す。
 「わッ!? ちょっとぉー!」
 まだだ、まだ間に合う!俺は何も悪いことはしていない!身の潔白を証明するため急いで部屋のドアに向かう。
 しかし、物凄いスピードで布団の中に引きずり込まれ、両手両足をアキラに抑えられてしまう。
「う、動けない…!? 一体何の真似だアキラ!!」「ごめん… でも、こうでもしないとユーシと2人っきりになれなかったから…」
「だからってこんな!?」「私って、どう… かな? 可愛い?」
「ええッ!? こんな上から押さえつけられている状況で何を言わせたいんだよ!?」
「可愛くない… かな…? これでもアイドルやってて、自身あったんだけどな…」
 何故か急に泣きそうな顔になったアキラに、何か言えることもなく…
「そりゃあ、まあ… か、可愛いよ…?」「ほんとッ!?」
「う、うん」「私もね、最初にユーシを見た時から、ずっとカッコいいなって思ってたんだ!」
「最初って、全国大会の時だよな? あれは本当に命が懸かってると思ってたから必死だったんだよ。ほら! スポーツでも何でも本気の奴って格好良いだろ? そんな感じでアキラも俺の事を勘違いしてるんだよ?」
「違う! …ううん、そうなのかもしれないな…」「わかってくれたか!」
「だから、もっとちゃんとユーシのこと知らないといけないよな!? だからもっと教えてくれ!」「ファーッ!?なぜそうなるッ!!」
 いやいやいやいや何をーッ!!?? こんな体勢で言われたらいけない事しか思い浮かびませんから!!
 俺のいけない想像の通り、アキラの顔が徐々に俺の顔に近付いて来る。
 その距離が20センチ程になったところで、スッと目を閉じて少しだけ唇を前へ突き出すような形になる。
「待って? ちょっと待って! 知りたいって言っても順序があるでしょ!? 」
「んと、ショートカット?」「ちゃんと知る気あるッ!?」
 10センチ、5センチ… ゆっくりと迫ってくるアキラの柔らかそうな唇から目が離せないまま、その時が訪れようとしている。
 もう… 駄目だ… さようなら俺の純情… さようなら俺のファーストキス…
「「キャ~ッ!!」」
 そんな、わざわざ俺の心の声を代弁してくれなくてもいいのに…って、あれ? ここには俺とアキラしかいないはず… まさか!?
 アキラから逃れるように身体を捻り、声のした方へ顔を向けると、部屋のドアの隙間からこちらを伺うキラキラした目が4つ輝やいていた。
 まあ誰なのかは見当はつくし、このまま見られ続けるのも何か嫌だな。
「アキラ? 気付いてると思うけど、見られてるよ? さっきから」「えッ!? そうなのか!?」
 気付いてなかったんですかーい!
 そういえばアキラはこういう子だったなと思い出し、少し緩んだ顔を元に戻しながら話を続ける。
「アキラ? こういう事は人に見られたら恥ずかしいから…. その… 」「うッ!? くぅ~~ッ…」
 恥ずかしいという言葉に反応したアキラがゆでダコのように赤くなる。頭から湯気が出そうだ。 
 ガバッと手元にあった布団を頭から被り、ベッドの上でのたうちまわっている。
 そんなに恥ずかしいなら、やらなきゃいいのに…
 のたうちまわっているアキラをそのままにして、こっそりと入り口から見えない角度でベッドを抜け出し、ドアの隙間に近付いていく。
『ちぇッ、キスしないのかよ! あそこまでいったらもう思う存分やっちゃえばいいのに、お兄ちゃんほんと情けないんだから!』
『でも、愛美ちゃん? この後も何があるかわかりませんよ、 夜はまだこれからなんですから!』
 俺はゆっくりドアを内側に引き、こそこそと中を覗いている2人に、真正面からご対面する。
「「あ、」」
 その場に一瞬の静寂が流れる。
「お、お兄ちゃん? どうしたの、こんな時間に…」「あら、勇志さん? 今晩は~、きっ、奇遇ですね、こんな時間に…」
 2人とも完全に目が泳いでやがらぁ。
「随分と楽しそうなことしてるじゃないの? お二人さん」
「な、何のことだかさっぱりだよ、お兄ちゃん」「そそ、そうですよ~、私たちのことは気にせず続きをどうぞ!」「「どうぞ、どうぞ」」
「しらばっくれた上に、まだ続きをやらせる気かッ!?」
 そんな悪い子にはお仕置きですよ! 愛美の頬っぺたを両手で摘み、縦へ横へと伸ばして引っ張る。
「いとぅわぃ、いとぅわぃ! ふぉひぃ~ちゃん、ごふぇんなしゅあ~ぃ」
「わかればよろしい。とりあえずあそこで丸まってるアキラを引き取ってくれないか? 俺はもう寝る」
「えーとね、お兄ちゃん残念なお知らせです」「はい?」
「私の部屋が狭いのはご存知ですよね?」「俺の部屋より広いよね?」
「そんな狭い私の部屋で、アキラさんとキアラさんに寝てもらうのは申し訳ないので…」「ねえ、俺の話聞いてた? あと、愛美が2人にベッドを譲ればいいんじゃないか?」
「そこで1人がお兄ちゃんの部屋で寝ることに決定しましたーッ!!」
「まあ、それで広々寝れるならいいか、じゃあ俺の部屋には愛美が…」「お兄ちゃんの部屋で寝るのはアキラさんに決まりましたーッ!!」
「はあッ!? 何で!?」「多数決でちゃんと決めました~!」
「じゃあ、俺は愛美に1票入れる!」「残念でした~、3人ともアキラさんに票を入れたから満場一致でーす」
「いや、おかしいだろ!? 本人が自分に1票入れてるから! もうそれ多数決でもなんでもないから!! ただの立候補だからッ!!」
「往生際が悪いよ、お兄ちゃん! もう決まったことなんだから、素直に言うこと聞く!」
「もし何か過ちが起こったらどうすんだよ!? 」
「その時はお兄ちゃんがしっかりと責任をとればいいんじゃない?」
「せッ、責任!?」
 責任って… 
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「よーし、じゃあいってくるな!」「おう、いってらっしゃい! 頑張ってな」
 どこにでもある普通の一軒家、どこにでもいる普通の家族。少しだけ違うことは、この家の稼ぎ頭は夫ではなく妻の方だということくらいだ。
 俺はエプロンをした姿のまま、妻であるアキラを玄関まで見送る。それが毎日の日課である。
「ママ~、今日も仕事なの~?」
 俺の横にはまだ3歳になったばかりの娘が、眠い目をこすりながら母親に尋ねる。
「ごめんな。ママ、今日も仕事なんだ… パパと一緒に良い子にしてるんだぞ?」
「うん、僕良い子にしてる!」「ほら、『僕』じゃなくて『私』だろ? まったく誰に似たんだか」
 こんなにも母親似の可愛い女の子が自分のことを『僕』なんて言い出したときは、遺伝というのは恐ろしいものだなと思った。
 心なしか仕草や態度も、どことなく男の子みたいな雰囲気があるし、このまま性格まで似てしまわないか若干の不安はある。
「そろそろ行かないと! じゃあ行ってきます、アナタ」「いってらっしゃい、ハニー」
 子供の前だというのに『いってらっしゃい』のキスは欠かさない。唇と唇が少し触れ合うだけの短いキスだが、それだけでお互い愛情の確認がし合える。
「あーッ! ママだけズルいよ~。僕もパパとチューする~ッ!!」
「ダーメッ、パパのチューはママだけのものなの」
 駄々をこねる娘の頭を撫でながら、アキラは悪戯っぽく微笑む。きっと俺はアキラのこういう所に惚れたのかな…
 「夕方までには帰るから!」「おう、ママさんアイドル頑張ってな!」
「任せなさいッ!!」
 そう言って俺はアキラの姿が見えなくなるまで手を振って見送ったのだった…
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……
………
「何を想像してたの?お兄ちゃん」「いや、責任を取った後のことをちょっとな…」
 もしアキラと結婚して家庭を持ったらということで簡単に妄想してみたが、どう考えても俺が養われてる姿しか想像が出来ないのはなんででしょうか?
「とにかく!アキラさんはお兄ちゃんの部屋で寝てもらうからね!?」
「いやちょっと待て! ちゃんと話し合おう!?」
「ちなみに来客用の布団はこっちで使ってるからお兄ちゃんの部屋の分はないからねー」「勇志さん、アキラちゃんをよろしくお願いしますね」
「一体何をよろしくするんですかねえ?ちょっと? ちょっとッ!! 」
 じゃあ愛美の部屋に戻ろうとする2人を追いかけようと前に出た瞬間、勢い良く閉められたドアに鼻をぶつけ、その場で小さくうずくまる。
「ぐふぉッ!!」
 くっそ~ッ… アキラと2人で寝ろなんて、愛美のやつ一体何を考えてるんだ?
 愛美とキアラがいなくなり、この場を異様なほどの静寂が包み込む。聞こえるのは時計の針が進む音と、俺の張り裂けそうな心臓の鼓動だけだった。
「ユーシ?」「おおお、おうッ! どうした!?」
 不意に後ろから掛けられた声に過剰に反応してしまい、何とも情けない声が出てしまった。
「ユーシが嫌なら私、床で寝ようか?」
 愛美とキアラに見られていたと知った時からずっと布団を被ったままのアキラが思いがけない提案がされる。
 だが、その提案を受け入れるほど俺は駄目な人間じゃない。
「別に嫌とか、そういう意味じゃないよ! それに女の子を床で寝かせて自分だけベッドで寝るなんて出来ない!」
 そう言って椅子の上に轢いてあったクッションを取り、丸めて枕代わりにして床に寝転がる。
「ダメだ、ユーシだけ床に寝るなんて! 私も床で寝るッ!!」
 俺が床で寝転がったのを見て、アキラもベッドから枕を抱えて飛び降り、俺の横で寝転がる。
「………」
 あれ? 何だろうこれ…. 何で2人して床に寝転がって、天井をボーッと見つめているのだろう…
 結局これじゃ意味ないんじゃ…
「なあユーシ? これなら2人でベッドで寝るのも変わらないんじゃないか?」
「奇遇だな、俺も同じことを考えていたところだ」
「じゃあベッド行こうか?」「そうだな」
 のそっと起き上がり、アキラに導かれるままベッドに入る。
「じゃあおやすみ、ユーシ」「おう、おやすみアキラ」
「………」
…
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「いや、だから何でこうなった…?」
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