マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔を出すの? 出さないの? いえ両方です 9

 まったくあの野郎、途中からやりたい放題やりやがって! 俺が来なかったらどうするつもりだったんだ、まったく!
 とにかくバレる前にキアラから偽者のユウを引き離さねば…

「ユウさん、こんな所にいたんですか!? 探しましたよ~、kira☆kiraのお2人はこれからリハですから、ユウさんはご自分の控え室にお戻りください」
「もう少しゆっくりしていっちゃダメですかー?」「駄目です、お戻りください!」
「えー」「ささッ! ユウさん、こちらですよー!」

 そういって強引にガップレのユウ、正確にはユウのお面を被った偽物の腕を引っ張って控え室の外に押し出した。

「アキラさん、キアラさんすいませんでした。ちょっとユウさんを控え室に連れて行ってからまた迎えに来ますので、もう少し待っててくださいね!」
「あ、うん… ありがと」「では、失礼しました!」

 kira☆kiraの控え室を出た後、廊下を進み、人気のない場所までユウのお面を被った偽物を連れて行く。
 どうやらkira☆kiraの2人にはバレなかったみたいだが、見ているこっちは寿命が縮む思いだった。

「勇志くんの真似、なかなか上手じゃなかった? 僕、才能あるかも」

 そう言ってお面を脱いだ偽物は、Godly Placeベースのヨシヤこと、山崎義也だ。
 お面をかぶることに慣れていないからか、少し火照ったその顔は、まるで一仕事終えたような清々しい表情をしていた。

「言われてみれば、確かに声とかそっくりだったけど… って、そうじゃない! 最後の方はそのまんまお前のいつもの行動だったじゃねぇかッ!」

 そう言いながら、義也の額を軽く中指で弾く。

「あ、痛~い! でも、これで勇志くんとユウくんは別人だって印象付けられたでしょ? これで明日の学園祭も行動しやすくなったはずだよ」

 デコピンされた額を摩りながら、義也が口を尖らせて説明する。

「だとしても、もうちょっとやり方ってもんがだな… 」
「まあまあ、勇志くんはアリバイができたし、僕は楽しかった、それでいいじゃない!」
「おい、今なんて言った?」
「ほらほら、早く戻らないと怪しまれるよ? せっかくアリバイ作ったんだから有効に使わないと!」
「… わかった、また後でな」

 色々と腑に落ちないことはあったが、義也と別れkira☆kiraの控え室に戻ると、廊下の辺りでウロウロしているアキラを見つけた。

「アキラさん、 駄目じゃないですか、勝手に控え室から出てきたら! 」

 控え室の前の廊下をウロウロしていたアキラを見つけ、すぐに声を掛ける。

「だって、ユーシが遅いから探しに行こうと思って…」「生徒の中には熱狂的なファンもいるんですから、もっと気を付けてくれないと」
「…ゴメン、でも私のこと心配してくれたんだ、ちょっと嬉しいな…」「なッ!?」

 さっきまで鬼の形相で俺のお面を被った義也を怒っていたのに、今は顔を火照らせて上目遣いで男心をくすぐる台詞をサラリと言ってくるなんて…
 くッ! 惑わされるな!! 今まで散々酷い目に遭ってきただろ!? こうやって世の男たちをたぶらかしているに違いないのだ!

「ゴホンッ! と、とにかく会場に移動しましょうッ!!」

 控え室にいたキアラに声を掛け、3人で会場へ向かった。
 道中、握手やサインを強請る生徒たちから2人を守りながら、何とか会場に入ることができた。
 流石に全方位囲まれた時は死を覚悟したが、早めにインカムで生徒会と風紀委員に応援を呼んでいたため、最悪のケースは間逃れた。
 一応、会場内は関係者以外立ち入り禁止のため、一般の生徒は立ち入りができない。ここまで来ればとりあえずkira☆kiraの2人が再び生徒たちに囲まれる心配はないだろう。

「2人とも大丈夫でしか? 怪我とかしてない?」「はい、おかげさまで」「ありがとな… その… 守ってくれて」

 ぐふッ! アキラは一体いつまでこの調子なんだ!? このままじゃ俺のライフポイントがもたなそうだ。
 踏まれ、蹴られ、罵声を浴びせられながらkira☆kiraの2人を案内した場所は、ゲストステージとなっている体育館だ。
 いつも放課後になれば生徒たちが汗水流して部活動に勤しむ体育館は、今日と明日だけは色取り取りの照明と大きな音響システムが設置された、それは見事なコンサートステージになっていた。
 例年はこんなに華やかな舞台ではなく、殆どの機材がkira☆kiraの所属するスターエッグプロダクションの持ち込みによって、こんなにもザ・コンサートステージになっているらしい。
 その機材を借りてGodly Placeも演奏させて頂けるというので、本当にありがたい話だ。マリーちゃん、ありがとうございまーす。

「おッ、勇志やっと来たか! 遅かったな」「げッ!?」

 いつもの調子と変わらぬ爽やかスマイルを振りまきながら、近付いて来たのは林田真純、ガップレのマシュだ。
 普段なら何てことないのだが、今は後ろにkira☆kiraの2人がいる。相変わらずの天然を炸裂させて、余計なことを口走らないでくれよ?

「げッ!? とは何だ、げッ!?とは~」「すまん、つい驚いてな」
「勇志はもうリハの準備はできたのか?」「バカッ!? 今はやめろー? 周りをよく見ろ!」

 いきなり真純は、俺とガップレが結び付いてしまいそうなことをサラリと言ってくる。

「あら? kira☆kiraの… ごめんごめん、気付かなかったよ」「とにかく、そういうことだからここは大人しくどっかに… ってあれ?」

 今の今まで目の前にいた真純が消えた?いったいどこにいった?

「久しぶり!アキラ、キアラ。相変わらず元気そうだね」「ばーろーッ!!」
 いつの間にか俺の背後に回って、馴れ馴れしくアキラとキアラに挨拶をしている真純の首根っこを掴む。
 何が久しぶりだ!? お前は今はガップレのマシュじゃないんだぞッ!!

「ん? どっかで会ったことあったっけか?」「ごめんない… 私、覚えてなくて… そのどちら様でしょうか?」
「あ、そっか、俺今はお面…」「だぁあああ!! ごめんなさいねー!! この子、kira☆kiraの大ファンで、いつもテレビの向こうで会ってるからって馴れ馴れしくなっちゃってねー!! すぐどっか連れて行きますからッ!!」
「あはは… はーい、嬉しいです….」「あ、明日ライブ見てくれよな~!」

 その場しのぎの言葉を並べ、何とか真純を2人から遠ざけることができた。

「いろんな人がいるんですね…」「そうだな」「ああいうのは稀だから気にしなくていいです、ほんと」

 アキラとキアラには、まるで漫才のようなドタバタに巻き込んですまないと思うが、こればっかりは仕方ない。

「すみませーん、kira☆kiraさん立ち位置確認するのでスタンバイお願いしまーす!」「あ、はーい!」

 体育館の端に設置された音響エリアで、ステージ監督らしき人がこちらに向かってkira☆kiraの2人に指示を出している。

「じゃあユーシ、ちょっと行ってくるな」「わかりました、僕はステージ脇で待機してるので何かあったら呼んでください」

 元気良く駆け出したアキラを送り出し、俺もステージの脇へ移動しようと動き出す。

「ユーシッ!」

 振り返ろうと後ろを向いた瞬間、送り出したはずのアキラに左手を掴まれて少しよろめく。
 アキラに身体を支えられるようにして体勢を整え、お互い向き合うような形になる。そのままアキラの顔を見ると、真剣な顔で口を開き始めた。

「もう敬語で話すのはやめて、歳も違わないんだし、もっとちゃんと私のこと見てくれよ! アタシのこと知ってよ! お願いだから… 」

 話しながら、段々と悲しそうな顔をして俯いてしまうアキラ。
 まただ、また見たことのないアキラの顔だ。

「うん、わかった… ごめん…」「う、うん… こっちこそ、なんかごめん…」
「「…………」」
「ほら、アキラちゃん! 立ち位置について、スタッフさんに怒られちゃうよ!?」「う、うん!」

 俺とアキラの間に気不味い雰囲気が流れたのをキアラが敏感に反応して、助け舟を出してくれた。
 どうもデレているアキラに慣れなくて、こっちの調子が狂うんだよな。
 今も、ステージで立ち位置と動きの確認をしながら、舞台袖に立っている俺にチラチラと目線を向けてきている。
 こういう時にどうすればいいかわからない俺は、取り敢えず目が合ったら笑顔を作り、軽く手を振っていた。

「立ち位置と動きの確認は以上です。kira☆kiraさん、何か問題ありますか?」
「いえ、大丈夫です。よろしくお願いします!」
「はーい、ありがとうごさいます。それじゃ誰かテープ持ってない? kira☆kiraさんの立ち位置にテープ貼っといてくれる?」

 ステージ監督らしき人からの指示に誰も動こうとしない、運営スタッフも生徒の有志やボランティアを募っていたから何をすればいいか、分かってるやつの方が珍しいのだろう。

「誰もいないのか、しょうがねぇな…」「俺、持ってます!」

 腰に付けたポーチから白いテープを取り出し、ステージのkira☆kiraの立ち位置にバツ印を付けていく。それとは別に黄色のテープでマイクスタンドの位置、モニターの位置もわかりやすいように印を付けた。

「OKです、終わりました! 白が立ち位置、黄色が機材の位置です!」「そこまでやってくれるとは大したもんだ、ご苦労さん!ありがとな!!」

 体育館の端に設置された音響エリアから手を挙げるステージ監督に、俺も手を挙げ返す。
 まあ、普段からガップレのライブは自分で位置をマークするから、これくらい何てことないんだけどな。
 リハーサルを終えたアキラが一目散に俺の元に駆け寄ってくる。
 しかし、何だそのキラキラした目は!?

「凄いユーシ! なんでそんなこと出来るの!?」
「ああ、これは普段からよく… 」「ん?」
「よよよ、よくライブとか行くから、それで身に付いた知識だよ…?」「へー、凄いな!! ユーシは誰のライブによく行くんだ?」
「えッ!? えーと、Godly Place…」
「そうなんですか!? 勇志さんはGodly Placeのファンなんですかッ!?」

 目の前のアキラを押し退け、目をキラキラ輝かせたキアラが物凄く興奮した様子で俺の手を両手で握る。

「う、うん…!」「私も大ファンなんですよ~!! 嬉しいなー、ここにもガップレのファンがいるなんて…」

 キアラってガップレのファンだったのか? 本人の口から聞いたことなかったけど。
 それはそれとして、キアラに退かされたアキラがあからさまに不機嫌なお顔をしてらっしゃる。ここは1つフォローを入れておこう。

「も、もちろんkira☆kiraも大好きだよ!?」「えッ!?そ、そうなのか、ありがと…」

 えーッ!? 何このツンデレ、いやもうツンもなくてただのデレだわ。
 このスーパーデレ状態のアキラはいちいち可愛いくて、不覚にもドキッとしてしまうのが恐ろしい、伊達にスーパーアイドルkira☆kiraなだけはあるな…
 いかん!落ち着け、ここは冷静に振る舞うのだ。

「これでリハは終了なんで、また明日ステージの時間に間に合うように来てくれれば大丈夫です。そういえばいつからかkira☆kiraのスタッフの方々が見えないけど、今日はどうやって帰るの?」

 いつの間にか居なくなっていた、SPの人たちとマネージャーを探すように辺りをキョロキョロしながらアキラに尋ねる。

「あれ?生徒会長のレイカって人から聞いてないのか?」「へ、会長? いや、何も…」
「今日私ら、ユーシの家に泊めてもらうことになってるんだけど」「え゛ーーッ!!??」

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