マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔出し中は好きにやらせていただく 21

「この声は… まさか、郷田宏人…!?」「そうだ」
「俺に夢と希望を奪われた? 一体何のことだ!?」
「君のその無自覚が人を傷付ける、覚えておくといい」

  一体何なんだ!? 俺が郷田に何をしたって言うんだ!? 全く訳がわからない!
 それに郷田と会話をしながらいろいろ試しているが、先程まで通信が繋がっていたはずのミスター・サムライとノエルに連絡が取れない。

「無駄だよ、私はシステム権限でこの通信を君と私だけに繋いでいる」
「何でもお見通しか?」「何でもというわけではないよ、それはフェアではない」
「システム権限を使っているやつがよく言う!」
「まあ落ち着け、私が君なら少しでも冷静になって、私から何かしらの情報を聞き出そうとするがね」

  郷田との会話からしても俺1人と通信をしていることは間違いないだろう。 しかしなぜ郷田は俺に通信を繋げてきた? 疑問は山ほどあるが、今は郷田の言う通り少しでも情報を聞き出したい。

「フィードバックシステムを導入したのは本当なのか?」
「本当だ、だが君の知っているものとはまるで別の新しいシステムとして生まれ変わっている」
「新しいシステム?」「それは君が身を持ってすでに体験しているはずだよ?」」
「答えになってない!」
「君の質問に答えると約束した覚えはないよ。そうだ、代わりに良いことを教えてあげよう。unknownは人間が大好物なんだ、さっきの2人は飛び切りのご馳走だったことだろう」
「2人は無事なのか?」「もちろん身体は至って健康だよ? ただ、『無事』という言葉の定義は人によって異なり、考え方に相違がある」
「協力プレイを始める前と変わりないか!?」「それはどうかな? 2人は知ってしまったんだよ、真の『絶望』を… 」
「真の絶望だと!?」
「そうだ… 私はね、ずっと君に味わいさせてあげたかったのだよ! 真の『絶望』を!! だからわざわざこんな大舞台まで用意してあげたんだ!!」
「協力プレイそのものが俺への復讐だって言うのか!?」
「精々、最後まで足掻いて私を楽しませてくれ」

 その言葉を最後に郷田との通信が途絶えた。
 くそッ! 最初から郷田は俺に情報を教える気なんてない、ただ俺に宣戦布告をする為だけに通信をしてきたんだ!

「… 長!? 隊長! 聞こえますか!?」「ノエルか?」
「隊長!? 良かった無事だったんですね、急に通信が途絶えたので心配したんですよ?」
「すまない、状況はどうなってる?」「チーム4は隊長以外、全員第2防衛ラインまで後退しました」
「俺もすぐに着く、敵の動きは?」「長距離レーダーに敵影はありません、歩美さんも敵影は確認できないようですから、暫くは大丈夫かと」
「了解、他のチームからの連絡は?」「チーム1とチーム2はまだ交戦中のようです。チーム3は敵が出現せず、チーム1の援護に向かったようです」
「わかった、ありがとうノエル」

 ノエルと通信している間に第2次防衛ラインに到着し、チーム4のメンバーたちと合流する。
 ざっと周りを確認してみたが、どうやら全員無事に撤退できたみたいだな。

「勇志!? 良かった無事だったのね」

 俺が到着すると1番に歩美が声を掛けてくる。
「すまない、遅くなった」
「それは良いんだけど… 」「どうした、何かあったのか?」
「みんなさっきのを見て不安になっちゃって、お互いに言い争いにまでなって… 」
  西野に言われ、改めてチームを見回すと、今にもドンパチを繰り広げそうな機体がある。
 それもそうだろう、ゲームだと思って楽しんでいたら、いきなり目の前で仲間が痛み、苦しみながら敵に喰われてしまったのだから。
 だからといって、このまま味方同士で争っている暇はない。今こうしている間にも敵は確実にこちらに向かって歩みを進めているはずだ。

「全員聞いてくれ!」

 オープン回線を開き、チーム4全員に隊長として話しかける。

「いきなりこんな状況になってしまい混乱していると思う、だが一つ確実に言えることはunknownは人を喰らうという事実だ」「う… 」

 再びunknownが捕食している生々しい光景を思い出してしまったのか餌付いている者もいるようだが、構わず話を続ける。

「そしてフィードバックシステムが導入されていて、脳が痛みを現実のものとして認識してしまうんだ…」
「だからあの2人は痛みを感じていたんだな! 確かに痛みを感じるのは御免だが、それでもゲームオーバーになればそれで終わりだろ? なら痛みを感じる前に死んじまえばいい!!」
「駄目だ! ここで死んだらその痛みがフィードバックするんだぞ!?」
  やっと理解できたと言わんばかりにロックが声を上げるが、死んでしまったら駄目なんだ。

「おい、ちょっと待て? つまりどういう事だよ!?」
「… ここで死んだら、現実でも死んでしまうかも知れないんだ! 」
 「「「…………… 」」」

 誰もがその言葉の意味を理解し絶句する。ここでの命は死に戻りも復活もない、本当の命を賭けることになる。

「で、でもどうして勇志がそんな事を知ってるの!?」

 暫く沈黙が続いた後、歩美から疑問が投げかけられる。確かに、俺がここまで知っていることは誰であれ疑問に思うことだろう。
 信じてくれるかどうかは別として、奴のことを話さない訳にもいかないか。

「郷田宏人だ、奴から通信が来た」「本当なのか?」

 ロックが当然の様にその話の真偽を問う。 

「証拠はない、けど信じてほしい… 」
「先程、隊長がミスター・サムライさんとの通信中に突然回線が途絶えました。おそらくその時に外部からの接触があったのかも知れません」

 証拠はなく信じてくれとしか言えない俺を庇うように、ノエルがその時の状況をみんなに説明してくれた。
 そのおかげでみんなも俺が郷田と接触したことも含め、俺の話を信じてくれたようだ。

「つまるところ、私たちは本当の命を賭けて戦わないといけないってわけね」

 西野が簡単に話を纏めるが、文句のつけようがないほどシンプルで分かりやすい。
 「勝利条件は敵の全滅、あるいは敵のボスの撃破、敗北条件はプレイヤーの全滅のみでタイムアップはなし」
「最初からやる気満々ってことだったのかよ!」

 誰かがこの協力プレイのルールを思い出し、最初からそのルールに全員の命を賭けてもらうというニュアンスを読み取り怒りを露わにする。

「しかもアイツら倒してもすぐ復活するし、どうやって戦えばいいのよ!?」

 西野の言う通り、問題はunknownの復活だ。先の戦闘からしてもunknown単体の戦闘能力は大したことはないが、倒しても倒しても倒せないのなら、こちらが圧倒的に不利になるのは目に見えている。

「ノエル、さっきのunknownが2人を襲っている時の映像って出せるか?」「はい… ですが隊長… 」
「ちょっと勇志!?」「わかってる、どうしても必要なことなんだ!」
「わかりました、映像メインモニターに出します」

 メインモニターの映像には2人の機体が復活したunknownに囲まれるところから再生が始まり、見る見るうちに2人の機体が破壊されていく。
 俺の記憶が正しければ、この時に少し気になったことがあった。

「止めてくれ」「これがどうしたのよ!?」

 一見しておかしなところは見当たらないため、西野が食って掛かってくる。

「ノエル、unknownの足元にもう少し映像をズームできるか?」「やってみます」
「もう少し左に… ストップ! みんなこれが見えるか?」

 2人の機体がunknownに取り囲まれてほとんどよく見えなくなっている中、映像はunknownらの足元の少し左側をズームして停止している。

「これって言われてもunknownの足でしょ?」「他には?」
「他にはって、少しわかりづらいけど倒れてるunknownかしら? これがどうしたって言うのよ?」
「まさか…?」「ああ、突破口があるかも知れない」

 勘の鋭いやつらが何人か気付いたようだ。そう、この倒れてるunknownが攻略の鍵になるかもしれない。

「だから何なのよ!? 誰か私にも分かるように説明してッ!!」

 周りの仲間たちが次々に鍵に気付く中、1人だけ取り残されそうになった西野が痺れを切らして大声を出す。

「倒したunknownの復活は倒した順番によって若干違うが、ほぼ時間差なく全部復活していただろ? そしてこの映像は最後の機体が復活してから、ある程度時間が経過しているんだ」
「じゃあこの倒れてる奴は… 」
「何らかの理由で復活できなかった」「つまり不死身じゃないってことだな!」

 ロックもやっと分かったという気持ちを抑えられず、俺の言葉にかぶせる様に大声を上げる。

「そうだ、敵にも弱点がある。おそらくあの赤い球体、あれがunknownのコアなんだと思う」

 unknownはあの赤い球体以外は全て白い液の様な物体で構成されていた。そこに目の様なものが浮かび上がったことも考えると弱点である可能性は非常に高い。
 この映像の中で倒れてるunknownもはっきりとはわからないがコアの部分が潰れているように見える。

「じゃあそのコアを潰せば… 」「奴らを倒せるかもしれない」
「そうとわかったら今すぐ倒しに行きましょう!!」
「駄目だ、まだ確実じゃない! 倒れてるunknownのコアは壊れていたが、もしかしたらそれ以外の要因があったのかもしれない!」
「じゃあどうするんだ!?」
「敵は今、旧市街地を進んでこちらに向かって来ているはずだ、旧市街地なら索敵は難しくなり遠距離射撃もし難い、だが弱点がコアなら1体ずつ確実に敵を倒すことができるエリアでもある」

 それに、もしこの市街地を抜けた先の第2防衛ラインを突破されたら補給エリアは目と鼻の先だ。
 何としてもここでチーム4に割り当てられたエリアの敵は食い止めたい。

「全員小隊ごと旧市街地に突入! 歩美は旧市街地の西の丘から超遠距離射撃でコアを狙い撃ちしてくれ、それが戦闘開始の合図だ!」
「わかったわ!」「おうさ!やってやろうぜッ!!」「私たちならできるよね、勇志?」
「歩美、心配いらないよ。どんなことがあっても歩美だけは必ず俺が守るから」「うん… 信じてるよ、勇志」

「ご、ゴホンッ!  そ、その私のことは守ってくれないのかなーっ?」「お、おう! もちろん西野も俺が守るよ!?」
「何で疑問系なのよッ!? このバカーッ!!」「わッ!? ごめんごめん!ごめんなさーいッ!!」

 西野はこんな状況だってのに全然変わらないな、まあそれが西野の良いところなんだろう。
 それに、おかげで緊張もほぐれた。1人じゃないってのも悪くないな。
 どんなに絶望的な状況でも仲間がいればきっと乗り越えられる。
 俺は、俺たちはアンタの思い通りにはならないぞ、郷田宏人!!

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