マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔出し中は好きにやらせていただく 20

「さて、各プレイヤーたちが発進し、それぞれ予定のポイントへ移動している間に、会場の皆様にはここで今回の協力プレイのルールを説明しましょう!」

 女性司会者ステージの両端のモニターには、プレイヤーたちのゲーム中の画面がランダムに映し出されているが、ステージ中央のメインスクリーンには大会のルールが大きく表示される。

「ーー つまり、プレイヤーたちは全員で協力して、待ち受けるボスを撃破すればプレイヤー側の勝利になりますが、全滅してしまえば、CPU側の勝利となり、今大会の優勝者はなしということになります!」

 かなり、シビアな条件に会場内にどよめきが起こる。
 「そして、この協力プレイの1番の目玉は! 何と言っても協力プレイのみに実装された『フィードバックシステム』です! このシステムの説明は、システムの設計者でもある郷田宏人氏に解説していただきましょう!!」
「ありがとうございます。 さて、このフィードバックシステムですが、丁度今、全プレイヤーたちのリーダーに任命されたミスターサムライくんと、第1回大会の優勝者の入月勇志くんが丁寧に説明してくれているので、そのライブ映像をメインスクリーンに出してくれますか?」

 直ぐに、メインスクリーンがミスターサムライと入月勇志の通信画面に切り替わる。

『調子はどうだ入月青年?』『調子ね、良過ぎて困ってるくらいだ。機体のレスポンスがいつもより良いし、振動の感じ方がまるで本当に身体で感じているような感覚がある』

「この感覚こそが『フィードバックシステム』の特徴で、脳に直接電気信号を送ることによって五感情報を生成します。それにより、実際に自分自身が体験しているかのような感覚をリアルに味わうことができるのです」

『脳に直接信号を送って五感情報を生成するんだっけか? フルダイブの時代が間近に迫った!とか、ネットで騒がれたやつだったよな? でも確か、あの後急に開発中止になったんじゃなかったか? 』
『そう、重大な欠陥が発見され開発中止になったんだ』『重大な欠陥?』

「開発中止になったのは全くの虚偽です。実際はシステムの最終調整を行っており、それにかなりの時間を費やしてしまったためです。彼らのこの後の話は、この大会を盛り上げるために予め用意していた設定、つまり“嘘”ですので、皆様には間違っても信じてしまわないようにご注意をお願いします」

『ーー このゲームの設定上、機体とプレイヤーの互換性はないはずだ。だが、もしプレイヤーが戦闘不能、つまり死亡した場合、フィードバックシステムで人体に受けるダメージは想像を絶することになるだろう… 』
『死ぬ… ってことなんだろ?』
『…… 最悪の場合の話だ。 しかし、やりようはある… 』

「かなりキナ臭い雰囲気になって来ましたね。いやまさか、ここまで誤解されてしまうとは… 」

 自分でそう思わせるように仕組んで置いて白々しく演技をする郷田。

「では、ここで正体不明の敵『unknown』について説明したいと思っていたのですが、どうやら早速プレイヤーたちが敵とエンカウントしたようですね… unknownとの戦いの中で、ちょっとしたデモンストレーションも用意していますので、まずはそちらからご覧下さい… 」

 

 ☆




 ミスターサムライとの通信が終わる頃には、ちょうど予定のポイントに到着していて、チーム毎に散開してから辺りの索敵を指示した。
 旧市街地の先、荒野の手前の見晴らしが良いポイントが第一次防衛ラインだ。
 ここで敵を待ち構え、足止めしながらボスの索敵を行う手筈になっている。

「チーム1、配置に着いた、敵影なし」「チーム3、こちらも位置に着いたっス」「チーム2も配置完了です、敵影もありません」
「チーム4も配置に着いた、敵影は… 待ってくれ! 何か見える!! 」

 地平線の先に白い影のようなものが揺らついている。
 草や木も生えていない荒野で、その白い影の存在はただ違和感でしかない。

「歩美、見えるか?」

 超遠距離射撃タイプの歩美の機体なら、俺の機体よりかなり遠くまで視認できるはずだ。

「白い人影みたいなのが3… 4… 待ってどんどん増えてく! 真っ直ぐこっちに向かってくるわ!!」
「どうやらここが当たりみたいだ! 全員、射撃武装をいつでも撃てるように構えろ!」

「こちらチーム2、こちらも敵を発見しました、迎撃態勢に移行します!」
「チーム3は未だ敵影ないっスよ!」
「チーム1も敵影を見つけた、戦闘態勢に移行する」

「隊長! 待ってないでこっちから仕掛けようぜ!?」「サムライのやつ、美味しいとこ持ってこうってのがバレバレなんだよなー!」

 同じチームのメンバー2人が敵を待ち伏せることに反対のようで、今すぐにでも飛び出してしまいそうな様子だ。

「敵がどんなやつかわからない以上迂闊には動けない、今は堪えてくれ」

 もし落とされたら、現実でも死んでしまうかもしれないとは言えず、それっぽいことを言って2人を宥める。

「ちッ、うちの隊長はチキン野郎だったのかよ」「ほんと情けねぇな!」
「ちょっとアンタたち!!」「西野! 今はいい、ありがとう」

 2人の態度に西野が噛み付こうとするのを止めるが、他のチームメンバーの中にも同じように思っている人もいるだろう。
 それに敵を前にして仲間割れなんてしていられない。
 ゲームなら笑い話にできるが、命の危険があるかもしれない今の状況じゃ全く笑えない。

「隊長! 敵がレーダーの索敵範囲内に入りました!」

 ノエルの言う通り、レーダーに敵が表示されるが、瞬く間にその数が増えていく。

「数が多い、20… いや30はいるな、ミドルレンジまで引き付けてから一斉攻撃で数を減らす! その後はまた指示を出すが、なるべく遠距離で仕留めてくれ!」
「「「了解!!」」」
「敵、肉眼で確認できますッ!」

 unknownと呼ばれているそれは白い人型の形をしていて、大きさはこちらの機体とほぼ同じ大きさくらいだろう。
 顔がなく表情も読み取れず、まるで棒人間のような見た目をしているが、歩くたびに身体が不規則に震えていて、かなり不気味だ。
 こちらが敵を肉眼で確認したのと同じく、敵もこちらを認識したようで、先頭を歩いていた個体が突然立ち止まると、後続もまるで命令があったかのようにその場ですべて立ち止まった。

「全員、まだ撃つなよ!」

 今にもトリガーを引いてしまいそうなチームを抑制し、相手の出方を伺う。
 すると、1番先頭に立っていた個体の胸の内側から、何か大きな丸い物体が1つ浮かび上がり顔に当たる部分へと移動すると、ボコッと音を立てて半分外へ出てくる。
 赤い丸い物体に大きな人間の目のようなものが浮かび上り、まるで俺たちを見渡すかのようにその目を動かすと、次の瞬間、この世のものとは思えない奇声を上げた。

「何よこれ!?」「今のは何だッ!?」

 奇声が終わると、すべてのunknownから先頭の個体と同じような赤い球体が出現していて、同じように目が見開かれる。
 そして、すべての敵が奇声を上げながらこちらに向かって猛スピードで突進を始めた。

「まだ撃つな! もっと引きつけろッ!!」

「ばーか! 待ってられないっての! 行くぞぉ!」「ひゃっほ~ぃ!!」

 先程こちらから仕掛けようと提案してきたメンバーが2人、俺の指示に背き敵に向かって突撃を仕掛ける。

「ダメだ!戻れ!!」

 俺の制止を無視し、1人は近距離専用のショットガンを撃ちながら、敵の部隊の左側へ攻めていき、もう1人は両腕に装備したビームサーベルで正面から向かってくる敵を次々となぎ倒していく。

「くそッ! 全員、防衛線を維持しながら2人の援護!!」
「あのバカ共、勝手に飛び出しやがって!」

 ロックも先に突っ走った2人に声を上げながら、バズーカ砲で援護するが、あの2人が邪魔で標準が定まらず、中々撃つことができないでいた。
しかし、突撃した2人は瞬く間に30近いunknownを倒し、斬り伏せたunknownを機体の足で蹴りながら笑い出し始めた。

「何だコイツら? 全然弱いじゃん!」「本当だな! それとも俺らが強過ぎんじゃないか!?」
「「あはははははッ!!」」
「倒したのか?」

 こんなに簡単に? いや!いくら何でも簡単過ぎる…. 

「え….?  隊長! おかしいです! レーダーからはまだ反応が消えていません!!」

 ノエルの言う通り、レーダーを確認すると、倒した筈のunknownからの反応が消えておらず、斬り伏せられた白い影が細かく振動しているのが見えた。
 「お前たち! 今すぐそこから離れろッ!!」
「は? 何言ってんの、アイツ?」

 こちらに気を取られ、一向に動こうとしない2人の後ろに、身体が半分に切り倒されたはずの敵がゆっくりと起き上り元の姿に再生すると、そのまま後ろを向いていた2人の機体に取り付くように襲いかかった。

「うわッ!? 何だコイツら、死なねぇのか!?」「復活するタイプかよ! クソッ!機体が動かねぇぇえ!!」

 見る見るうちに再生したunknownの大群に取り囲まれた2人の機体は、頭部と両腕、脚部を引き千切られ無残な姿へと変わっていく。

「こんな序盤でゲームオーバーかよ」「本当だな、マジつまんねぇ」

 自分の機体が損壊していく中、2人は冷静にゲーム感覚で話し合っている。
 しかし、ゲームオーバーになるどころか、一向に破壊をし続けるunknownに、2人もだんだんと冷静さを保てなくなってきていた。
  「な、なあ… これ何時になったらゲームオーバーになるんだ…?」「機体はもう滅茶苦茶なのになんで終わらねえんだよ!?」
「うぉ!? コクピットをこじ開けてきやがった! やッ、やけにリアルじゃね?」「本当だ、ちょーこえー…」
「おい、何だ? 何すんだよ!? やめろ! 止めてくれ!!」「あ゛ぁぁぁああああ!!!! 足が!!! 俺の足がぁぁああ!!」
「痛てぇぇええ!!! 何だよこれ!? ゲームじゃねぇのかよ!? 何でこんなに痛てぇんだよ!!??」
「やめ… て… 俺を喰わ… ないで… くれ… 」「助けてッ! 誰か助けてぐぅれぇええええええ!!!」

 オープン回線から伝わる生々しい音声を聞いた途端、瞬時に脳が全身に警報を鳴らす。
 心のどこかでこれはまだゲームなんだと思い込んでいた。
 「な… 何よあれ…?」「人を… 喰ってるのか!?」「痛いってどういうこと? 何で痛みを感じてるのよ!?」

 全員、目の前で繰り広げられている光景に身動きひとつできず、ただ余りにもゲームとはかけ離れた現状を必死に整理しようとしている。
 当然だ、事前に予想していた筈の俺だって頭の整理が追いつかない!
  くそッ! どうすればいい? 何をすればいい!?
 そうだ… あの2人を助けなきゃ…. 

「… 隊長? 隊長ッ!?」「待ってろ… 今助けに行く!!」

 デスゲイツのスラスターを全開にしunknownに向かって突撃しようとしたところをロックの機体に回り込まれ捕まってしまう。
「ダメだ隊長!!」「ロック!? 離せッ!! アイツらを助けなきゃ!!」
「もう手遅れだッ!! 2人はもう… 」「嘘だ!! お前達返事をしろ!!」
「………」
「そ… そんな…… 」

 俺がもっとちゃんとアイツらに言いつけていれば、こんなことにはならなかったんじゃないのか?
 もし戦闘前に、これはゲームじゃない可能性があることを話していれば、少なくともこんなことにはならなかったんじゃないのか!?

「俺のせいで… 俺のせいで2人は… 」
「しっかりしろ!勇志!!」「歩美…?」

 そうだ…. 今はまだ嘆いていられない。
 これ以上誰も死なせないために考えろ!行動しろ!頭をフル回転させるんだ!

「隊長! 敵が再びこちらに向かって来ます!!」
「全機!旧市街地を抜けて第二次防衛ラインまで撤退!! 西野とロックは遠距離射撃で撤退の援護を!」
「「了解!!」」

「よーしッ! お前らこれでも喰らいやがれ!!」

  ロックが両肩に装備しているミサイルランチャーを連射し、敵を爆散させていく。

「これ以上はやらせない!!」

 西野も機体の砲門を全て開放し、敵にビームの雨を降らせている。

「unknown、一時沈黙しました!」「よし、俺たちも撤退を開始する!」

 西野とロックの機体が旧市街地に入ったのを確認した後、荒野から旧市街地へ入る道を塞ぐようにビームサイズでビルを切り倒す。
 激しい轟音を立てながら道を塞ぐようにビルが倒れ、さらに土煙で視界まで遮断する。
 これで少しでも時間が稼げるはずだ。
 旧市街地を猛スピードで進みながら、安否確認を含め他のチームへの通信を試みる。

「チーム4から全チームへ…  チーム4から全チームへ、誰か聞こえるか!?」
「こちらチーム5だ、入月青年無事だったか!?」「俺は大丈夫だ、けど2人やられた… 」
「くッ… 」「しかも、ミスター・サムライの言う通りフィードバックシステムが導入されていたんだ… アイツらは… アイツらは生きたまま喰われる痛みを感じながら死んでいったッ!!」
「何ということだ…! しかし、入月青年、君の所為で … ー な… ー 」
「ミスター・サムライ? おい返事をしろッ!!」
「そう、その声が聞きたかったんだよ…!」

 突如、男の声がミスター・サムライとの通信に割り込んでくる。

「誰だ!? お前は!」「私は、かつて君に夢と希望を奪われた男だよ… 」

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