マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔出し中は好きにやらせていただく 15

「全国大会の会場ってこんなに広いのね! もっとこぢんまりしてるのかと思ってた」
「まあ、ゲームってどうしてもそういうイメージあるよな、個人的にはこぢんまりしてる方が落ち着くし」

 今日は戦場の友情全国大会本戦。
 本戦は都内のドーム1つを貸切にして大々的に行われる。
 観客動員数は毎年何万とか何十万人とか言っていた気がする。
 そのため、出店やカフェブース、各ゲーム会社の新作ゲームのプレイコーナーなどあったり、ちょっとしたお祭りみたいな感じになっている。
 予定より早く会場に着いた俺たちは、カフェブースの丸テーブルに3人並んで一息ついているところだった。
 今日、ここで俺たち大会参加者は全国の地区予選を勝ち抜いてきた50チーム、総勢150名で優勝を賭けて競い合うのだ。
 まあ正直なところ良いところまではいけても優勝は難しいだろう。
 ギルド『ナイツオブジオン』を始め、多くの強豪ギルドがこの大会に参加しているはずだからな。
  金も時間も情報力もある奴らに、いち高校生が戦って何とかなるような相手じゃないからな。

「それで今日のスケジュールはどんな感じだっけ?」

 隣に座っている西野が全員の飲み物が空になったタイミングで話を切り出す。
 会場に入る際、1チームに1つパンフレットを貰っていて、俺はそれを取り出しながら2人に説明をする。

 「確かメインステージで開会式があって、その後抽選で対戦相手が決まることになってるな」
 「じゃあ、そろそろメインステージに移動しましょうか」「そうだな、行くか」
「おや? 君はもしかして… 」

 テーブルのゴミをまとめ席を立とうとした時、通路を歩いていた男に声をかけられた。

「入月少年ではないか!?」「その独特なアイマスクをしているのは、ミスター・サムライか?」
  3倍速く動ける人のようなユニークなお面を付け、それっぽい格好をした熱いおっさん、それがこの人、『ミスター・サムライ』だ。

「久しぶりではないか入月少年!!いや、もう入月青年か、 それにしても第1回大会以来だな、今まで一体どこで何をしていたんだ?」
「ちょっと色々あって脱 厨二病したんだよ」「ほう、それはそれは、しかしここに居るということは大会に参加するという事なのだろう?」
「やむを得ない事情があってだな、まあ丁度いい、あんたもグリーンピースのない明日の為に力を貸してくれ」
「ちょっと勇志? 第1回大会って、第1回戦場の友情全国大会のこと?」
  途中まで大人しく聞いていた西野だったが、やはりそこの部分で食い付いてきて、話し中だというのに御構い無しに後ろから首を突っ込んでくる。

「おや、こちらの素敵なお嬢様は… 入月青年の彼女… 」「そんな彼女だなんて~~… やっぱりそう見えちゃうのかな~!?」

 いきなりモジモジし始めた西野をなだめるように歩美が冷静にミスター・サムライに説明を始める。

「私たち3人でチームを組んでいるんです、だから別にこの子は勇志の彼女とかじゃないですから」
「これは失礼をした、入月青年は両手に花でなんと羨ましい。申し遅れました、私、ミスター・サムライと申す。 かつて入月少年との戦いに敗れた古い自分と決別し、身も心も修羅と成り果てた男と、言ったところですかな」
「私は桐島歩美、こっちのモジモジしたのは西野莉奈です、なんか勇志がご迷惑をお掛けしたようで本当にごめんなさい」
「ちょっと待て、なんで俺が悪いみたいな感じになってんのかな?」「それより! 第1回全国大会に勇志は参加してたんですか!?」

 いつの間にかモジモジ状態が治った西野が、ミスター・サムライに詰め寄る。

「おや? 聞いていないのかい? 何を隠そうここにいる入月青年が第1回戦場の友情全国大会のチャンピオンだよ」「「え゛ーッ!!??」」
「そうは言っても2年も前の話だけどな」
「なんでそんな大事な話を私に言わなかったわけ!?」「だって聞かれなかったし、そんなに大事な話でもないだろ?」
「あの時、素人だと思って挑んだ相手がまさかチャンピオンだったなんて…  舐められてるって思って威張ってたのに、全然相手になってなかっただけだったのね… ふっ、フフフフフフ」

 あれ? 急に西野が遠い目をして、心ここに在らずみたいな…

「おーい! 西野ー?大丈夫かー? 悪かったって、その…あの時は厨二病全開で、かなりたちが悪かったからあんまり話したくなかったんだよ」

 返事がない、ただの屍のようだ。

「莉奈はもうダメかもしれないわね」

 歩美が諦めてしまうほど西野は心に大きなダメージを負ってしまったというのか!?

「お取り込み中悪いのだが、そろそろ開会式の時間ではないか?」

 ミスター・サムライが携帯の時間を確認しながら親切に俺たちに教えてくれる。

「そろそろ行かないとだな、また後でなミスター・サムライ」
「戦場で再び相見えることがあれば、今度こそ切捨てさせていただく! それではな、入月青年」

 ミスター・サムライは何回も練習したであろうカッコいい台詞を並べて去っていった。
 どうせまたすぐに会うだろうに、恥ずかしくないのかね。
 俺にもあんな黒歴史があったなんて、忘れたくても忘れられない過去だよ。
 俺たち3人もミスター・サムライの後を追うように開会式が行われるメインステージへ移動した。
 メインステージ前の客席は既に多くの観客でごった返しになっていて、その光景に少しばかりたじろいでしまう。
 本戦参加者専用の席が客席とは別に用意されているはずなので、手元のパンフレットで場所を確認しつつ、隅を回るように前へ向かい横から人混みを掻き分けて席へ向かった。

「皆さんこんにちわ! ようこそ第3回戦場の友情全国大会本戦へいっらしゃいました~!!」

 丁度、俺たちが席に着いたと同時にステージ中央に露出が多い衣装を着た司会者の女性が現れ開会式がスタートする。
 ステージの両脇に設置されている大型モニターにも中央にいる女性司会者が同時に映し出され、会場の1番後ろからでもステージの様子がよく分かるようになっているようだ。

「全国の地区予選を勝ち抜いてきた50チーム、総勢150名のプレイヤーたちが、ここスーパーアリーナに集い、たった1つの王座を掛けて競い合おうとしております!!」

 司会者の台詞に合わせ、ステージに1番近い席に座っているプレイヤー全員にスポットライトが当たる。

「ゲームの大会なのにこんな大掛かりにやるのね、ステージセットが私たちのライブ並みに豪華じゃない?」
  隣に座っている歩美が俺の耳元で呟く、今度は逆に俺が歩美の耳元に口を近付け話し掛ける。

「いつもはこんなに派手じゃないはずなんだけど、それにセットを見る限りゲームの実況というよりコンサートをするみたいな感じがしないか?」「確かにそうね、特別ゲストでも来るのかしら?」
 「それでは皆様、お待たせ致しました!」

 いきなり照明が暗転し、ピンスポットが司会者を照らすと、何やら聞き覚えのある曲が流れ始める。

「まさか… 嘘だろ… 」
「特別ゲストにこのお二人が駆けつけてくれました! 今をときめくスーパーアイドルユニット、『kira☆kira』のお二人です! お願いします!!」

 曲のイントロの間にバッチリとkira☆kiraの紹介を決めて司会者がステージ裏に下がるのと同時に、カラフルなライトに照らされてステージ中央からkira☆kiraの2人、アキラとキアラが歌いながら登場した。

「「ゲッ!?」」

 思わず隣の歩美とシンクロしてしまう。

「ちょっとッ!! あの2人が来るなんて聞いてないわよ!?」「俺だって聞いてないわ!」

 俺と歩美の焦りとは裏腹に、会場はkira☆kiraの登場に最高潮の盛り上がりを見せ、どうやって準備したのかサイリウムを取り出して降り出す観客が大勢いて、あっという間にこの会場はkira☆kiraのワンマンステージに早変わりしてしまった。

「うわ~~ッ! 見て勇志、歩美! kira☆kiraだよ!? あのスーパーアイドルのkira☆kiraだよ!! キャーッ!」

 そしてまたここにもkira☆kiraの登場にテンションが振り切ってしまったやつがいた。
 西野のやつ、さっきまで屍だったのに回復早いな、ほんと。

「とにかく、目立たないようにしましょう、いい?」「了解… 」

 あっという間に2曲ほど歌い終えたkira☆kiraがステージを見渡しながら挨拶をする。

「皆さんこんにちわ! 月島アキラと」「星野キアラです、2人合わせて… 」「「kira☆kiraです!」」

 息の合ったお決まりのポーズがバッチリ決まっている2人、ミニスカートが映えるお揃いの衣装もすごく似合っている。
 おそらくこの2人を映すためにステージの両脇に大型のモニターを用意したのだろう、それぞれがアップで映し出しされその表情までよく分かる。
 まさかアキラとキアラにガップレの活動外で会うとは思ってもなかったな。
 まあ、俺の方はガップレの時はお面被ってるし、よっぽどのことがない限りはバレないとは思うけど、歩美の方はよーく見たらバレるかもしれない。
 ここは大人しく空気になることに徹しよう。

「フォーイ!!kira☆kiraサイコ~~ッ!!! イェーイ!!!」

 そう心に誓った瞬間に真横から人一倍ハイテンションでkira☆kiraに声援を送るやつがいる。

「歩美、西野の暴走を止めてくれないか」「やめて話しかけないで、私今他人のフリしてるから」

 西野のやつkira☆kiraのファンだったのか? こんなにはしゃいでる姿は初めて見るぞ。
 いかん! かなり目立ってるぞ、早く西野を落ち着かせねば!

「おい西野! ちょっと落ち着けって!」「え~!? 何よー、せっかく盛り上がってたのにー!」
「かなり浮いてて恥ずかしいんだよ、ちょっと落ち着こう、な?」「しょーがないなー」

 ふぅ、何とか西野をなだめることができたぞ、気を取り直してステージに目を向けると、アキラがMCをしている横でキアラがじーっと、こちらを見ているような気がする。

「ももももしかして、もしかしてバレた…?」「おおお、落ち着きなさい! ステージの上からじゃライトが強くて客席の人の顔なんてほとんど見えないから!」
「そそそ、そうだよなー! 俺らもライブの時、客席ほとんど見えないもんなー!」「ねえねえねえ! 勇志見た!? キアラが私のこと見てた! 私のことじーっと見てた!!」
「あー、はいはい、良かったねー」

 その後はキアラにじっと見られることなく開会式は終わった。
 抽選で初戦の対戦相手も決まったことだし、さっさと退場しよう。
  俺たち3人は初戦に備えて早めの昼食を取るために、先程のカフェブースに向かったのだった。

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