マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔出し中は好きにやらせていただく 10

 歩美のやつ、一体どういうつもりなんだ?
 ゲームなんてパズルゲームぐらいしかやったことなく、ゲーセンなんて指で数えるほどしか行ったことがないくせに、俺と西野と一緒に戦場の友情の大会に出るなんて言い出して本当に大丈夫なのだろうか?
 それに、何となくだが歩美に元気がないような気がする。
  歩美が大会に出ると言った後、すぐに喫茶店を後にし、近くのゲーセンに3人でやってきていた。
 小畑のやつは気持ち良さそうに昇天していたためそのまま置いてきた。
 今は歩美が戦場の友情のチュートリアルをプレイしているところだ。
 俺と西野は戦場の友情専用のライブモニターを通して歩美の様子を見ながら通信マイクでサポートをしていた。

「基本動作は今ので全部ね、後は機体の動きの特徴に合わせて基本動作を組み合わせることで、様々な動作が出来るから試してみて」「もう既に頭がパンクしそうなんですけど!」
「ほら次はCPUが出てくるから、ロックオンカーソルを合わせて射撃と格闘当ててみて」
「ロックオンカーソル? 射撃ボタンがこれで… あッ! 打っちゃった!」
「どーして立ってるだけの相手に射撃を当てられないのよッ!?」

 ライブモニターにはCPUの後方のビルが歩美の射撃によって綺麗に撃ち抜かれる光景が映し出されていた。

「まあまあ西野、歩美は初心者だし、そもそもゲーム自体あまりやらないんだからあんまり怒らないでやってくれよ」
「わかってるわよ! でもこれじゃあ大会に出たところで勝ち目なんてないわよ!?」
「だからそう言うなって… よし歩美、 一旦休憩にしよう」

 ゲーム機から出てきた歩美は少し青い顔をしていて、今にも力尽きて倒れてしまいそうだった。
 急いで駆け寄り、歩美を後ろから支えるようにして近くの長イスに座らせる。

「歩美、大丈夫か?」「ダメ… 酔った… 気持ち悪い… 」
「ちょっと待ってろ! すぐ水買ってくる!」

 歩美を西野に見ててもらい、俺はゲーセン入り口の自販機でペットボトルの水を買い、急いで戻り歩美に手渡す。

「はぁ… ちょっと落ち着いたわ、ありがとう… 」「なんか無理してないか、歩美?」

  歩美の隣に腰掛けながら尋ねる。

「無理… してないもん」

 歩美の方も俯いたまま答えるが、それが気分が悪いからなのか、それとも本当は無理しているのかはわからなかった。

「そっか… 」

 きっと歩美に何か思うことがあるのだろう、だから今はそれ以上は何も聞かないことにした。
 歩美を挟んで反対側に座る西野は何か言いたげな顔をしているが、ぐっと堪えているようだった。

「今日のところはこれくらいにして帰ろうか」「そうね、体壊してまですることもないしまた明日にしましょ! じゃあ私電車だから先行くわね」

 俺が提案するとすぐに西野がカバンを持って帰っていった。
 おそらく西野なりに気を使ってくれているのだろう、駅で愛美を助けてくれたりと根は優しいやつだからな。
 俺の方も立ち上がり、2人分のカバンを背負っていると、ポケットの携帯がメールの着信を告げる。
  新着メッセージが5件、うち4件はキアラのいつものメールだが1番新しいものは、たった今までここにいた西野からのものだった。

『件名なし:   歩美と話をつけときなさいよ! 私の方は無理にチームに入れるつもりはないから、2人で話し合って決めて』

  西野にもやっぱり歩美が無理しているように見えたのだろうか。

「歩美、帰れるか?」「うん」

 ゲーセンを後にして家路につく。今にも降り出しそうな空に歩くペースを速めたかったが、歩美のペースに合わせているため、いつもよりかなり時間が掛かっていた。
 いや、そう思っているだけで大して変わらないのかもしれない、ただ歩美がゲーセンの後から一言も話さないので、何となく暗くなってきた空模様と相まって、時間の進みまで重い気がするのだろう。
 いつもなら登下校の際は、学校の話やらガップレの話で歩美の話題が途切れることなどないのだが今日は違った。

「何も聞かないの?」

 いつの間にか俺より数歩後ろで立ち止まっていた歩美の呼び掛けに足を止める。

「えっと…  ちょっと太った?」「バカっ! とぼけないでよ、それに太ってないんだから!」「それは失礼いたしました」

 何となく話を紛らわそうとして余計な事を言ってしまったようだ。そんな態度の俺に呆れたのか、溜息をつきながら話しかける歩美。
 「私が急にゲームも出来ないのにチームに入るって言い出したことよ」
「それ、この前俺ん家で2人になった時に言ってたことと何か関係あるんじゃないか?」

 確信はない、けど何となくそんな気がした。

 『最近ずっと勇志が遠くにいる気がして…』『これからもずっと一緒だよね?』

 いつだか歩美が俺のベットの中に潜り込んできた時に言っていたことが、俺の心の中にずっと引っかかっていた。
 その次の日から歩美はいつも通りにに明るく振舞っていたから、俺の考え過ぎなんじゃないかと思っていたが、今日こうして無理してまでゲームをする姿を見て、あの時の歩美の姿とダブって見えた。  
「私はね、勇志にずっと必要とされてるって思ってたの、勇志は私がいなきゃ何にも出来ないんだって思ってた。それがいつの間にか勇志は人から頼られる存在になってて、どこでも活躍して、私から少しずつ離れていくのがわかって… 」
「歩美、お前… 」
「その時になって初めて私は、今まで勇志が私のことを必要としてるんじゃなくて、私が勇志を必要としていたんだって気付いたの!」

 とめどなく溢れ出てくる言葉の一つ一つが、紛れもなく歩美の本心で、いつも明るい笑顔の裏に隠していた気持ちなのだろうか。

「私はあの日からずっと ーー ……」

 歩美の言葉を遮るように急に降り出した雨に打たれ、真っ直ぐ俺を見つめるその瞳はまるで泣いているように見えた。

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