マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔出しNGの事情があるのです 17

「眠い…」

 全国高校バスケットボール大会地区予選会場、立花大付属高校は男子と女子の会場が同じため、大型バスを1台借りて、全部員と応援団の方々揃って学校からここまで来ていた。
 もちろん俺もそのバスに乗せてもらったのだが、昨日というか今朝というか、歩美の所為でほとんど寝れなかったので、絶不調この上ない状態だった。
 おまけにバス酔いしたかもしれん… 最悪だ…
 移動中は隣の席の真純の肩を借りて、ずっと休んでいたのだが、バスのエンジン音や騒音に敏感になってしまい、寝ることもできなかった。
 おまけに周りからは俺と真純を見て、やっぱりあの2人はできているだのなんだのヒソヒソ話が敏感になっている俺の耳に聞こえてきて、散々だった。

「おい、勇志大丈夫か? さっきより顔色悪くなってるぞ?」

 会場に到着すると真っ先に俺のことを心配してくれる真純。 こういうとき、こいつの優しさが骨身に染みる。
 それに比べ、俺を睡眠不足と過度のストレスを与えてくれた歩美も、愛美と一緒にバスに同乗していたが、女バスのメンバーたちと仲良くお話ししているようで、俺のことなんかこれっぽっちも心配している素振りもない。
  別にいいもん、別にいいもん。 心配してくれなくていいもん! 
「無理しないでダメな時は言ってくれよ、医務室でも病院でも連れててってやるから」「…… 真純、ありがとな〜… 」

 はあ〜ん!もう真純になら抱かれてもいいかな…
 って、落ち着けー!なんてことを考えているんだ俺は!?
 それほどまでに今の俺の状態は深刻だということなのか!!

「よーし、じゃあ男子バスケ部集合~!」

 小畑が珍しく部長らしいことをして部員たちを一箇所に集める。

「全国高校バスケットボール大会はトーナメント形式になっていて、泣いても笑っても負けたらそこで終了だ。 我ら六花大付属高校男子バスケットボール部も県大会出場を逃せば廃部になってしまうだろう… お前たちはそれでいいのか!? もう2度とコートサイドから至近距離で女子バスケ部のあられもない姿を見る事が出来ないんだぞ!? これは絶対に負けられない戦いだ! 気合入れろよお前らぁああ!!」
「「「おーーーーッ!!!」」」「お、おぉう… うっぷッ」

  動機は不純だが、みんなそれぞれ溢れんばかりの気合いで満ちている。
  俺の方は違う物が込み上げてきていて、溢れないように必死でもう突っ込むことすら出来なかった。
 所々ちゃんと聞けなかったが、その後小畑は大会の注意事項などを簡単に説明していた。 
 県大会出場出来るのは上位2校で決勝に進出した時点で県大会出場が決まる。決勝までは3試合を勝たなければ進めない。
 前回の県大会出場校はシードということで2試合目からの参加になるため決勝までは2試合勝てばいけてしまうらしい。 
 まあ弱小校の俺たちがそんなことを気にしても仕方がないが、順調に勝ち進みめば、3試合目に去年の県大会優勝校と当たるらしい。
 つまり全国レベルの選手たちと戦って勝たなければ、県大会出場は出来ないということだった。
 俺の限定プレミアゴールドダンガムプラモの道は険しく困難を極める。 おまけに体調は最悪、激しい運動などしたものなら、間違いなく口から汚物を吐き出すことになるだろう…

「あの… 入月先輩!!」

 もうダメかもしれないと思った矢先、なんとも可愛らしく、それでいて何処か恥じらいがあるような声で俺を呼ぶ子がいた。

「花沢さん、どうしたの? 女子はもう全員会場入りしたんじゃなかった?」
「はぃ… でも入月先輩の体調が悪そうだったので、これ… 良かったらどうぞ!! じゃあ試合頑張ってくださいッ!!」

 キンキンに冷えたペットボトルの水を俺に押し付け、花沢さんは逃げるように去っていた。
 冷たい… けど暖かい…
 花沢さん、なんていい子なんだ! どこぞの幼なじみと妹とは天と地の差だな〜

「ほぉ~勇志、ちょっと目を離したすきに華ちゃんと仲良くなっちゃって~、どーやって男嫌いの華ちゃんを手懐けたんだよ! 羨ましいぞコイツ~!」

 いきなり後ろから俺の首に腕を回し、首を絞める小畑。

「うぐッ… ぐッ、ぐるしい… もうダメ… で、出るぅ」「え゛ッ!!?? ちょっと待て!?  あ゛ッ、ぁぁぁああああッ!!」

 今まで必死にこらえてきた俺の中の汚物を、小畑のジャージに向かって全て解放したのだった。





……
………

  
 その後、小畑のおかげで少しスッキリしたが、寝不足もありまだ本調子でらなかった。
 小畑のやつは体育館の隅で丸くなって、「俺、汚れてしまったよ…」「もうお婿にいけない」とか何とか言っているが、こればっかりは小畑の自業自得だ。 
 一応謝っておいたけど。
 とにかく、これから試合が始まるわけだが、こんなんで本当に大丈夫だろうか? 先行きは不安である。

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