マルチな才能を発揮してますが、顔出しはNGで

青年とおっさんの間

顔出しNGの事情があるのです 3

「おーい! 委員長~!」

 ぶんぶんと大きく手を振りコートにいる委員長に挨拶をする。
 男子部員たちを虜にするコートの中の女神様は、学級委員長の立花時雨だった。
 そういえば、委員長は勉強だけが良く出来ると思われがちだが、実は運動神経も抜群だったな。
 俺のオーバーなアクションに気付いたのか、委員長は少し驚いた顔をした後こちらに向かってきた。

「あら、入月くんじゃない? 珍しいわね、貴方が体育館にいるなんて」
「委員長は俺が運動音痴か、なんかだと勘違いしてないか?」

「あら? そこまで言ったつもりはなかったのだけれど」
「はいはい」
 
 
 俺の目の前まで来ると、サラリと俺のことを小馬鹿にしてくるが、安心した、いつも通りの委員長だった。

 コートの中だとあまりにも雰囲気が違い過ぎて、見た目そっくりな別人に見える。  現に今、目の前にいるのになんか気恥ずかしくて委員長の顔を直視できず、つい視線が下がってしまう。

 普段とは違って、長い黒髪を動きやすいようにポニーテールで1本に縛り、露出の多いユニフォームに身を包んでいる委員長はとっても新鮮ですごくいいです、はい。
 
「あんまりジロジロ見ないでくれる…?この格好、結構恥ずかしいから… 」
「お、おう… 」


 慌てて視線を外すが、委員長のユニフォーム姿は俺の脳内にしっかりと保存させていただきました。 ありがとうございました!


「でも、本当にどうして貴方がここにいるのかしら?」
「いや、それはだな、深い訳があっ…」「「部長危ない!!」」
「きゃッ!?」


 コートの中から傾向が発せられ、委員長は咄嗟に身を屈めた。


「フンごッ!!」


 コートの中で練習中だった女子がパスをする際にコントロールを誤り、委員長目掛けてボールが飛んで来たが、紙一重で委員長がしゃがんで躱し、代わりに俺の顔面にクリーンヒットした。


「大丈夫!入月くん!?」
「あわわわわ、ごごごごめんなさい!!だだ大丈夫ですか….?」


 ボールをぶつけてしまったであろう女子も急いでこちらに駆け寄ってくる。


「いてててて、大丈夫大丈夫、心配要らないよ」


 そう言って渾身のスマイルで答えるも、俺の鼻からは赤い血がドバドバ流れ落ちていた。

「ちょっと入月くん!? 鼻血が出てるわよ!?」「ひぃぃい! ごごごごごめんなさいッ!! そんなに強く投げたつもりじゃなかったんですけど!!」


 委員長がくれたポケットティッシュを鼻に詰めて鼻血が止まるのを待つ。
 その間も、ボールをぶつけたであろう女子が何度も何度も申し訳なさそうに、頭をすごい勢いで下げて謝ってくれている。


「ほんと大丈夫だから、気にすることないよ」


 とは言っているものの、ぶつかった時は鼻が取れたかと思ったくらいの衝撃だった。


「よりにもよって部長のお知り合いの方にボールをぶつけてしまうなんて…  やっぱり私なんて、バスケやめた方がいいんでしょうかね… 」


 なんかすごい重苦しい感じになっちゃったよ、どうしちゃったのこの子!?


 「気にしなくていいわよ、入月くんになら、いくらでもボールぶつけてもらっても構わないから」
「本当… ですか?」


 いや、真顔で言わないでよ委員長。せめて冗談みたいに言おうよ~。 そしてキミはなに真に受けちゃってるかな?


「ええ、だから練習に戻っていいわよ」「はいッ! そのごめんなさいでした!」


 そう言ってまた俺に一礼して駆け足でコートに戻っていく女子。しかし、1度も目を合わせてくれなかったな、あの子。


「委員長、今の子は?」
「『花沢はなざわ はな』1年の子。 あら? 入月くんはああいう子がタイプだったかしら?」

「顔面にボール投げてくるタイプがか? 」「違うわよ、小動物みたいで可愛くて放っとけないでしょ?」

「ああ、そういう事ね、確かに可愛いとは思うけど… 」


 自分に自信がないんだろうか、プレーにも何処か消極的で、この動きの次はこの動きみたいな決まった動きしかしていない。
 動きのキレもいいし、声もよく出ていて、はたから見ても頑張っていると思うんだけどな〜


「入月くんは花沢さんのプレーを見てどう思う?」
「もっとバスケを楽しんだらいいと思う」

「え?」
「委員長は部長なんだから、ビシッと言ってあげなよ」

「……カッコいいこと言っちゃって…」「え? 何だって!?」


 なんかボソボソ言ってて何も聞こえなかった。


「鼻に詰めてるティッシュ変えたほうが良いわよ!?」
「おふッ!? ぁあ!! 止まらない!! 何でだー!!」

「フフッ…」
「部長が… 笑ってる…? みんな! 部長が笑ってるよ!?」


 なんだがコートの中が騒がしい。


「うそ…だろ…? 勇志の奴、鉄仮面を笑わせやがった…!?」


 聞こえてるぞ小畑、お前声でかいから。  まったく委員長に失礼だぞ? 結構笑ってくれるし、笑った時の委員長はすごく可愛いんだぞ?


「なるほどなるほど、やっぱりそういう事か… うんうん、これは使わない手はないな… 」


 おい小畑、お前は一体何を考えている。どうせろくなことじゃないんだろうが…


「あ、すんませーんッ!! 女子バスケ部の部長の立花さ~ん! 前々よりお話ししている件ですが~、どうでしょーかー!?」


 コートサイドの端から、物凄い勢いで俺と委員長の間に割って入ってきた小畑。


「おい小畑、一体何の話だ?」


 堪らず小畑に聞いてみるが、ニヤニヤしながら委員長の方を見ていて答えてくれない。

 コイツがこういう気持ち悪い顔している時は、ほぼ間違いなく良からぬことを考えているはずだ。


「女子バスケ部の練習に混ぜてほしいという件だったわね」
「そうそう、それそれ!」


 なんでも、弱小チームの男子バスケ部は放課後の部活動の時間帯はほとんどコートが使えないらしく、なんとか借りられても1面の半分、ハーフコートしか使えないそうだ。

 そこで一応部長の小畑が考え出した苦肉の策が、女子バスケ部の練習に入れて貰えばオールコートで練習ができるという至極単純なものだった。

 しかし、いくらなんでもそれは…


「前々から言っているように、女子と男子では体格差が違うし、運動量も違うの。 こちらの練習に参加したところで、大して成果を得られないと思うのだけど?」

「もちろんそこはこっちが合わせるのでお願いしますッ! この通り!!」


 委員長の言う通りだ、それに使っているボールのサイズだって違うしな。

 しかし、委員長に向かって頭を下げる小畑の姿を見ていると、1日何回、コイツは人に頭を下げるのだろうかと、哀れな気持ちになってくる。


「はぁ… 1番の問題は貴方達男子が女子をいやらしい目で見てくるということなのだけれど、そこはどう考えているのかしら?」


 痛いとこ突かれたな小畑、おそらく今の男子部員のモチベーションはそれで保たれてると思うぞ? さあどうする小畑?


「それは仕方がなーい!! 女子バスケ部の皆様が可愛いからつい見てしまうのですッ!!」 
「開き直るなよッ!!」
「あでッ!」


 委員長の代わりに俺が小畑にチョップを入れる。


「ですが立花さん?」
「何かしら?」


 珍しく小畑が小声になり、委員長に何か耳打ちしている。 一体何を話しているんだ?


「今回、うちら男子バスケ部も少々本気でしてね~。 ここにいる入月勇志くんを助っ人として迎え入れたんですよ」

「へっ、へー! あらそうなの、いッ、入月くんが?  だッ、だから何よ? 中学の時、ちょっとバスケが上手かったくらいじゃないの、そんな人が高校で活躍できるほど甘くないんだからねッ!」

「それでですね〜、男子バスケ部を練習に組み込んでくださる話は~… 」
「べッ、別に入月くんがいようがいまいが関係ないわ!」

「では、この話はなかったことでよろし…」
「ちょっと待ちなさい!」

「はい?」
「まッ、まあ考えてみれば、体格差があればいい練習になるし、運動量も違う分、こちらも作戦を変えたりといい練習になるわよね… うんうん」

「では?」
「しょ、しょうがないから一緒に練習してあげてもいいわよ?」

「よっしゃあぁぁぁああ!!」


 突然、歓喜の雄叫びをあげる小畑、そして何故か周りの男子部員たちも顔がニヤけている。

「勇志、お前のおかげで女子の練習に参加出来ることになった。ありがとな!」「え!? 何で!?」

「細かいことはいいんだよ! ほらアップすんぞ!」
「へいへい」


 もうこうなった以上、ちゃんとやりますよ。限定ダンガムプラモ欲しいし。
 
ところで、委員長の顔赤いけど練習のし過ぎだろうか?

  見た目よりずっとハードな練習だったら嫌だな…

 こうして男子バスケ部と女子バスケ部による合同練習がスタートしたのだった。

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