序に転移させられたらしいんだがキレていいか?

ヒラチカ

プロローグ(A) 〜日常は唐突に崩れ去る〜


チク、タク、チク、タク、…

静謐な図書室になりびびく秒針の揺れる音を頭の片隅で聞き取りながら、有川真は懸命にペンをノートに走らせていた。その手は淀みなく、まるで何かから逃げるように黙々と英文を書き続ける。

季節はもうすっかり冬になり、気温は吐く息が白く曇るほど冷えている。しかし、それでも放課後の日が出てる内はどの部活も通常通り活動をやっており、グランドや体育館からは時折部員達であろう、快活な声の返事や、掛け声などが窓を通り超して聞こえてくる。

ピタリ、と動き続けていた手が止まった。どうやら課題は終わったらしい。
真は強く握っていたペンをノートの上にコロコロと転がすとそっと椅子の背もたれに全体重をあずけた。

「…ふぅ。」

思わずため息が漏れる。疲労と達成感が5対5の割合といったところだろうか。胸の前で両手の指を組み合わせ、それを掌が前になるように突き出す。5秒ぐらいそのままの状態でうんと伸びをし、課題の終了を実感する。

その日の授業が終わると大抵の生徒は部活動に、部活動に所属していない生徒は帰路や、バイトに赴くことになる。真はどの部活動にも所属していない生徒の1人だが放課後はすぐ、帰路にもバイトにも向かうことなくこの図書室に足を運び放課後の大半を過ごす。ほとんど無人の静かな部屋でその日の課題を終わらせると後は大抵本を読んで過ごす。華の高校生活が聞いて呆れる。というか泣けてくる内容だが、存外中々この時間を気に入っていた。この時間だけは競走だらけの高校生活から隔絶されている。

そんなことを考え、気を抜いた刹那、先程図書室の前で見たあの情景がフラッシュバックする。
心の中に一瞬で黒い靄のようなものが立ち込め、その感情のどうしようもない矛盾に反吐と悔しさが湧いて出てくる。

(…クソっ)

心の中でそう毒づくと同時に、後ろの棚で何かがーおそらく本であろうがー落ちる音がした。内心後ろめたいことを考えていただけにビクリと肩をすくめる。恐る恐る右肩越しに音の下の方を覗き見ると今月の新刊コーナーの棚の前に文庫本が一冊表紙を下に床に落ちていた。

(…傾いていたのか?)

そう疑問に思いながら、椅子から立ち上がる。スタスタと棚まで歩きその本を拾い上げ、クルリと向きをひっくり返し表紙を眺めた。

(…ライトノベルか)

表紙には三者三様の衣服に身を包んだ、真と同年代ぐらいの少年少女たちが描かれていた。タイトルは普通の小説に比べ随分と長い、というか文章みたいなものである。
普段から小説やそういった物語には同世代の中では多く触れている方だと思うが、この手の小説は全く読まない。元々あまりも現実離れした話は好みではないし、その上この手の本を読んでいるだけでオタクというカテゴリに入れられ、一部の偏見を持っている連中からネクラだとかと揶揄される。真自身そういう本を読んでいるからといってその人物の性格や趣向をどうこう言うつもりは毛頭ないが、なけなしの世間体を一応気にして敬遠してきた。

しかし、、

(…読んでみるか)

今日は違った。今は少し、現実離れした話が読みたかった。その上今は図書室には誰もいない。いつもならカウンターにいる図書委員も今は席を外しているらしく、人の目を気にせず読むことができる。拾い上げた本を手に持ったまま、元いた座席まで戻る。一応最後に、もう一度だけ当たりを見回して改めて誰も居ないことを再確認すると真は本を広げ、

(さて、どんなものかな。。)

その中の活字に視線を落とした。

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