最弱の村人である僕のステータスに裏の項目が存在した件。

猫丸88

第6話 村へと







 ぽんっ。

 肩を叩かれる。
 後ろを振り向くとそこには覚悟を決めたと思われるセリアさんの姿が。
 ガリガリとまた地面に何か書き始めた。
 
『ありがとう……ここまでしてくれただけで十分……でもこれ以上は巻き込めない、こいつらの目的は私よ。だから』

「ん? ああ、大丈夫だよこのくらいなら」

 セリアさんが慌てて地面に何かを書く。
 いや、敵の目の前でこんなやりとりしてるのって結構危険なんだけどな……
 というかゴブリンたちもよく待ってくれてるよね。
 ……違うな。これは警戒してるのかな?
 確かに僕は子供だけど武器を持ってるなら彼らにとってはそれなりに脅威になるのかもしれない。
 でもこれ木剣なんだよね。
 殺傷能力は低い。

「ぐぎい!!」

 と思ってたら切りかかってきた。
 最初は剣術持ちからか。
 セリアさんが僕を庇おうと前に出る……けど、それよりもゴブリンの持った鉄の剣が届く方が速い。
 ゴブリンは知能は低いけど人間を真似て人が使っていた武器を使うことがある。
 あの鉄の剣もどこからか手に入れたんだろう。
 数がいるとそれなりに脅威だ。
 後ろからセリアさんの切羽詰まった声が聞こえてきた。
 けど僕はゴブリンの上から下へ振り下ろす攻撃を普通に避けた。

「ぎ!?」

 今のは当たる方が難しい。
 木剣で受けたら斬られるしね。
 というわけで軽く魔力を纏わせて同じように振り下ろす。
 脳天に入った木剣の一撃はゴブリンの頭蓋を砕いてそのまま中身をぶちまけさせた。

「ぎいい!」

「ぐぎ!」

 残った2匹は同時に切りかかってきた。
 ゴブリンにしては賢い手だ。 
 最初から全員でかかってきていればまだ手こずった。
 結果は変わらないけどね。
 同じように魔力操作をする。
 剣筋を見極めながら手足を強化。
 そのまま間合いに入り裏拳で首の骨を折った。
 そして、何が起こったのか分かっていない最後の1匹。
 逃げ出そうとするけどもう遅い。
 僕は背を見せたゴブリンの後ろから脳天への一撃を叩き込み即死させる。

「やー、強かった」

 僕が振り返るとそこには唖然とした様子のセリアさんが。
 声をかけるとハッと今気づいたように慌てて枝を手に持ち地面へまたも文字を書いた。

『なんで村人で! しかも子供のあなたが魔力操作を使えるの!?』

 魔力操作とはスキルじゃない。
 技術だ。
 スキルの有無に関係なく誰でも使える。
 ただし戦闘用となるとそれなりの訓練が必要になってきたりするんだけど……
 実はこれを村人が取得するのは難しいとされている。
 なんせ魔力の総量が少ない。
 扱える量が少ないと練習も困難だし、取得しても大して使えなかったりする。
 村人の魔力は成長してもろくに増えない。
 そのためまだ子供の僕が戦闘で魔力操作を使ったことに強い違和感を感じたんだろう。

「ごめん、足が滑った」

 僕はセリアさんの書いた文字の上を踏み荒らした。
 セリアさんが不満そうにぐぎぐぎ言ってたけど何を言っているのか分からないのでスルーした。
 分からないなら仕方ないよね。

「まあ、それは置いといて」

 ぐぎー! と怒るセリアさんを無視して続ける。

「セリアさんを助けたのは回復系のポーションを持ってたんだ」

 今さっき思いついた言い訳を伝える。
 これなら違和感はないだろう。

『……私、名前言ったかしら?』

 あ、やべ。

『考えてみたら結構最初の段階で名前知られてたような? そもそも私が魔族だって何で分かったの? あとポーションを持ってたなら入れ物もあるはずよね?』

 おおぅ、意外と鋭い洞察力。
 誤魔化すのが無理と判断した僕は強引に話題を変えることにした。

「………それよりここからどうするか考えないと」

『……分かったわ。命の恩人にあれこれ詮索するのも野暮だしね』

 それは助かる。
 空気の読める人は嫌いじゃないよ。

「まず状況を整理しよう。ここでの野営は危険だし、村へとそのまま入ることもできない……ここまではいい?」

 セリアさんがこくりと頷く。

「そこで考えた方法が一つある。まずここにトレーニング用に持ってきた縄がある」

『縄? それをどうするの?』

「セリアさんを縛る」

『は?』















「おーう、レン。どこに行ってたん……は?」

 村の大人が話しかけてくる。
 僕は笑ってやり過ごそうと、笑みを浮かべてそのまま横を―――

「待て待て待て!」

 チッ、駄目だったか。
 そして、視線は僕の隣にいる彼女へと向けられる。
 
「お前! 何でゴブリンなんて連れてるんだよ!?」

 その声に村の人間が何人か集まってくる。
 
「ご、ゴブリンだ! 魔物だぞ!」

「お、おい! レンから離れろ!」

「勇者様! 勇者様を呼んで来い!」

 僕は騒ぎ出す村のみんな。
 ここまでは予想通りだ。
 魔物を村に入れることに皆が反対するのは当然だと思う。
 だから僕は予め考えていた言葉を微笑みと共に口にする。

「この子は僕のペットで名前はセリア。いい子ですよ?」

 縄で縛っているため危険もないことをアピールする。
 そして、静寂。
 え、何言ってるのこいつ? みたいな視線がいっぱい向けられる。
 そっと縛られているセリアさんに耳打ちをする。
 
(やばいかも、なんか間違えたかもしれない)

『だから言ったでしょ!?』

 ゴブリンの言葉は分からないけどそう言っている気がいた。








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