最弱の村人である僕のステータスに裏の項目が存在した件。
第5話 事情
セリアさんは魔王の文字を消して別の文字を上に書いた。
『後悔した?』
「ん?」
少し悲しそうに顔を伏せる……まあゴブリンだからそこまで細かい機微は分からないけど。
ガリガリと地面に文字が書かれる。
『私を助けたことを』
「してないよ」
即座に答える。
ぐぎ……! とセリアさんがゴブリンの声帯で声を発した。
驚いてる……でいいのかな?
『なんで?』
セリアさんの双眸がこっちをジッと見つめてくる。
なんで……と言われても。
少し考えこむ。
そうだな……
「君に失礼だと思ったから」
『?』
「助けた後に立場知って助けなきゃよかったっていうのは侮辱だと思う」
僕はセリアさんが魔族だと知って助けた。
訳アリだと分かってたし、魔王だと知った時は本当に驚いた……けど。
そこだけは後悔しちゃいけない。
それは彼女という個人に対して失礼だし、自分自身の価値を下げる行為だと思ってる。
だから僕は後悔なんて死んでもしないし、助けたなら最後まで助ける。
『あなたは私が魔王だって信じてくれるのね』
「なんで? 嘘なの?」
『嘘じゃない』
「ならそれでいいじゃん」
基本的に僕は考え事をするのがめんどくさい。
出来れば誰かリーダーシップを取ってくれる人が手を引いてくれると助かるんだけど……
って、話が逸れたな。
とにかく僕は彼女を信じる。
思考の放棄とも取れるけど、ここで彼女がわざわざ魔王だと嘘をつくメリットが存在しないと思ったからだ。
下手をすれば殺されるかもしれない事実。
それを明かしたのは彼女なりに僕を信用してくれてだと思う。
だから僕は彼女を信用することにした。
「話を戻そうか。嵌められたってのはどういうこと?」
『私のパパも魔王だった』
彼女の文字を目で追いながら頷く。
『パパは強かった。だけど私は弱かった……だから、私が魔王になることに反対する魔族が大勢いた』
そこからの話をまとめるとこうだ。
彼女の父である元魔王がその後亡くなる。
すると今までその力で抑えられていた魔族たちが彼女は魔王に相応しくないんじゃないかと言いだしたらしい。
普通もっと忠義とかあってもいい気はするけど、魔族の世界は人族の世界と違って弱肉強食の色が強いそうだ。
弱いものは死んで当然。
そういう考えがあるらしい。
そこで彼女が殺される前に逃がそうとしてくれたのが元魔王の側近だった。
避難させようと人族の里の近くまで転移したところで不意打ちされてゴブリンの姿に変えられた、と言うのが彼女の言だ。
「なんでわざわざそんな面倒なことを? 殺さずにゴブリンの姿にすることでその人に得なんてないように思えるけど」
『たぶん私を苦しめたかったんだと思う』
ふむ……その辺りの事情は分からないけど……
その後、そうしているうちに魔物に襲われながらこの辺りまで逃げたってことかな?
聞くと彼女は小さく頷いた。
「ゴブリンの姿じゃ人に見つかったらアウトだよね?」
『魔物も駄目、ゴブリンは弱いから格好の餌になる』
「あー……」
つまりこのまま彼女を放っておいたら次の日には冷たくなった彼女の姿が……なんてことになりかねないわけだ。
この近くには魔物はほとんどいないけどそれも絶対じゃない。
かと言ってこのまま彼女を村に連れていくわけにもいかない。
彼女の見た目はゴブリン。
どう考えても討伐対象だ。
勇者様たちが来ていることも面倒だ。
彼女はゴブリンじゃないと説明するのも不可能。
魔族だし、人族だったとしても何で僕にそれが分かったのかって話になる。
「んー」
考え込んでいると彼女がこっちを見つめてきていた。
何だろうと思っていると再び地面に文字が書かれる。
『なんでそこまでしてくれるの?』
「ああ、そういうのは面倒だからなあなあで終わらせようよ」
『……』
「納得できない?」
彼女が頷く。
どうでもいいけどこうして話してみると中々ゴブリンにも愛嬌がある気がしてくる。
不思議だ……
「君に一目惚れしたんだよ」
『……ゴブリンの見た目に?』
「いや、君の心に」
『………』
黙られた。
冗談に無言を返されると無性に恥ずかしい。
と、思っていると急に彼女がぐぎぐぎ鳴き出した。
お腹を抱えて体を震わせている。
なんか怖い。
「なにしてるの? あ、仲間呼んでるとか?」
『なんでよ! 笑ってるのよ!』
ああ……笑ってたのか。
てっきりゴブリンの仲間を呼びよせる鳴き声か何かかと。
まあほんとに呼ばれてもゴブリンくらい弱い魔物だと相手にはならないけどね。
んー……どうしよう。
『ところで』
「ん?」
『あなたは何者なの? 私の怪我を治せたってことは回復系のスキルを持ってるのよね?』
「ただの村人だよ」
すると彼女は訝し気な視線をこちらに向けてきた。
『村人が回復系スキルを?』
その疑問はもっともだ。
村人は基本的に生活スキルしか覚えることが出来ない。
補助系統とは言え戦闘で役立つスキルを覚えること自体稀なのだ。
「んー……」
少し悩む。
果たしてどう言い訳するか。
さすがに勇者云々は話せないしな。
悩んでしばらく考える。
と、その時だった。
「ぐぎ!」
「ぐぎぎぎ!」
「ぐぎぃ!」
草むらから飛び出す影。
セリアさんと同じ姿の魔物。
新たにゴブリンが3匹姿を現した。
「もしかしてお友達?」
『そんなわけないでしょ!』
ゴブリンの言葉は分からないけどそう言っている気がした。
冗談はさておきゴブリンたちはおそらくセリアさんを追ってきたんだろう。
なぜ同族を倒すのかは分からないけど、彼女は元魔族なのだ。
何かしら違いを感じ取ったのかもしれないし、彼女が何かやらかしたのかもしれない。
なんにせよ彼女が目当てだというのは理解できた。
一応念のため鑑定しておく。
―――――――――
ゴブリン 小鬼族
Fランク
スキル 剣術
―――――――――
お、1つ持ってるのか。
他の二匹は何もなし……と。
裏の項目もないし間違いなくゴブリンだ。
3対2……しかも相手はスキル持ちだ。
さて、どうしたものか……
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