時巡りて果たされる約束と願い〜勇者大戦に紛れる異分子〜

狂剣氏ヨウガ

第五話 割ってみたい見た目の魔法適正を図る石

 俺が買い物に行った翌日、屋敷の庭でクレアが最低限護身用だけでも覚えさせてやると意気込んで魔法を教えてくれていた。
「まず魔法を使うには、空気中に含まれている魔素を身体に取り込んで循環させるところから始めるんだ」「その解説でわかると?」
 説明大雑把すぎない? 言われたことを纏めると魔素を取り込むことを覚える。すると身体が取り込み方を覚えて自然と魔力を蓄えれるようになり魔法をつけるようになると。でもその肝心な取り込む部分は感覚で掴めと……
「今まで呼吸してても感じたことのないものを取り込めと言われても」「身体を動かしながら取り込もうとすれば成功するなんてやつもいるし兎に角どうにかして感じればいいんだがな? こう、血と一緒に身体全体に行き渡らせる感じで」「行き渡らせる?」「そうだ。今までは身体に取り込まなかった魔素を拒絶させないようにすればいいんだ」
 そもそも魔素が空気中にあると意識するのが…………いや、地球で過ごした常識に捉われるのがいけないのか? こう、走りこみ中に感じる血の流れを魔素だと思うとか。兎に角空気中に存在するんだ、肺から心臓へ送られて身体の中を巡らせる感じに……
「お? 出来てるじゃないか、意外と早かったな」「え、もう取り込めてるの?」「なんだ、わからないのか? 慣れてくれば違和感は消えるとはいえ、最初の頃は身体に違和感を感じるものなんだがな」「特に違和感はないけど。寧ろ少し頭の中がスッキリした」
 なんだろう……こう、失ったものを取り戻したかのような感じは。最近寝起き時に虚無感を感じていたが、何か関係があったりするのだろうか? 実は地球では昔は魔素が存在していて魔素があるこの世界に来たことで前世の感覚が、的な? ……まあ前世があるってのは冗談として屋敷の中を掃除中に偶に頭の隅をチラッと過る奇妙な感覚と関係があるかもしれない。
「頭の中がスッキリ……か。まあ、魔素を取り込むのに1時間しかかからなかったんだしいいか。半日かかったりするよりマシだし」
 そんなに時間かかる人もいるのか。早く済んだことだしそのことについて考えるのは今度にしておくか。
「今日は魔素の取り込み方を覚えるだけで終わりのつもりだったが予想より早く終わったし魔法の適正属性を測ってティータイムにでもするか」「実際に使ったりしないの?」「一度魔力がどれだけ貯められるか試しておかないといけないからな。それに身体全体に魔力が行き渡ってないからまだ使えないと思うぞ」
 そういうものなのか。まあ焦ることもないか。それにしても適正属性か……転生したんだし全属性使えたりしないだろうか?
「因みにご主人様はなんの属性が使えるの?」
 オードソックスだと火、水、風、土のどれかだろうか? この世界では未発見の適正魔法も珍しくなく、ちょくちょく新種の魔法が発見されると屋敷の本に――文字を一字一字解読して頑張って読んだ――書いてあったのを覚えている。まあ新種の魔法はどれも無属性魔法なのだが……魔女とか呼ばれているんだ。こう、恐れられるような漆黒の炎的な感じなんじゃないだろうか?
「私か? 私は水と風の二属性だ。攻撃より支援の方が得意な属性だな」
 なんとまあ優しそうな適正属性なことか。本当にあの噂はなんなのだろう。風の魔法で殺戮とかしたのかな? そこまで風が便利か知らないけど。
「とにかくお前の適正属性を測るぞ。この水晶に手を置け」
 そう言って差し出してきたのは中で何かが渦巻いている水晶だった。なんだろうこれ、すごく割ってみたい。
 ……冗談は置いといて、水晶の上に手を置く。すると水晶の中で黄緑色と黄色に交互に光り始めた。
「……ほう、風と防御か。無属性魔法とはこれまた珍しいものを」「防御って珍しいの?」「お前以外だと一人しか知らん。ついでに言うと無属性魔法はあまり冒険者に喜ばれない。冒険者になりたい人にとっては無属性の治癒なんかより水属性の治癒の方が使い勝手が良いし、防御魔法なんて使い道がほとんどないと馬鹿にされていたからな。基本的に扱い辛いのが無属性魔法だ」
 使い道がほとんどない? まだ使ってないけど扱い辛いのか……確かに戦闘での攻撃の手札は減るだろうけど使い方次第だと思うけどなぁ。
「使い方とかはまた今度説明するから安心しろ。どの魔法も使い方次第だからな」
 まあ後日練習している間に上手い運用方法を考えればいいか。そういえば、結局魔素を取り込んだ時に感じた事についてはよくわからなかった。でも、いつもより安心して気持ちよく寝ることができた。

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