時巡りて果たされる約束と願い〜勇者大戦に紛れる異分子〜

狂剣氏ヨウガ

第一話 生きる意味がわからなかった

……ン! レ…………死な……いで!私を……りにし……で!
 自分に向けて誰かが何かを必死に叫んでいる。もうまともに音が聞こえないが俺を心配する奴なんて一人しか知らない。俺が助けた娘だろう。
 油断はしていないつもりだったが読み間違えた。見事に相手の策にはまり、今にも死にそうになっている。助かる見込みはないだろう。意識を手放してしまいそうになるが、最後の力を振り絞り魔力を練ってネックレスを生成する。
「生き……ろ、お前なりの…………幸せ……を…………」
 あの娘に最期の言葉を告げて、俺は意識を手放した。

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 時代が進むにつれて人類の生活はより住みやすくより良くなっていく。だが、よくなっていくことによって俺、終夜は疑問を持ち始めた。
 人は住みやすくするために技術を持ち始めた。人は貿易によって別の大陸の生産物を手に入れ生活を豊かにした。人は科学を発展させてより良い生活を作り始めた。その昔、科学と魔法が共存する時代があったというが、その時人々は科学を発展させ魔法を捨てるか、魔法を発展させ科学を捨てるかの二択に迫られたという。結果、人々は科学の発展を選び、魔法は消え去ったそうだ。
 おそらくその時何かがあって選択を迫られたのだろうがそれはどうでもいい。俺が思ったのは科学を選んだ人類は科学をここまで発展させたのだ。化学兵器然り、車然り、ロボット然り……今じゃお金はカードで払えれるようになり、暑ければエアコンをつけるだけで快適空間になる。動きたくないやつなんて金さえあれば動かなくて済む。科学を選んだ古代の人たちが今の時代を見ればここまで発展できるのだと驚き感動するだろう、科学を選んで良かったと……
 俺もゲームやテレビなどの娯楽が増えて楽しいし、過ごしやすい世界だと思っていた。スマホが誕生し、いい時代になったなと思った。だが、ロボットが誕生し人が働く代わりになるようなものを見始めてから心の中の何かが違うと叫んでいた。
 俺は親に立派になるためだと言われ様々なことをしてきた。塾に行き知識を得ろと。スポーツができるようにとクラブ活動にも入れられた。そうして頭のいい高校に入れるようにまでなった。勿論最初はもっと知識を手に入れて出世するんだとか考えていた。勉強し、賢くなって社会に貢献するんだと。だが、ある日突然その気持ちが消え失せた。
 テストで毎回8割取っていたのが赤点をギリギリ回避できるぐらいの勉強しかしなくなった。知識を得ようとしなくなり学校が終わればすぐ家に帰り、小説を読むようになった。友達と遊んだり噂話を収集するなど今までやっていたことをやらなくなり始めた。親ともあまり話さなくなり、ネット小説を読んで幻想の世界を楽しむ日々を過ごし始めた。
 学校の教師や親からは相談しろなどと色々言われた。友達だった奴らは俺が学校で死んだような目をし始めてからあまり近づかなくなった。そうしてどんどん腐っていってしまった。
「ああ、なんで俺は生きているのだろうな?」
 そんな呟きをしながら俺は親に買い出しを頼まれてスーパーに行っていた。最近生きる意味がわからなくなった。自分の存在理由がわからなくなった。現実の何もかもに萎えてしまった。
 昔は発想の天才だのなんだの親や教師から言われてた俺も晴れて腐った人間の仲間入りだ。どうしてこうなったと周りから言われているがどうでもいい。なんかカウンセラーに会わされた。どうしたいかって聞かれて、
「いっそ死んだほうがいい。嫌だけど」
 と返事した。何がしたいかと言われてもさあ? と言い返し、何か好きな事はって聞かれてそんなもん知らんと言い返したら可哀想な人を見るかのような目で見られた。
   大人や老人は便利な世界を求めた。そして実現のために子供が勉強しないと生きるのが難しくなる世の中を作り上げた。発展させるために新しい常識を作り上げた。
 これからさらに技術は発展し俺たちが住んでる環境も変わってくるだろう。でも、この世界がどう変わろうともうどうでもいい。この身体が動くのに身を任せ、俺の身の回りの変化に任せて流されてしまえばいい。何も考えなくても身体は直感で勝手に動く。だからその道を行き、流されればいい。自分がどうなろうと知った事じゃない。自分が死ぬまで適当に生きて死ねばいい。
 そんなことを考えながら信号を渡っていたら道路の向こうから何やら迫ってきていた。その方向を振り向くと居眠り運転しているトラックが突っ込んできていた。
「トラックに轢かれる展開って小説でよくあるよなぁ……トラックある意味愛されてるなぁ」
 別にこのまま轢かれてもいいけど足を止めるのもめんどくさいし信号を渡って避ける事にした。だが……
「ちょっ!」「え?」
 トラックを避けたらトラックの横からバイクが走ってきた。トラックが走ってたから青信号と勘違いして飛ばしていたのだろう。トラックとバイクの2段重ねの轢かれ方に流石の俺もびっくり仰天です。そう思いながら吹き飛んでいた。
「ああ、死ぬ流れに乗ってたのか」
 バイクの方を見ると運転手はバイクから落ちたものの受け身をとって無事のようだ。どうやら受身を取らずに頭から地面に衝突して死ぬのは俺だけらしい。
「なん……だろう、何か……約束……して…………」
 地面に頭から衝突した俺、終夜はそのまま意識を失った。

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