時巡りて果たされる約束と願い〜勇者大戦に紛れる異分子〜

狂剣氏ヨウガ

第三話 一人称が変わってしまった

 最近思考と体の動きが上手く連動しない。体を動かすのは問題ないのだが、会話する時口が勝手に動く感じになる。思ってることを口にしてはいるがいつもの言い方ができなくなっているのだ。最近何か頭の中にチラッと何かが浮かぶことや、目が覚めた時に感じる虚無感と関係があるのだろうか?
 俺はこの前出会ったクレアという女性――見た目中学生なのに結構長く生きてるっぽい――についていってこれから働く屋敷に行ったわけなのだが……
 でかい屋敷だなぁって思いながら何人ほど働いているのだろうと考えていたら俺以外誰も働いていなかった。非道の魔女の噂のせいだろうか? この非道の魔女という噂に一体何が隠されているのやら……働きながら少しずつ聞くしかない。
 あと、こちらの常識も聞き出さないといけないな……ここ以外の場所――万が一逃げることになった時など――に行く時に必要になる。文化の違いで死ぬなんてのはごめんだからな。
 そういえば先ほど鏡で自分の容姿を見たのだが、使い古されていた私服が新品のように綺麗になっていた。そして……髪が真っ白になっていた。髪の色素が全部抜けてしまっている。ストレスか何かのせいなのかわからないがこれは考えても仕方ないので無視する。身長も数センチ縮んでいる気がするが測るものがないのでわからない。そして何故かご主人様と呼べと言われたが、雇われの身なので従うことにしている。
 今は仕事を覚えたり掃除するところが多いため手一杯だ。安定してから情報収集といこう。
「でも、文字が全然読めないってのが問題……言葉は大丈夫なのに文字はダメとは」
 そう、この屋敷で本を読んでみようとしたのだが字が読めなかった。日本語か英語なら読めたのだが全く知らない文字なので一文字もわからない。それに……
「ご主人様は【魔法】と言っていたっけ……」
 屋敷の花に水をやるのは魔法じゃなきゃダメと言われたのだ。なんでも魔法の水じゃないと成長しない花なんだとか……魔法を使ったことがないと伝えたら今度魔法を教えると言われたが果たして使えるかどうか……因みに魔法より剣のほうが好きなのでそこまで興味がなかったりする。
 そうして文化の違いというか常識の違いを体験して一週間――1日の長さや1年の日数は地球と変わらなかった――経ったので手に入った情報をメモ帳に整理していこうと思う。
・魔法が存在している・ここは地球ではない・会話は問題ないが文字が読めない・容姿が若干変わっている・地球と時間の長さは変わらない・この屋敷はご主人様以外いない・この近くに街は一つだけ・非道の魔女の噂のせいで屋敷に近づくものは滅多にいない・屋敷の掃除が大変、片付いてない部屋が多すぎる、適当だなご主人様・こちらの料理わからないから手を出してないけど出てくる料理不味いんですけど、料理下手なのどうにかならないのかご主人様
 …………うん、途中から愚痴になってる気がするけどまあいいか。とりあえず食材の知識さえ入手できれば料理は俺が作れる。今の所一番の問題は…………
「何故、私は【メイド服】を着せられているのか……」
 そう、俺はここで雇われた後着替えようとして執事服を手に取ろうとした。だが、ご主人様に、
「執事服も似合いそうだがお前はメイド服の方が似合うぞ?」
 などと言ってメイド服を手に持ち迫ってきたのだ。抵抗はしたが、魔法で強化されたご主人様には勝てなかった。っていうかあのキラキラした目、絶対格好のいい着せ替え人形が手に入ったって目だ。もうこれは諦めるしかない。というより抵抗が面倒くさい。

――――――――――――――――

 翌日、ご主人様に朝食の片付けが終わったら執務室に来いと呼ばれ向かったら、
「お前にも新しい服が必要だろう?買い出しついでに買ってこい」
 と言われた。どうやら買い出しと一緒に新しい服を買って来いということらしい。まあ俺は服が私服一枚しかないから助かる話だ。だが……
「何故この服を着なければならないのですか?」「ん? スカートは嫌か?」「そりゃ嫌ですよ……」
 そう、俺は何故か出かける服としてスカートを渡された。俺が持っていた私服でいいのではと思ったのだが……
「その服には硬化の魔法をかけているのでな。この屋敷から来たからと言われて危険が迫った時の保険だ。新しく買った服にもつけるから今回だけ我慢してくれ」
 ということらしい。この服は元々ご主人様が成長した時用に用意した服らしいが、成長しなかったのだろう……可哀想にと馬鹿にしてたらまあこの服でもいいかと思えてきた。
「おい、なんだその目は?」「いいえ、なにも」
 哀れんだだけなのに睨まれた。硬化の魔法がかかっている服を着れということは、こちらの世界は危険が多いのだろう。相手が刃物を向けてきてもなんとか逃げれるということか。正直、こちらでは何が引き金になるのかあまりわかっていないのでこの保険は有難い。魔法が使えれば自衛できるのだろうけど、まだ使い方がわかっていない。まあ今回だけはこの服で行くしかない。

――――――――――――――――

「行ってまいります」
 そう言って終夜は街へと出かけた。屋敷から街までは徒歩で20分程度の距離がある。その間に教えられた内容と紙に書いてある文字を比べて、こちらの文字を覚えようとしていた。
「この単語が調味料で、こっちが豚肉……うーん、この文字書く練習からしたほうがいいかも」
 日本語でも英語でもないこちらの文字なので一から覚える必要があるのだが、これがなかなか大変なのだ。数字や記号が日本と一緒なのが救いだろう。
 お金の単位はキル――此方にはkillという言葉はない――と言うらしいが物の標準価格を知らないので日本円に直せない。なのでこちらの食料の価値がイマイチ把握できないでいた。こちらには紙幣がなく銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種類の貨幣があるだけだ。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚という感じだ。
 こちらの常識を覚えなければどこで躓くかわからないので、終夜は街に着くまでの間兎に角文字を覚えようとするのだった。

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