念願の異世界転移がようやく俺にも巡ってきたけど仲間ばっかり無双してて辛い
第3話 ふともも
怪異の死体は、じゅわ…と音を立てて、黒いドロドロのタールのように溶け始めた。
溶けるそばから、黒い煙か湯気のようなものを発しながら、空に消えていく。
やがて死体は跡形もなく消え去った。
残されたのは…まっ黒い塊。
卵のような楕円球で、つるっとしている。
女の子はそれを待っていたかのように黒い卵を拾い上げ、制服のスカートのポケットに放り込んだ。
くるりと、こちらに振り返る。
俺はちょっとドキっとした。さっきは必死過ぎて気づかなかったが、女の子はかなりの美形だった。
その表情はキリッと凛々しいのに、どこか親近感の湧く愛嬌もある。
ポニーテールの黒髪は腰まで届くほど長い。
前髪の間から覗く目は、少し細めだが、聖母のような優しさを湛えていた。
「大丈夫? ケガはない?」
…俺に言ってるのか。そりゃそうか。
「あ、う…だ、だいじぶ」
全然大丈夫じゃない返事を返した。
情けないことに俺はまだ腰を抜かして立つことが出来ないでいた。
「キミが、最後の仲間だね。あたし、イオリ。赤木イオリ。よろしくね」
…?
なんだって?
仲間?
最後の?
短い時間でいろいろなことが起こりすぎ、俺はもう事態を処理しきれないでいた。
「とにかく、校舎に入ろ。ここは危険だから。…立てる?」
イオリは俺に手を差し伸べた。
「あ、ありがとう。あの…助かりました」
俺が礼を述べると、イオリは細い目をさらに細めて、にこっと笑った。
ー
俺たちふたりは校舎に足を踏み入れた。
誰もいない。
たくさんの下駄箱が並んでいた。
見たことがあるようで、ないようで…やっぱりない、下駄箱。校舎の佇まいを見たときと同じだ。なんとなく懐かしい感じはするのに、絶対に今まで見たことがないと確信できる。不思議な感覚だった。
それにしても誰もいない校舎って、なぜこんなにも寒々しいのだろうか。
イオリに促され、俺たちは校舎の最上階、四階に向かう。
「ぎりぎりだったね〜。まさか、転移してすぐ『くろいひと』に出会っちゃうなんて、キミ運が悪すぎだよ」
軽く苦笑しながらイオリが言った。
「く…『くろいひと』?」
「あたし達がそう呼んでるだけでほんとの名前は知らないけどね。あいつすっごく凶暴なんだ。しかも見た目が…ね。最初見たときはあたしも腰抜かしちゃった」
けらけらと笑うイオリ。
そのとたん、あの黒いやつの、顔面からニョロニョロと這い出た白い触手を思い出し、俺の身体は身震いした。恐怖がジンワリと蘇ってくる。
「あの…あいつはなんなんですか!?」
「とりあえず、敬語はやめにしよ。これから、お互い助け合う仲間なんだから」
さっきからイオリはしきりに仲間、仲間と表現する。そこに若干の違和感を抱えながら、俺は敬語を取り止めることを了承した。
「わかった。じゃもう一度聞くよ。あの黒いのはなんなんだ? どうして俺は襲われた?」
「正直、あたし達もよくわかってないんだ。ただ、襲ってくるから撃退する。あたし達にできることは、それぐらいしかないの」
撃退…と、軽々しく言ってのける。
イオリは、年は俺と同じか、イッコ上の先輩か、その程度だおもうが、なんだかものすごく頼りになるおねぇさんのように思えた。
イオリの身につけているものの中で、日本刀はかなり気になったのだが、もう1つ、気になるものがあった。
「その…黒い腕輪は、なに?」
俺はイオリが左手首にはめている、シンプルな黒い腕輪を指差して言った。
オシャレにしてはあまりにも飾りっ気がなく不自然で、先ほどから違和感があった。
「さっきあたし3mくらいジャンプしてたでしょ? この腕輪のおかげなんだ」
そこで俺は初めて、イオリは、俺を一足で跳び越え、あの黒いやつに日本刀で斬りかかったのだということを理解した。
「これつけてれば、あれくらいのことは簡単だよ。殴られても全然平気。あとで、キミにもあげるね」
ほうほう。なるほどね。
実は先ほどから、イオリの前でカッコ悪い醜態を晒してしまった気後れがあったのだが、それが少しマシになった。
そういう便利アイテムを装備してたから、イオリは臆することなくあんなバケモノを撃退できたのか。
ほーーーーん、なるへそ。
じゃあ俺もそいつを装備すれば、同じようなことができるんだな。ふふふ。
俺の心に、余裕と平静が舞い戻ってきた。
早くその腕輪を装備したいなぁ。
イオリはスタスタと階段を上がり始めた。
俺もそれに続く。
階段で、女子の後ろに位置取ると、スカートから覗く生足が目の前にきてしまう。
そんな経験は誰しもあるだろう。
いま俺の目の前で、それが起こっている。
短めのスカートから伸びる、白くむっちりとしたイオリの健康そうな太ももが、俺の目の前でたん、たん、たんとステップを刻んでいる。
ああ。なんていい眺めだろう。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
たしか目的は四階だったな。
それまでたっぷり堪能させていただこう。
ありがたや、ありがたや…
!!
その瞬間、俺はハッと息を飲んだ。
イオリの右の太ももの、もう、かなり尻に近い部分。
そのあたりに、黒い何かがチラと見えるのだ。
スカートが邪魔でよく見えないが。
これは、刻印…!?
獅子だ。ライオンだ。
おどろおどろしいライオンの刻印が、イオリの太ももに彫り込まれていた。
溶けるそばから、黒い煙か湯気のようなものを発しながら、空に消えていく。
やがて死体は跡形もなく消え去った。
残されたのは…まっ黒い塊。
卵のような楕円球で、つるっとしている。
女の子はそれを待っていたかのように黒い卵を拾い上げ、制服のスカートのポケットに放り込んだ。
くるりと、こちらに振り返る。
俺はちょっとドキっとした。さっきは必死過ぎて気づかなかったが、女の子はかなりの美形だった。
その表情はキリッと凛々しいのに、どこか親近感の湧く愛嬌もある。
ポニーテールの黒髪は腰まで届くほど長い。
前髪の間から覗く目は、少し細めだが、聖母のような優しさを湛えていた。
「大丈夫? ケガはない?」
…俺に言ってるのか。そりゃそうか。
「あ、う…だ、だいじぶ」
全然大丈夫じゃない返事を返した。
情けないことに俺はまだ腰を抜かして立つことが出来ないでいた。
「キミが、最後の仲間だね。あたし、イオリ。赤木イオリ。よろしくね」
…?
なんだって?
仲間?
最後の?
短い時間でいろいろなことが起こりすぎ、俺はもう事態を処理しきれないでいた。
「とにかく、校舎に入ろ。ここは危険だから。…立てる?」
イオリは俺に手を差し伸べた。
「あ、ありがとう。あの…助かりました」
俺が礼を述べると、イオリは細い目をさらに細めて、にこっと笑った。
ー
俺たちふたりは校舎に足を踏み入れた。
誰もいない。
たくさんの下駄箱が並んでいた。
見たことがあるようで、ないようで…やっぱりない、下駄箱。校舎の佇まいを見たときと同じだ。なんとなく懐かしい感じはするのに、絶対に今まで見たことがないと確信できる。不思議な感覚だった。
それにしても誰もいない校舎って、なぜこんなにも寒々しいのだろうか。
イオリに促され、俺たちは校舎の最上階、四階に向かう。
「ぎりぎりだったね〜。まさか、転移してすぐ『くろいひと』に出会っちゃうなんて、キミ運が悪すぎだよ」
軽く苦笑しながらイオリが言った。
「く…『くろいひと』?」
「あたし達がそう呼んでるだけでほんとの名前は知らないけどね。あいつすっごく凶暴なんだ。しかも見た目が…ね。最初見たときはあたしも腰抜かしちゃった」
けらけらと笑うイオリ。
そのとたん、あの黒いやつの、顔面からニョロニョロと這い出た白い触手を思い出し、俺の身体は身震いした。恐怖がジンワリと蘇ってくる。
「あの…あいつはなんなんですか!?」
「とりあえず、敬語はやめにしよ。これから、お互い助け合う仲間なんだから」
さっきからイオリはしきりに仲間、仲間と表現する。そこに若干の違和感を抱えながら、俺は敬語を取り止めることを了承した。
「わかった。じゃもう一度聞くよ。あの黒いのはなんなんだ? どうして俺は襲われた?」
「正直、あたし達もよくわかってないんだ。ただ、襲ってくるから撃退する。あたし達にできることは、それぐらいしかないの」
撃退…と、軽々しく言ってのける。
イオリは、年は俺と同じか、イッコ上の先輩か、その程度だおもうが、なんだかものすごく頼りになるおねぇさんのように思えた。
イオリの身につけているものの中で、日本刀はかなり気になったのだが、もう1つ、気になるものがあった。
「その…黒い腕輪は、なに?」
俺はイオリが左手首にはめている、シンプルな黒い腕輪を指差して言った。
オシャレにしてはあまりにも飾りっ気がなく不自然で、先ほどから違和感があった。
「さっきあたし3mくらいジャンプしてたでしょ? この腕輪のおかげなんだ」
そこで俺は初めて、イオリは、俺を一足で跳び越え、あの黒いやつに日本刀で斬りかかったのだということを理解した。
「これつけてれば、あれくらいのことは簡単だよ。殴られても全然平気。あとで、キミにもあげるね」
ほうほう。なるほどね。
実は先ほどから、イオリの前でカッコ悪い醜態を晒してしまった気後れがあったのだが、それが少しマシになった。
そういう便利アイテムを装備してたから、イオリは臆することなくあんなバケモノを撃退できたのか。
ほーーーーん、なるへそ。
じゃあ俺もそいつを装備すれば、同じようなことができるんだな。ふふふ。
俺の心に、余裕と平静が舞い戻ってきた。
早くその腕輪を装備したいなぁ。
イオリはスタスタと階段を上がり始めた。
俺もそれに続く。
階段で、女子の後ろに位置取ると、スカートから覗く生足が目の前にきてしまう。
そんな経験は誰しもあるだろう。
いま俺の目の前で、それが起こっている。
短めのスカートから伸びる、白くむっちりとしたイオリの健康そうな太ももが、俺の目の前でたん、たん、たんとステップを刻んでいる。
ああ。なんていい眺めだろう。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
たしか目的は四階だったな。
それまでたっぷり堪能させていただこう。
ありがたや、ありがたや…
!!
その瞬間、俺はハッと息を飲んだ。
イオリの右の太ももの、もう、かなり尻に近い部分。
そのあたりに、黒い何かがチラと見えるのだ。
スカートが邪魔でよく見えないが。
これは、刻印…!?
獅子だ。ライオンだ。
おどろおどろしいライオンの刻印が、イオリの太ももに彫り込まれていた。
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