念願の異世界転移がようやく俺にも巡ってきたけど仲間ばっかり無双してて辛い
第2話 黒いやつ
違うんだ。
もっとこう、武器は何でも使いこなせるとか、身体能力が五倍になるとか、そういうのを想定していたんだ。
なんだフェロモンて!?
予想だにしないスキル内容に俺は混乱をきたしていた。
異性に対する効果はかなり惹かれるものがあるが、それ以上に同性への効果が怖い。
子を虐殺された親ってアンタ。そんな恐ろしいものを、この刺青を擦るだけで生み出せるというのか。
にわかには信じがたい。でも、誰かで試そうにもここには俺一人しかいない。仮にいたとしても、とても試せるものではない。ある意味これは人権侵害の能力とも言える。俺は、わりとそのあたりの良識はしっかりしているのだ。
あーぁ…なんかちょっと早くもテンションがた落ちだ…
…
ぞわり、と胃が引きつった。
なに。なんだこいつ。
いつからここにいた?
スキルノートに夢中で全く気づいていなかった。
いつからかは不明だが、いま、俺の目の前に、明らかな怪異がいる。
バケモノと言ってもいい。怪人でもいい。
ともかく、今までに見たことのない恐ろしさと気味の悪さを兼ね添えたものがそこに立っていた。
黒い。真っ黒だ。そしてデカい。
身長は2.5mはある。
そいつは人の形をしていたが、バランスがおかしかった。
頭は…そう、ソフトボールか、グレープフルーツか。それぐらいの大きさしかない。
目や口はよく見えない。とにかく真っ黒なのだ。ただ、縦に一本、裂け目のようなものが入ってるのがなんとなく見える。
はち切れそうなほどに筋肉の発達した上半身。肩周りなんて、俺の胴体くらいの太さがあるんじゃないだろうか。ボブ・サップが貧相に見えるほどの厚い胸板の筋肉は太陽の光を反射して白いハイライトを生み出してしていた。
脚は、上半身と比べるとやけに細かったが、スラリとした筋肉質の脚は、機動性の高さを思わせる。
そして、体の割に細い脚の間にブラ下がる、巨大な…アレ。
ぶらりぶらりと揺れる真っ黒なソレは、500mlのペットボトルと同じくらいの太さで、長さはそれの倍くらい。
…そこまでなら、気味が悪い、で済む。いやそこまででも十分怖いのだが、それ以上に怖いものを、そいつは右手に握っていた。
人の脚だ。
青黒く変色しているが、どう見ても人の脚だ。
怪人は足首のあたりを握っている。足首の先には、スネがあり、膝があり、太ももがあって…
その先は千切れていた。大腿骨が少し、飛び出している。
俺は完全に言葉を失っていた。
スキルのことなんか、一発でどうでもよくなっていた。
ただ、目の前にいる怪異の恐怖から逃れたい。それだけだった。
ふいに、黒いグレープフルーツの縦の裂け目が、ぱくり、と広がった。
その裂け目から、漆黒の肌とは対照的な、真っ白な触手のようなものがニョロニョロと這い出てくる。
そいつは、ニョロニョロさせながら、ゆっくりと、こっちに近づいてきた。
「う…あ…う…」
俺は恐怖のあまり悲鳴すらあげられず、そんな間抜けな声を絞り出すので精一杯だった。
足が動かない。全身がカタカタと小刻みに震え、身体が言うことを聞かない。
怪人が、もう、すぐ目の前まで迫っている。
仮に、仮にだ。
やつが右手に握っている人の脚を振りかぶって、俺めがけて叩きつけてきたら、もう、十分に届く間合いだ。
でも、わからないじゃないか。
ああ見えて、もしかすると、俺と友好的な関係を築こうとして近づいているのかもしれないし、むしろこっちがウオー!とか声出したらビックリして逃げていくのかもしれないし…って、うわあああ!!!
果たして、やつは右手に握っている人の脚を振りかぶって、俺めがけて叩きつけてきたのだった。
本能的なものだった。俺の体は弾かれたように動き、やつの一撃を運良く寸前でかわした。
バコォン!とものすごい音がした。
人の脚と、校庭の地面が大激突した音だ。
白い砂埃が巻き起こった。
「ひゃ、あ、あ、あっ、ああああ〜〜ッ!」
自分でもわけのわからない悲鳴をあげながら、俺は一目散に逃走を図る。
校庭を全力で走ることは幾度となくあったが、まさか命懸けの全力疾走をするハメになるとは夢にも思わなかった。
今俺の目の前には、あまりにリアルな死の危機がぶら下がっていて、異世界にいることなんかも全て忘れ、ただ無様に逃げ惑うだけだった。
怖くて後ろを振り向けない。だが、やつが諦めたとは到底思えない。絶対追ってきている。
と。
俺の前方に人影が見えた。
一瞬、後ろの黒いやつの仲間かと思ったが違う。
ちゃんと、普通の人の色だ。
普通の人の色って変な言葉だが。
しかもその人影は、こちらに向かって走って来ている。
この状況が見えないのか。黒くてやばそうな生物に追っかけられてるんだぞ。逃げるならわかるけど、走って向かって来てるだって?
俺は人影に向かって走る。
人影は俺に向かって走る。
猛スピードで人影の輪郭がはっきりしてゆく。
制服だ。
人影は制服を着ている。
髪が長い。
手に、白銀に煌めく棒のようなもの持っている。
さらに接近する。
女の子だ。
真剣な表情で、俺に向かって一直線に走る。
手に持っているのは日本刀だった。
最接近する。
もうあと3秒で俺と衝突する。
と思った瞬間、女の子の姿がフっと消えた。
同時に、ざんっ、と俺の後ろで切断音が聞こえた。
何が起こったかわからないまま俺は振り向かずに走り続けたが、足がもつれて盛大にコケた。
しん…と静まり返っている。
黒いやつの追撃がない。
俺はうつ伏せに倒れた状態で、上半身だけ起こし恐る恐る後ろを振り返る。
長い黒髪をポニーテールにまとめた、女の子の後ろ姿が見えた。
そして、綺麗に2つに分断されて校庭に転がる黒い怪異の死体も見えた。
もっとこう、武器は何でも使いこなせるとか、身体能力が五倍になるとか、そういうのを想定していたんだ。
なんだフェロモンて!?
予想だにしないスキル内容に俺は混乱をきたしていた。
異性に対する効果はかなり惹かれるものがあるが、それ以上に同性への効果が怖い。
子を虐殺された親ってアンタ。そんな恐ろしいものを、この刺青を擦るだけで生み出せるというのか。
にわかには信じがたい。でも、誰かで試そうにもここには俺一人しかいない。仮にいたとしても、とても試せるものではない。ある意味これは人権侵害の能力とも言える。俺は、わりとそのあたりの良識はしっかりしているのだ。
あーぁ…なんかちょっと早くもテンションがた落ちだ…
…
ぞわり、と胃が引きつった。
なに。なんだこいつ。
いつからここにいた?
スキルノートに夢中で全く気づいていなかった。
いつからかは不明だが、いま、俺の目の前に、明らかな怪異がいる。
バケモノと言ってもいい。怪人でもいい。
ともかく、今までに見たことのない恐ろしさと気味の悪さを兼ね添えたものがそこに立っていた。
黒い。真っ黒だ。そしてデカい。
身長は2.5mはある。
そいつは人の形をしていたが、バランスがおかしかった。
頭は…そう、ソフトボールか、グレープフルーツか。それぐらいの大きさしかない。
目や口はよく見えない。とにかく真っ黒なのだ。ただ、縦に一本、裂け目のようなものが入ってるのがなんとなく見える。
はち切れそうなほどに筋肉の発達した上半身。肩周りなんて、俺の胴体くらいの太さがあるんじゃないだろうか。ボブ・サップが貧相に見えるほどの厚い胸板の筋肉は太陽の光を反射して白いハイライトを生み出してしていた。
脚は、上半身と比べるとやけに細かったが、スラリとした筋肉質の脚は、機動性の高さを思わせる。
そして、体の割に細い脚の間にブラ下がる、巨大な…アレ。
ぶらりぶらりと揺れる真っ黒なソレは、500mlのペットボトルと同じくらいの太さで、長さはそれの倍くらい。
…そこまでなら、気味が悪い、で済む。いやそこまででも十分怖いのだが、それ以上に怖いものを、そいつは右手に握っていた。
人の脚だ。
青黒く変色しているが、どう見ても人の脚だ。
怪人は足首のあたりを握っている。足首の先には、スネがあり、膝があり、太ももがあって…
その先は千切れていた。大腿骨が少し、飛び出している。
俺は完全に言葉を失っていた。
スキルのことなんか、一発でどうでもよくなっていた。
ただ、目の前にいる怪異の恐怖から逃れたい。それだけだった。
ふいに、黒いグレープフルーツの縦の裂け目が、ぱくり、と広がった。
その裂け目から、漆黒の肌とは対照的な、真っ白な触手のようなものがニョロニョロと這い出てくる。
そいつは、ニョロニョロさせながら、ゆっくりと、こっちに近づいてきた。
「う…あ…う…」
俺は恐怖のあまり悲鳴すらあげられず、そんな間抜けな声を絞り出すので精一杯だった。
足が動かない。全身がカタカタと小刻みに震え、身体が言うことを聞かない。
怪人が、もう、すぐ目の前まで迫っている。
仮に、仮にだ。
やつが右手に握っている人の脚を振りかぶって、俺めがけて叩きつけてきたら、もう、十分に届く間合いだ。
でも、わからないじゃないか。
ああ見えて、もしかすると、俺と友好的な関係を築こうとして近づいているのかもしれないし、むしろこっちがウオー!とか声出したらビックリして逃げていくのかもしれないし…って、うわあああ!!!
果たして、やつは右手に握っている人の脚を振りかぶって、俺めがけて叩きつけてきたのだった。
本能的なものだった。俺の体は弾かれたように動き、やつの一撃を運良く寸前でかわした。
バコォン!とものすごい音がした。
人の脚と、校庭の地面が大激突した音だ。
白い砂埃が巻き起こった。
「ひゃ、あ、あ、あっ、ああああ〜〜ッ!」
自分でもわけのわからない悲鳴をあげながら、俺は一目散に逃走を図る。
校庭を全力で走ることは幾度となくあったが、まさか命懸けの全力疾走をするハメになるとは夢にも思わなかった。
今俺の目の前には、あまりにリアルな死の危機がぶら下がっていて、異世界にいることなんかも全て忘れ、ただ無様に逃げ惑うだけだった。
怖くて後ろを振り向けない。だが、やつが諦めたとは到底思えない。絶対追ってきている。
と。
俺の前方に人影が見えた。
一瞬、後ろの黒いやつの仲間かと思ったが違う。
ちゃんと、普通の人の色だ。
普通の人の色って変な言葉だが。
しかもその人影は、こちらに向かって走って来ている。
この状況が見えないのか。黒くてやばそうな生物に追っかけられてるんだぞ。逃げるならわかるけど、走って向かって来てるだって?
俺は人影に向かって走る。
人影は俺に向かって走る。
猛スピードで人影の輪郭がはっきりしてゆく。
制服だ。
人影は制服を着ている。
髪が長い。
手に、白銀に煌めく棒のようなもの持っている。
さらに接近する。
女の子だ。
真剣な表情で、俺に向かって一直線に走る。
手に持っているのは日本刀だった。
最接近する。
もうあと3秒で俺と衝突する。
と思った瞬間、女の子の姿がフっと消えた。
同時に、ざんっ、と俺の後ろで切断音が聞こえた。
何が起こったかわからないまま俺は振り向かずに走り続けたが、足がもつれて盛大にコケた。
しん…と静まり返っている。
黒いやつの追撃がない。
俺はうつ伏せに倒れた状態で、上半身だけ起こし恐る恐る後ろを振り返る。
長い黒髪をポニーテールにまとめた、女の子の後ろ姿が見えた。
そして、綺麗に2つに分断されて校庭に転がる黒い怪異の死体も見えた。
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