勇者の肩書きを捨てて魔王に寝返り暗黒騎士はじめました
部下
何やかんやあって、俺は魔剣と化したデュラハンと行動を共にする事になった。
四天王であり同格となったカルロは、デュラハンの意思が魔剣に宿っているのを確認すると、「忙しいから」と言ってそそくさと退室していった。
まぁ詳しい事は元々の幹部でもあるデュラハンに聞くのが手っ取り早いのだが、コイツはコイツで面倒臭そうな部類の奴でもあった。
確か四天王だからあと二人。あのでっかいドラゴンと黒いスライムが居る筈だが、またクセの強そうな面子に頭が痛くなる。それも折り込み済みでここの一員となったのだ、文句は言えない。
とりあえず俺は床に座り込み、目の前に魔剣を置いてデュラハンから詳しい話を聞くことにした。
「おいエロスカリバー、お前が身動きを取れない以上、俺が代わりに働く事になったがまずは何をすれば良いんだ?」
『ふん、まずはその〝エロスカリバー〟と言うのを訂正するのだな。我は由緒正しきデュラハン族の皇子にして崇高なる剣のーーーー』
「まぁいいや。じゃあデュラハン、何をすれば良いんだ?」
『ぐぬぬ……雑に流しおってからに。まぁ良い、ならば案内してやるから我の言う場所に向かうのだ。それと、ちゃんと鎧は身につけて歩く様に。あとそこに模造品の仮面があるから素顔も隠せ、一応は〝暗黒騎士〟なのだからな』
「面倒くせぇな、あの鎧って臭うんだよ。何かイカくせぇ」
『まだ愚弄するかぁぁぁぁあああ! そこになおれ、叩っ斬ってくれようぞ!!』
「あーはいはい、とりあえず行くかー」
跳ね回るデュラハンを掴み上げ、俺は指定された場所へと向かった。
◆
「……ここか?」
指定された場所は魔王城の一階にある拓けた場所だった。そしてそこには、剣を持った魔物達がせめぎ合っている。
『ここの訓練施設、その監督が我に課せられた仕事の一つなのだ』
「あ、うん。それは良いけどよ、なんで小声なんだ?」
『それは……カーくんや魔王様らにはバレていても、部下達にはまだバレて無い筈なのだ。戦場で一撃で屠られたなど、どの面さげて部下の前に出られようか』
「いやいや、どの面も何も、お前もともと顔ねぇからな?」
『誇りの問題だ! いいからサッサと行け!』
「はいはい、仕方ねぇな」
というか、カルロの事を〝カーくん〟と呼んでいる。なんだコイツら仲良いのか?
それはさて置き、とりあえずデュラハンの部下でもある連中に挨拶する事にした。
「えーと、やってるかお前らー?」
一同の視線が一気に集まる。
リザードマン、スケルトン、ゴブリン。剣を扱う魔物全般がデュラハンの手下らしいが、こうしてみると中々の大所帯だ。
そいつらは新参者の俺に対して、決して友好的では無い視線を向けているが、それを掻き分けて一体の骸骨騎士が前に出てきた。
「お前が……デュラハン様を破った元勇者か?」
「お、おぅ」
「成る程、デュラハン様の亡骸を纏うなど、大それた事をしてくれる」
声帯もなさそうな骸骨騎士は落ち着いたトーンで話す。どうやら、デュラハンの部下の中でもリーダー格らしい。
「元勇者、俺達はお前を認めない」
「いや、そんな事言ってもお前らの上司を任されたんだぜ? それは困るっての」
「ふん、俺達を従えたいのなら……もう言葉はいらないだろう?」
そう言って剣を抜き、俺の鼻先へと向けた。
(うっわー面倒くせぇ。デュラハンもそうだがコイツら全員そのノリかよ)
しかしまぁ、郷に入りてはなんとやら。
確かに一番手っ取り早く示しをつけるなら、実力行使がセオリーだと思った。
「いいぜ、相手してやるよ」
「吐いた唾は飲み込めぬぞ?」
「はいはい、好きにかかって来いよ」
俺は挑発気味に骸骨騎士を煽ってみた。
顔は骨そのものなので表情は読めないが、多分、ニヤリと笑っていたに違いない。その証拠に、自信満々に剣を構えているのだから。
(おいデュラハン、それでどうすればいいんだ?)
(は!? 馬鹿かお前は! 散々煽っておいてノープランだと言うのか!?)
(いや、お前を倒して強くなった気はするんだけどよ……俺ってイマイチ剣の使い方とか分からねぇし)
(知らん! ならボコボコにされてしまえ!)
(いいのか?)
(な、何がだ……?)
(お前を倒した俺が、お前の部下にアッサリ負けてもいいのかって言ってんだよ。それだと面子なんかあったもんじゃねぇよな?)
(ぐぬぬ……ひ、卑怯者めが!)
(で、どうするよ?)
(ちぃッ……ならば、力を抜いて身を委ねるがいい!)
俺は言われた通り身体の力を抜いた。すると、途端に身体が軽くなり、そして剣の扱いが自然と頭に流れ込んできた。
(おおッ! すげぇ何これ!?)
(我の鎧と魔剣、それを身につけている故に出来る芸当だ。これなら我と同等に動ける筈だ)
(すげぇな、これなら何とかなりそうだわ)
(部下の前で恥は晒せぬ……仕方ないであろう!)
魔剣を少し振ってその感触を確かめる。
「ーーそれじゃあ、行くとすっかな」
俺が魔剣を構えると、骸骨騎士は剣を振りかぶりながら攻撃を仕掛けてきた。
とりあえずその剣の軌道を読み、下から打ち上げる様に魔剣を振り上げる。すると、剣を弾かれた骸骨騎士はよろけながら後退した。
「なんだ……急に動きが、それに……どこにも隙もないだと!?」
「お前らの上司を倒したんだぜ?当たり前だろうが(少しは華を持たせてやらねぇとな)」
「しかもその太刀筋、まさにデュラハン様の……」
骸骨騎士は剣を落とし、そして膝をついた。
「参りました、我々は貴方に付き従います!」
それを見た他の魔物も、同様に膝をついた。
(え、そんな呆気なく?)
(真の剣を知る者は、己と相手の力量の差など一太刀で理解出来るものだ)
(なにそれ怖い)
(兎に角、これでお前の立ち位置は確立されただろう)
(そ、そうなのか!? よし、ならーー)
「お前らの面倒は、今日からこの『暗黒騎士ユーリ』が引き受けたぜ!」
わーわー!
ユーリ様バンザーイ!
(うわーこれ超気持ちいいじゃん)
こんな大勢によいしょされる事は初めてだった。そして同時に、少しではあるが暗黒騎士としてのやり甲斐を見つけた気がした。
◆
ーーユーリ宅
「すいませーん!おじさんおばさん、ユーリ居ますか?」
「ヘイ、いらっしゃいサラちゃん。残念だけどユーリは就職してね。家から出ちゃったんだ」
「ユーリが……シュウショク?」
「とびきり美人なボインボインな魔王がいる魔王軍なのよー。あの子も隅に置けないわねぇ!」
「……魔王、女、オンナ?」
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