勇者の肩書きを捨てて魔王に寝返り暗黒騎士はじめました

名無し@無名

暗黒騎士

 

 覚悟を決め聖剣を握りしめてデュラハンに向き直る。

 もちろん、勇者になったから魔王軍を倒そうなんて考えていない。ただ、あらゆる理不尽から〝己を守る〟為の行動なのだ。


「……ふん、流石勇者といえる。その出で立ち、溢れ出る闘気……賞賛に値するぞ!」

「あ、はい」

 デュラハンは俺が剣を構えるとやたらとテンションを上げてくる。いや、出で立ちもクソもこちとらシャツにズボンだ。当たり前だが鎧も無いんだぜ?

 そして闘気なんてものは微塵も出ちゃいない。出ているのは冷や汗くらいだ。

 しかし魔物といえど剣士のサガなのだろう。このなんとも言えない、騎士道を前面に押しだしてくる感じが苦手だ。暑苦しいことこの上ない。

 そしてまずデュラハンの身体についてだが、首が無いのは当たり前だとして鎧の継ぎ目、つまり関節にあたる部分に目を奪われた。

 よく見ると、関節となっている所は紫色のオーラの様なもので繋がっており、つまりは首だけでは無く肉体すらも無いという事らしい。


(これ…そもそも剣で斬って倒せんのか?)


 普通の魔物なら叩き斬れば倒せるだろう。しかし、目の前にいる相手は肉体を持たない鎧のバケモノだ。鎧ごと斬るにしても素人の剣技でどうにか出来る訳がないのは明白だ。


「さぁ勇者よ! 最高の戦いにしようぞ!」


 ごちゃごちゃ考えていたが、勝手に盛り上がっていたデュラハンが剣を構えて走り出してきた。

 いや待ってよ、まだ心の準備が出来てない。


(だが、迷ってる……暇は無ぇか…!)


 俺は考えるのをやめ、一心に剣を縦に振るった。









 ーーザンッ!!










「……み、見事……だ」

「……は?」



 ガラガラと鎧ごと崩れ去るデュラハン。

 それは、もう人の形を成さないただの鎧となって地面に散らばった。そして俺の攻撃に魔王軍に騒めきが起こる。そりゃそうだろう。魔王軍の幹部が一撃で沈められたのだ、無理もない。

 そして一番困惑しているのは俺だ。

 ズブの剣の素人が、魔物の幹部、しかも剣を扱う奴を一撃で屠ったのだから。

 やがて立ち竦む俺の目の前に、光が収束して見たことのあるシルエットが現れる。


『おほー、流石は聖剣エクスカリバーだね!オリヴィアちゃんのフルカスタム Verはダテじゃないか!』


 突然現れたクソ女神。

 こいつ、肝心な時には居なくなったクセに神出鬼没すぎだろう。そして何故か自慢気にペラペラと喋り出した。


『これは元々聖剣だったもので、私が独自のカスタマイズを施した一振りなの。まず相手の能力と自分の能力を同格まで引き上げて、そしてコッチだけに追加で五割増しの補正が掛かる神魔法が付加してあるのさ。いわば誰が相手でも無敵って寸法よ。いやー苦労したけど自慢の剣でね、嬉しくて直筆のサインまでしちゃった。テヘッ!』


 バチッと音がしそうなウインク。しかし、女神の言うことが本当なら言葉通り無敵じゃないか。原理は分からないが、神の操る魔法というのは本物らしい。


「…すげぇ」

『んふふ、さぁユーリくん!その剣で魔王軍の魔物をバッサバッサ斬り倒して勇者として名を挙げようじゃないか! いやーこれで私もポイント稼げるわ、今度の天空議会で昇格間違いないねコリャ』

「…ぐ、勇者が此処までやるとは!」


 女魔王の顔に焦りが浮かぶ。

 まぁそうだろう、今まで干渉してこなかった神の存在がここまで強大だとは思わない。そして女魔王だって即位したばかりだと言うなら、いきなりこの様な事態に陥って冷静なれというのは酷な話だ。


『うっふっふ、ひれ伏しなさ〜い下賎な魔物達! 今までは私の上司が邪魔して殲滅出来なかったけど、今はその上司も居ない! なら私がスタイリッシュかつ迅速に世界平和をもたらしてあげるんだから!』

「…あ? 待て女神、上司が邪魔してって何の事だよ」

『ん? いや魔物がいても世界の均衡がどうとか言う甘ちゃん上司が居たのよ。だけどおかしくない? 均衡を保つのって魔物がいるから大変であって、それってつまり魔物を排除したら終わりじゃん?』

「……………」

『でもさ、それを言ったら上司が言うの。「この世界はそんなに簡単では無い」だって。いや、いやいやいや! シンプルこそ正義でしょ? こーれだから歳をとると考えが固くて嫌だわー』

 女神はツラツラと喋るが、その言葉は俺の中に響いた。確かに魔物は危険だ、命に関わる場合だってある。しかし、今のこの世界にもたらされている均衡は、果たしてそんな簡単なものなのか?仮に居なくなれば失ってしまうものもあるんじゃないか?

 ーーそれは、ここで簡単に決めていい事じゃない。

 それに女神の上司の言葉が本当なら、この女神を野放しにするのは人類にとって良くない。天真爛漫なのはいいが、世界の理に関わる女神には適していないと心底思った。それはあの国王達を見ても一目瞭然だろう。


『さ、ユーリくん。スパッといっちゃいなよ!』

「…………」

『……どしたのかな?』

「…………」










「……決めたわ」

『ん?』


 俺は女神に向き直り、そして聖剣を地面に刺した。

 柄を握ったままなら先程の得体の知れない阿保みたいな能力が発動するみたいなので、俺は柄を握ったまま、思いっきり聖剣に蹴りをお見舞いした。


 ーーバキィ!!

『は!?……ちょ、は?…えぇ!?』


 見事にポッキリと鍔の根元から折れた聖剣。すると、先程の神の魔法の力が消えていくのが分かった。そして女神をはじめ、魔王の軍勢が驚きの表情を浮かべて俺を観ていた。


「あのさ、俺は世界がどうとか分からねぇけど、多分お前の目指す所は間違ってると思うんだわ」

『……ど、どうゆう事かな?』

「魔物だから殺すってのは短絡的だって事だよ。確かに危ない存在だろうが、簡単に根絶やしにするのは早合点だって言ってんだ。前の魔王だってその気になれば人間なんていつでも殺せただろ? だけどそれはしなかったし、お前の上司も同じ感じだろうがよ」

『そ、それは訳の分からない条約を出してきたからーーーー』

「だからそれにも何か訳があるんじゃないのかって話だ。もう少し客観的に見てみないと分からない部分もあるだろ」

『……女神に逆らうの? 勇者なのに?』

「……………」


俺は沈黙し、やがて女魔王に向き直った。

折れた聖剣の柄を地面に捨て、そしてーーーー。






「なぁ魔王、俺をお前の仲間にしてくれねぇか?」
「!? ……な、なんだと?」

『いやいや!ちょっ…本気で言ってんの!?』

「ああ、お前との話が平行線なら俺は俺なりに考えて見るわ。魔王やお前の上司が、一体何を考えていたかをよ。聖剣は折れて使い物にならねぇけど、さっきの戦いでかなりレベルアップしたし。多分、そこそこ強くなった気がするんだわ。だから魔王、俺をデュラハンの代わりに雇え」

「………本気か、勇者?」


 女魔王は困惑の表情を崩さない。


「ああ、そんで勇者の称号は熨斗つけて返してやるよ女神。俺は今日からーーーー」


 俺は落ちていたデュラハンの鎧を拾い、この身に纏っていく。

そして魔王軍の方へ歩み寄り、女神に向き直ると宣言した。



「ーーーー俺はもう勇者じゃねぇ。今日から魔王軍の暗黒騎士としてやってくから」

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