弱肉強食

江戸っ子

開幕


水滴の落ちる音が微かに聞こえる
疲れを癒すはずの温もりもなく、鳥肌が立つような寒気を感じて目を開けた
いつも見慣れている天井はそこになく、コンクリートでできたブロックで埋められた天井に1つだけ電球がぶら下がっているというなんとも質素な天井である

違和感を覚え、佐々木優奈はゆっくりと上半身を起こす
片手をついた時に、床もコンクリートである事を確認する

優「あぁ…腰痛ぁ…」

何時間眠っていたかわからないが、ボーッとする意識からかなり寝ていたようだ
腹を前に出し骨がなった腰を手で擦りながら半目ではあるが目の前に現れたものをしっかりと確認した

まず視界に入ったのは、とても頑丈だとひと目でわかる扉だった
辺りを見渡してもその扉にしか目が行かない程、黒々としている
その扉の1m程左には成人男性の拳がすっぽりと入りそうな穴が一つだけがぽつんとある

立ち上がろうとした時、指先が何かに触れた
隣で寝息をたて気持ちよさそうにしている女性には見覚えがあった
とてもニヤニヤしてヨダレを垂らしながら眠っている
好きな人とデートでもしている夢だろうか、
美味しいご飯でも食べているのだろうか
相変わらず幸せそうな顔をしていた

この子の名前は安田美穂
見た目はぽっちゃり系、痩せれば可愛いと思う
高校で知り合い、同じ部活に入り、大学に進学するのも美穂と一緒にいたいという理由でその大学を選んだ
とても優しくて気が利き、聞き上手でいつも私の相談を聞いてくれていた
いわゆる親友というやつだ
後ろも確認したが、これといって目立つ物はなかったが、

服がめくれ、すごい格好で寝ている女性
いびきを立てて、大の字で寝ている男性
くの字になり、寝言を言っている男性
端っこの方で、静かに座って寝ている女性
うつ伏せで、腕を枕にして寝ている男性
尻を掻いて、寝返りをする男性

教室のような広さしかないので全員を、そして部屋にあるものを把握するのは簡単だった
全員知っている、と言うのも皆同じバスケットボールサークルのメンバーだった

何もない空間、なのに首筋にスゥっと風が吹いた気がした
どうしてこんな所にいるんだろう
思い出せるのは、バスケの大会終わりの打ち上げで終電まで楽しく居酒屋で飲んでいた
その後に二次会に行く人、帰る人で別れて私は終電に乗ったはず…
飲みすぎで寝てしまったのだろうか、でもそれなら電車の中で誘拐されるのは私だけのはず…だけどメンバーの皆はここにいる
それからの記憶が何もない
ここはどこだろう、なんで私たちなんだろう、目的はなんだろう、誰がこんなことを、家に帰りたい、今何時だろう、ずっとこのままなの、そんなことを考え始めると止まらなくなってしまう

目が覚めてから時間はそう経っていないのに、
とても長く感じる
気持ちよさそうに寝ている美穂には申し訳ないが、1人だと不安がどんどん増していく

優「ねえ美穂起きて…ねえ!」

肩を掴み、強引ではあるが揺らしてみるとうぅんと美穂がゆっくり目を開けた

美「んっあれなんで?おはよ優奈…あれ、ここどこ?」

上半身を勢いよく起き上げキョロキョロと辺りを見渡した美穂の顔が青ざめていくのがわかる

優「なんかここ気味悪いよね…」
美「ねえ…私達って誘拐されたの?」

ボソッと、だがしっかりとこちらを見つめる美穂に目を逸らしながら

優「私も今起きたばかりだしわからないの」
美「そうだよね。ごめんね。」

わかっていたと、そんな表情を美穂がした

優「ねえ美穂、昨日の帰り道覚えてる?」
美「え?昨日は終電に圭介くんに送ってもらってから…あれ?その後は…えっと…」
優「私もね、電車に乗ってからの記憶が無いの」
美「誘拐ならなんで私達なんだろうね」
優「そんなこと私にはわかんないよ」
美「あっごめん」
優「それにまだ誘拐されたなんて決まってないんだから」
言い終わった後、強めな口調を後悔した
美穂はやはり覚えてないらしい
私だけじゃなかったと安堵したが、2人とも記憶がないのはより不安を掻き立てた
短い沈黙の後、

美「ねえ圭介くん起こそうよ!」

そう言うと私の返事も美穂は聞かずに立ち上がり、うつ伏せで腕を枕にして寝ている男性に声をかけた

美「圭介くん!起きて!起きてよ!」

やや乱暴に美穂は相田圭介を起こした
圭介の性格はフレンドリーで、面倒見が良く運動神経がとてもいいので女の子からとてもモテる、顔立ちもいいのでそれも好印象だ
もちろん美穂は圭介の事が好きで、サークルを続けている一番の理由がそれ

圭介は、んっと短く相づちをし、ゆっくり腕立て伏せのように起き上がった

圭「おはよう美穂…ってここどこだ?」

寝ぼけた声で続ける

圭「あれ、俺電車で寝ちゃったのか」
美「私も電車に乗ってからの記憶が無いの」
圭「そうなのか…あの扉は…」

そういうと圭介は立ち上がりゆっくり扉に近づいた
ガチャガチャとドアノブを回すが鍵がかかっていて開かない

圭「鍵…かかってんな」
美「ねえやっぱり誘拐なんじゃ…」
圭「誘拐か。その可能性は高いね」

その一言で美穂の表情が強ばっていくのが見えて私は美穂に近づいた

優「大丈夫だよ美穂。みんなついてる」
美「あ、ありがとう」
圭「とりあえずみんなを起こそう」

そういうと圭介は一人一人肩を叩き起こしていった


?「んー…わっ圭介!なんでお前が!ってなにここ…優奈に美穂までいんじゃん」

服がめくれて寝ていたのは田島詩織
金髪で濃いメイク、服装も露出度が高くいかにもギャルだ
私たちの学校では珍しいタイプで口調も悪い。学年でも性格は浮いているのだが、メイクのせいか綺麗な顔をしている


?「あれ圭介?帰ったんじゃなかったのか?いてててて、腰が痛え…どこだ?カラオケは??」

尻を掻いて寝ていたのは古木裕太
お調子者で盛り上げ役、顔は猿顔で背が小さい
皆、彼が喋ると元気に、そして笑顔になるほどでムードメーカーの言葉がお似合いだ。


?「えっあっ圭介さ…ん?どっどこですかここ…」

静かに座って寝ていたのが伊藤花梨
読書好きで大人しい性格、印象的なのはその長い髪の毛で腰まである。いつも会話に入れていないので私はそこまで仲良いと思っていない

?「おぉ圭介、それにみんなおはよう。聞くがここはどこだ?」

くの字に寝ていたのが山崎勇次
いつも冷静で、学年1の成績を常に維持し、アクシデントがあった時はいつもみんなをまとめてきた。夢中になりすぎると周りが見えなくなるので、学年の中では絡みずらい存在ではある
父がスポーツ選手なだけあり、スポーツ万能で顔はアイドルにいそうな顔をしている。


?「なんなんだよ一体…あ?なんだよここ」

大の字で寝ていたのが森永蓮
短期でわがままな性格で、髪型は派手目だが、顔がイマイチ…。聞いたことがあるのだが、バスケはモテると聞いてここのサークルに入ったらしい。いつもサークルでも問題ばかり起こしている彼となぜみんな仲良くしているのかわからない…


圭介が全員を起こすが、皆困惑と不安の表情を隠しきれていない
起こした人に昨日の帰り道の事を聞いても、
やはり覚えていなかった

裕「居酒屋で別れてからカラオケで」
詩「あたしもそんぐらいかなぁ」
花「はい…」
連「ッチ やっぱ何も思い出せねえ」

カラオケに行った人達もカラオケに行ったのは覚えているがそれ以降は覚えていないようだ

圭「みんな覚えてないなんてな…なんか薬でも飲まされたか?」
祐「薬って言ってもみんなが口にしたもんなんてビールぐらいだろ」
美「あれは?最初のキャベツ!!」
優「薬品なら味とか変わらないのかなぁ…」

すると勇次がブツブツと喋り始めた

勇「眠らせる薬だとすると麻酔の類いだな…意識がなくなった時間はほぼ同じ居酒屋を出て30分後…効果が現れる時間、それに体内に入った時間がわからないからこれだど断言出来るものは…現在時刻から眠っていた経過時間も分からないな…空気ならどうする…イソフルランなら匂いで分かるし離れているから同じタイミングでは不可能だ…身体のどこにも注射痕はないし、やはり食べm」
蓮「今は眠らされた方法じゃなくてどうすればこの部屋から出れるかを考えろ!!!!」

バンッッと扉を蹴る音がしてビクッとなった
全員が驚いて蓮の方を向いた

蓮「そんな事はここを出てから話し合え!先に出るのが優先だろうが!!」
圭「少しでも不安要素を無くしたいんだよ!」
勇「今のところ部屋に動きはないし時間もありそうだ。落ち着いてから行動した方がいいだろう」
蓮「本当に誘拐されてたらどうするんだよ?」
勇「……」
蓮「頭のいい勇次でもわかんねえか」
圭「そんな言い方はないだろ」
蓮「なんだよ、じゃあお前は分かるのか?」
詩「うざ…」
蓮「なんだとこの糞ビッチが!」
詩「わかったわかったぁ」
蓮「ッチ」

詩織の一言に蓮は顔が真っ赤になるほど怒っている
花梨はふるふると震えて喋らない
勇次は何も言えなかったのを引きづってか、下を向いてしまった

すると扉の鍵ガシャンと鳴った



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