Moment-初めまして新しい君-

西浦 詩与

プロローグ


嗚呼、終わった。


 朦朧とする意識のなか必死に自分に鞭を打ち術式を展開させていたエレウテリアは心の中でそう冷静に感じた。
 底を付きかけている魔術師のエネルギーである魔力。身体には無数の傷があり数回魔法による攻撃をくらっているため骨も数本は折れているかもしれない。正直立っているのもやっとだ。
身体には無理やり運動能力向上、反応速度向上
、痛覚遮断、魔力回路全開とあらゆる魔導干渉を施しているためもう気も狂いそうである。

でも今は死ねない。死んではならぬのだ。
何故なら背後にいる御方を守らなければならない。

 その背後には私の背中を守って下さる愛しい人。グランツ様が私と同様必死に剣を構えている。
彼も荒い呼吸を繰り返し身体には無数の切り傷や打撲傷などがありもうほとんど力尽きている。彼はこの国の国王の第一王子である。
 この国は今同盟国の裏切りによる敵襲により現国王様は討たれてしまい崩壊しかけている。兵も残りわずかほどである。何人かは捕虜として捕まってしまった。
 城の者達は逃がしたが逃げきれているのだろうか。国民の皆は無事だろうか…。しかしそんな事も今はまだ考えられない。
  今は後に残った国のためにグランツ様は何としても守らなければならないのだ。
  またグランツ様は私の番でもある。私が男であり同性なのにもかかわらず優しく私を愛して下さった。世間からはまだ認められてはいないがグランツ様や父である国王様も含め周りの皆は温かく受け入れて下さっていたのだ。
  グランツ様は私の愛しい御方であり、皆の希望なのだ。まだ絶望してはならない。
  しかし、今目の前に立ちはだかる敵の数はざっと30はいる。囲まれてしまった。逃げ場はない。
ほとんどは兵士や騎士である。1人だけ魔術師がいた。かつての私を先輩と慕ってくれていた後輩魔術師である。畜生、なにか隠してはいるとは思っていたがまさか裏切られるとは思っていなかった。
  どう足掻いてもこの数は無理である。2人対30人。私たちはもはや瀕死に近い。絶体絶命。
「(どうする……?絶対助からない、どうすればこの状況で守れる?)」
「……畜生っ…!」
必死に考えていると後ろでポツリとグランツの声がした。瞬間ひらめいた、あるではないか。
「(あ……ある一つだけ…グランツ様を守れる方法)」
  禁忌の魔術である。幼いころ魔女に攫われ禁忌の魔術を教えこまれていたため禁忌の魔術はいくつかできる。禁忌であるため代償もあるがもうこの際どうでもいい。グランツ様を守りたい。悩む時間などもう無いのだ。
  即座に無詠唱で唱え、グランツに結界を張る。同時進行でグランツへの転移魔法と禁忌の魔術を唱えていく。
大きく不気味な光を放つ術式がエレウテリアの足元で展開される。
 敵兵達は急に現れた術式がなにを起こすのか分からず動けないでいた。
対し、グランツには半透明な球体の結界が覆われ白く輝いていた。魔力が足りない上に同時詠唱なため時間がかかっていた。
  グランツは何が起こっているのか分からない。
「……エレ??何やって……」
まさか、私だけを…?
嫌な予感がよぎりグランツは必死に結界越しにエレウテリアを止めようとするが為す術もない。叫ぶことしか出来なかった。ただ愛しい名を呼ぶだけ。
「エレ!!エレ!!」
涙が溢れ出し止まらない。目の前の番は口から血を吐きながらも必死に立ち詠唱をとなえている。止めてくれ。お願いだから私から離れないでくれ。
  そんなグランツの気持ちとは裏腹にエレウテリアはすらすらと詠唱を唱えていく。
「(嗚呼…不思議に怖くないな。もっと一緒にいたかった。)」
とても幸せな日々だった。
温かく心地よい小さな幸せであったがエレウテリアには充分すぎた。
グランツ様はとても能があり素晴らしい御方だこの国をこの先きっと蘇らせて下さるはずだ。
口から血がこぼれる。苦しいが最後にあの御方の顔をみたい。
振り返るとそこには結界の中で涙を流し悲しげに私を呼ぶグランツ様。
途端とても胸が苦しくなる。別れはとても切ない。
笑え。笑って最後はお別れしよう。また出会う日まで。
「さよならグランツ様……ずっとお慕いしております」
刹那におこる大爆破。一気に視界が塗りつぶされた。
  当たりは爆風と激しい炎に包まれる。
「エレェェーーーーー!!!」
グランツは必死に叫んだ。瞬間に転移され気づいたら山の中にいた。
遠くには激しく煙が上がっている。そう遠くへは転移出来なかった様だ。
「アア……アアエレ……ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
グランツは今まで感じたことの無い絶望と悲しみに陥った。
愛しの番が私のために命を張って守ってくれた。
しかし、もうエレウテリアはいないのだ。
  エレウテリアは死ぬ間際、走馬灯をみていた。
ふと過ぎった何気ない日常のなかで2人で話した未来の話。
『グランツ様は輪廻は信じますか?』

『輪廻…?どうしたんだい急に』

『いや…幸せすぎてこの幸せがずっと続いたらなと…私の一生では足りないなって…申し訳ありません!私などがこんな贅沢を』

『いいじゃないか、私もエレとずっと長くいたい。この一生では足りないな?よし、生まれ変わっても君を必ず迎えにいこう。大丈夫私はこんなに君が好きなんだきっと見つけられるさ』

『ふふ……約束ですよ?未来も楽しみですね』

『まずは今を楽しまなくてはな』
そう言葉遊びをし、グランツ様の温もりに包まれていた。
最後の最後でも思うは愛しい番。
『(あの約束覚えていてくれたら嬉しいな…とっても幸せだった)』
もしまた出会えたら、また貴方を慕い共に歩みたいなと感じたのがエレウテリアの最後であった。

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