お嬢様は軍師様!

葉月 飛鳥

第9話 お嬢様 罠を仕掛ける



「ハロルド隊長。今日はありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ殿下に大きな怪我がなくて良かったです。」


ガタッガタと揺れる馬車の中では、騎士の一団3名とオーガスタ、クローム、アルトの3名が乗っていた。
セイント学園では生徒は剣の実戦経験をつける為、セイント王国の騎士達と一緒に任務についていくことがある。
その場合、生徒の剣の腕だったり任務の難しさなど色々な条件があり、条件が通ると騎士団と一緒に任務についていく事ができる。
オーガスタ達はある村で作物などを食い荒らしている獣を騎士団に一緒に討伐を行き、今はその帰りである。
みな、体の所々に多少の傷があるものの大きな怪我をした者はいなかった。


「しかし、殿下の剣の腕も素晴らしいですが、サジタリア殿の腕も素晴らしいですな。」
「そうそう。下手したら新米のジョンよりも上じゃね?頑張れよ、ジョン!」
「ダリウス先輩・・・それはないです。」


今回オーガスタ達が同行した騎士団は、セイント王国の中でも腕がたつ集団だ。
特に隊長であるハロルドは、若くして隊長になった優秀な騎士である。
時々、学園に来たりもして生徒達の指導も行っていて、オーガスタ達もハロルドの指導を受けていた。
獣の討伐の時も、ハロルドはオーガスタ達に実戦での指南を行っていた。
逆にハロルドの部隊で新入りがジョンである。
聞くところによるとジョンは平民出であり、ハロルドに憧れてソラリア学園に入学をしたらしい。
卒業したばかりなので、オーガスタ達のすぐ先輩にあたる。
幼い頃から狩りをしていたらしく、今回の討伐の時は解体の仕方を教えてもらった。
そのジョンをからかっているのが、隊の副隊長である。
ダリウスは貴族出身だ。
貴族と言っても妾の子で、母親は平民出身。おまけに次男坊であった。
年が離れた兄がいて、すでに結婚もしていて子供もいるので、ダリウスは食い扶持を稼ぐために騎士団に入ったらしい。


「私はまだまだです。もっと強くならないと・・・。」
「うわっ。まだクロームさんは、そんなこと言うのかよ!」
「そんなこととはなんだ、アルト。」
「まあまあ、2人共。」


アルトがクロームを茶化し、それをオーガスタが止める。
学園でも、オーガスタ、クローム、アルトはこんな風に過ごしていた。


「本当にヒューデガルドを連れていかなくて正解だったな。」


アルトは急にボソッと呟く。
その言葉は誰も聞こえなかった。


******


「ねぇねぇ。今度、新しいカフェが出来たからみんなで行かない?」


学園でいつものように、オーガスタ、クローム、アルト、ヒューデガルドが談話室で休憩をしていた。
談話室は共同スペースや個人の部屋などがあるが、オーガスタ達はいつも共同スペースを利用している。


「すまぬが俺は鍛練があるので無理だ。それに、そのよう場所には、ちょっと・・・。」
「クロームには聞いてないよ!絶対断るし!アルトとオーガスタは?」
「女の子がいれば行くよ。ヤローばかりってねぇ、殿下。」
「僕もこれから用があって・・・。」
「えー。じゃあ、またポールと行くのぉ・・・。」


ヒューデガルドは口を尖らせて「ブーブー」とオーガスタに向けて言った。


「うーん・・・やっぱいいや。ポールと行ってもつまんないし。ポール、予約キャンセルしてきてよ。今すぐね。」
「はい、ヒューデガルド様。」


ヒューデガルドの後ろについていたポールが、直ぐ様この場から離れていった。


「あーあ。なんか刺激があるものってないかなぁ。最近つまんなくて・・・。」


ヒューデガルドはそういいながら、テーブルに肘をつき、退屈そうな顔をしながら中央に置いてあった、お菓子をバリバリと食べ初める。


「たまにはブライトも鍛練したらどうだ?この前、注意されただろ。」
「僕はこのままでいいよ。いざとなったらポールに守ってもらうし」


クロームの言う注意とは、以前訓練の為で学園の敷地内にある森林で、走り込みをしている最中にヒューデガルドが消えてしまい、みんなで探したことがあった。
学園内にある森林は野生の獣など危険な動物はいないが、森が深いので新しく入った生徒達が見失うことが多々あるのだ。
あの時もヒューデガルドがいなくなったことで、みんなが慌てだし森林に入って探したのだが、長い時間探しても見つからず一旦戻って増員をしようと学園に戻った時に本人を見つけた。
しかも、当の本人は庭のテラスで他の令嬢達と一緒にお菓子を食べながら、おしゃべりをしていたらしい。
聞いたところによると、訓練が辛いという理由で走り込みをしている最中こっそりと抜け出し、そのまま見つかるまで楽しくお茶をしていた。
それを聞いた指導役の先生は激怒し、ヒューデガルドに反省文を書かせたと言うのだ。


「そういえば話変わるけど、オーガスタ達って今度、騎士団と一緒に討伐しに行くんだよね。」
「討伐と言っても、獣だけどな。」
「いいなぁ~。僕も行きたいよ。無理かな?ねぇオーガスタ。」
「危険だから厳しいと思うよ。」
「むー。どうしてだよー?」
(どうしてって・・・)


ヒューデガルドの言葉にオーガスタは正直どう言えばいいか迷った。
はっきりと「足手まといになる」言ってしまえばいいのだが、友人を傷つけるような言葉にを使いたくはない。
でも遠回しに伝えようとすると、最後には押しきられそうになる。


(どうしたらいいのか・・・。)
「どうして僕だけ行けないのさ。たまには外に行きたいよー。だってピクニックみたいで楽しそうだしさー。」
「ブライト、いい加減にしろ。」


クロームがそうヒューデガルドに言うと、静か立ち上り彼を睨み付けた。


「な・・・なんだよ。クローム・・・。」


これは怒っている。
オーガスタはそう感じた。
その証拠にヒューデガルドはクロームに言い返そうとするのだが、言葉が出てこないみたいだ。


「遊びではないのだ。その様な考えのやつがいても足手まといになるだけだ。」
「クローム、それは・・・。」


ガタッーーー


「ヒューデガルド??」


突然、立ち上がったヒューデガルドに、オーガスタは不安になった。
ヒューデガルドは顔を下に向けていてどのような顔になっているか分からない。
もしかしたら、怒ってクロームに言い返すかもしれない。
そうしたら2人を止めることが出来るのだろうか。


「あの・・・」
「あーあ、やーめた。やっぱ行かないよ。辛そうだし、じゃあねー。」


オーガスタがヒューデガルドに声をかけようとしたら、本人はさっきまでも態度がなかったかのように、颯爽とこの場を離れた。
クロームもヒューデガルドが談話室から退室をしたのを見届けると、ゆっくりと椅子に座り直す。


「殿下、良かったね。ヒューデガルドがあっさりと諦めてくれて」
「そうだね・・・。」


アルトはそう言うが、オーガスタは少し胸騒ぎを感じていた。
もっとヒューデガルドと話をすればよかったのではないか。
でもそれは気のせいだろうと思い、気にしないことにした。


その判断が後にこんなことを引き起こすことになるなんて、誰も思わなかった。


******
ヒューデガルドside


(くそっ・・くそっ・・くそっ・・)


ヒューデガルドは談話室から出た後、どこへ向かうのか目的のないまま歩き続けていた。


『遊びではないのだ。その様な考えのやつがいても足手まといになるだけだ。』


(あーもー!ムカつく!!)


談話室でクロームが言ったことに対して、苛立ちを感じた。
たかが獣を倒すだけじゃないか。
剣の腕とか関係ないし誰が行ったってどうせ同じだろ?
本当はそう言ってやろうかと思ったのに、言えなかった。
それにクロームの言葉に対してオーガスタやアルトも否定してくれない。
こんなこと今までなかったのに。


(僕が行った方が絶対、楽に出来ると思うのになんでたよ!)


「ヒューデガルド君、どうしたの?」
「はっ?誰、君?」


下を向いていたからスカートした見えなかったけど、見上げると派手ではない女生徒だった。


「あのね・・・」
「僕、忙しいんだけど。」


急に話かけられたけど、ヒューデガルドは冷たくあしらった。
正直言うと、まだイラついていて他の生徒と話たくはない。
しかもこの生徒なんて、おどおどしているしハッキリ言って、むしゃくしゃする。
もし、告白されようが何処かへお誘いでも断ってやろう。
そう思っていたのに、この女生徒は違った。


「いい案があって・・・ヒューデガルド君しか出来ないと思うんだけどね。」


目の前の女生徒=マリアから案を聞いた時、今まで苛立ちを感じていた気持ちがすっかりとなくなった。
もしかしたら、オーガスタから『凄い』って言ってもらえるかもしれない。
もしかしたら、アルトから『見直した』と言われるかもしれない。
もしかしたら、クロームから『今まですまなかった』と言うかもしれない。


「うん、やろう。」


(みんなをギャフンと言わせてやる)


******


「みな、もう少しで暗くなる。ここで一泊して、明日再出発をしよう。」
「「「はい!」」」


天気が暗くなってきたので、ハロルド達は教会に泊まることにした。
この教会は、建物自体はしっかりとしたレンガで屋根もついているので雨風は凌げられる。
中に入ってみると、人の手入れがされていないので、椅子はボロボロで建物の隅とかにはホコリかぶっていた。


「すみません、殿下。ここで一泊してから王都に向かいます。食料は携帯食料しかありませんが、夜盗等はあまりでない場所なので安心してすごせるかと思います。」
「ありがとうございます、ハロルド隊長。」
「隊長、準備出来ましたー!」


ジョンは右手に毛布を持ちながら左手で大きく手を振った。
その後ろにはアルトがいてジョンと同じく毛布を持っている。
ただ、ホコリ被った部屋にあったみたいで髪の毛とかにホコリがついていた。


「ジョン!早く荷物もってこい!」
「はっはい!すみません!ダリウス先輩!」


ダリウスに怒鳴られたジョンは慌てて向かった。


「転けるなよ!」
「大丈夫ッス!転けない・・・うわっ」


ドタッーーー


「だから言ったじゃねーか!」
「すみません・・・。」


慌てて向かったのか足が窪みにはまって、ジョンはおもいっきり転んだ。
派手に転んだみたいで、顔を上げると鼻が真っ赤になっている。
ハロルドとオーガスタもそんな2人のやり取りを微笑ましく思いながら、一緒にダリウスの所へと歩いていく。


「ダリウス、一息入れたら見回りを頼んでいいか?一応確認をしたいのだ。」
「了解です、隊長。ジョン、クローム、お前も一緒にこい。」
「うっす。先輩。」
「わかりました。ダリウスさん」


ダリウスはジョンとクロームを連れて、外へと出ていいく。


「大丈夫ですか、殿下。」
「・・・えっ。」
「いえ・・。何だか悩んでいたので・・・。話せば楽になると思いまして・・・。」
「そんなこと・・・。」


オーガスタはそんなことはないと言いたかったが言葉がつまった。
誤魔化そうとしてもハロルドには見透かされてしまうかも。
でも、この不安を話しても聞いてくれるだろうか。


「殿下?」
「あの・・・。ハロルド隊長・・」
「隊長!」


オーガスタが口を開こうとした瞬間、教室の扉からダリウス達が飛んできた。


「オーガスタ様、すみません。」
「クローム??」
「ダリウス、どうしたのだ?」
「ダリウス商会から、我々に物資をと持ってきたと」
「ダリウス商会といえば、王都一の商会ではないか!」
「ヤッホー、オーガスタ!来たよー!」
「なんで、ヒューデガルドが・・・。」


来たのはヒューデガルドだけではない。
ヒューデガルドの従者のポールと入学式で会った女生徒。
確か・・・名前はマリアだと言っていた。


「見回り中、馬車の音がしたと思ったら、ヒューデガルド達が来て、学園へ帰そうとしたのですがダリウス様が遅いからと・・・。」
「そう・・なんだ。」
「オーガスタ、いっぱい食料とか持ってきたからね!」
「凄いッスね。先輩。」
「お疲れの皆さんに労いをと思いまして」
「ありがとう。お嬢さん。」


ハロルド達が喜んでいるというのに、心臓がバクバクとなっているのがわかる。
胸が苦しい。
隣にいたクロームも、オーガスタと同じ気持ちだったのか、顔色が不安だ。


(何か嫌な予感がする。)


オーガスタ達は、そう願うしかなかった。


******


「いやぁ~。今日はこんな豪勢な食事になるなんて夢にも思わなかったなぁ、ダリウス。」
「本当ですよ。ヒューデガルド君には感謝しないと・・・。」
「そんなことないですよー。」
「お嬢さんも、わざわざ遠い所まで大変だったろうに・・・」
「大丈夫ですよー。」


パチパチと炎が舞い、暗くなった景色に明るく明かりをつける。
ハロルド達はヒューデガルド達が持ってきた肉や酒を大いに食べたり、飲んでいた。
本来であったら、食事を簡易的に済ませて、見張りをたてながら休んでいるはずなのに、睨み付けた日が落ちて暗くなってから長い時間、このような宴会みたいに賑わいをしている。


(本当に大丈夫なのか・・・。)


オーガスタはクロームと相談をした上で、ハロルド隊長に見張りを立てた方がいいのではないかと案を出したのだが、ハロルドはここは安全だからと言う理由で聞いてはくれなかった。
他のダリウスやジョンにも相談をしたのだが、2人も「安全だから大丈夫。」としか答えてはくれない。


「クローム。僕は自分自身情けないと思うよ。」
「オーガスタ様・・・。」
「突然、安全だと思っていた場所が危険になることだってあるのに、それを上手く伝えられなくて、何も出来ない自分が腑甲斐無いと思うよ。」
「・・・それは俺も同じです。」
「クローム・・・。」
「ねぇねぇ、クローム君。アルト君から聞いたんだけど、初恋の君について教えて?」


オーガスタが言いかけようととした時、急にマリアが現れクロームの隣に座った。
大胆にも、クロームの腕を掴み抱き締めている。


「話せばいいだろ、別に減るものでもないし。」
「ここで話すことでもないだろ。」
「じゃあ、俺が代わりに話してあげようか?幻の令嬢の話。」
「アルト!!」
「クロームッ!ダメだ!」


クロームが怒りをあらわにして、アルトの胸ぐらを掴む。
これは確実に怒っている。
オーガスタはそう感じた。
周りにいたハロルド隊長達も、いきなりクロームが大声を出したものだから、驚いた様子で2人を見ていた。


「2人共、ちょっと落ちつこう?ね?」


クロームとアルトに少し冷静になってもらおうとしたけど厳しかった。
殴りあったりしないだろうか、それはやめてほしい。
やがて、アルトの胸ぐらを掴んでいたクロームは、そっと手を放すと、無言のまま外へ出ていった。
その後直ぐに、マリアが「私、クローム君の様子見てきます!」と言ってクロームの後を追う。


「なんか、すみません。場をしらけてしまって・・・。」
「いやっ、いいってことよ!なんならジョンの花屋令嬢との振られた話でもしようではないか。」
「なっ・・・・隊長、何で知っているッスか??」
「俺が話した。」
「ダリウス先輩ヒドイッス!!」


暗くなった空気をハロルド隊長達が明るくしてくれてオーガスタは少しホッとした。
この人達がいなかったら、多分僕らは後味の悪いままにしてしまうかもしれない。


「オーガスタもアルトもどうだ?ジョンだけじゃなくてダリウスの話とあるぞ」
「えっっ!!なんで隊長がそんなこと!!」
「俺が話したッス!お返しッスよ!」
「てめっ、後で覚えてろよ!」
「ほら、殿下もアルト君も早く聞くッス!」


(うじうじしても、しょうがないか・・・。)


「お願いします、ハロルド隊長。」
「そうか!じゃあ、まずはジョンの話から行くか・・・」
「えーっ!恥ずかしいッスー!!」


顔を真っ赤にしてハロルドを止めようとするジョン。
そのジョンを羽交い締めにしているダリウス。
酒を飲みながら、まるで自分のことのように語るハロルド。
そして、それを見て笑っているオーガスタとアルト。


楽しい時間が今始まった。


******


クロームside


「クローム君!待って!」


クロームはアルトに掴みかかった後、教会を出てすぐの所まで走った。
その後ろでマリアが追いかけいたことも気付かないほど走って、教会の近くにある湖で足を止める。


(こんな所に湖があったのか・・・。)


月が新月の為、夜の明かりは星々の光しかなく暗いはずなのに、湖が光を反射してここだけは明るい。


「クローム君・・やっといた・・・。」
「マリアさん??」


森の中からガサッと音がして顔を向けたら、マリアがいたことに気が付いた。
良く見ると走って来たのか息が乱れている。


「何しに来たのだ・・・。」
「何しにって・・・貴方を心配しに来たんだよ。」
「心配・・・?」


どうしてマリアが心配などしなければならないのだ。
盗賊など出るかもしれないというのに・・・。
逆にマリアの方が危ないと思う。


「クローム君、ずっとオーガスタ君の為に無理をしてるの、私知っているよ。もっと自分を大切にしてほしい。命を大切にしてほいしの。」
「どうして・・・」
「クローム君??」
「どうして、貴女に心配をされなければならないのですか。」


自分が無理をしている?
そんなこと一度と思った事がない。
この少女に俺の何がわかると言うのだ。


「心配するに決まっているよ!だって騎士は誇り高い仕事だし、大変だと思うから・・・。」


マリアは自分自身が言った言葉が恥ずかしいかったのか、顔を赤くしてクロームから目線を外した。


「騎士が・・・誇り高い・・?」


この言葉を聞いて心がスッと冷える。
あの時の自分であったら、この言葉に喜んでいただろう。
嬉しくもなるだろう。
もしかしたら、この少女に特別な感情を抱くかもしれない。


でも今は・・・今この場所にいる自分は、騎士が誇り高いとは思えなかった。
そう、あの少女から言われるまで・・・。
騎士の誇りがくだらないと言われるまでは・・・。


「だから、私はそんな皆の為に出来る事をしたいの。」


はにかみながらクロームの事を心配しているマリア。
しかし、彼女は気付かない。
自分の向いている瞳が冷たいことを。
そして、自分自身を見ていないことを。


******
ガサッーーー


微かであるが誰かが草木を通っている音がした。
こんな真夜中に草むらを通るなんて普通はあり得ない。
近くに整備された道があり、月が出ていない新月に歩くなんて何かある。


「どうしたの・・・。クローム君。」
「誰かいる・・・。」
「えっっ!!」


マリアが驚いて声を出そうとしたが、ここで大きな声出してしまうと、こちらの場所がバレてしまうので、口に手を当ててふさいでもらった。


「も・・・もしかして盗賊ですか??」
「いや・・・この場所からではわからない・・・。」
「早くオーガスタ君達と合流しましょう!」


「危ないっ!」


キイィンーーー


クロームは前方から迫って来た相手と刃を交えた。
相手は全身、黒装束を着ていて何者かわからない。
男なのかどうか性別さえも・・・?
けど1つ言えることがある。


(こいつ・・・強い・・。)


剣を上から振り下ろしたというのに相手は、微動だにしていない。
しかも、短剣でクロームを受け止めている。
両手で振り下ろしている剣を片手で受け止めるって、想像以上に強い相手だと思う。


(もしかして・・・オーガスタ様を狙って・・)


この強さは、物取りとか盗賊の強さでははい。
どこかで訓練をされた傭兵。
直感でそう感じた。


「ちょっとはやるね。作戦まで時間があるから少し遊んであげようか・・・なっ!」
「くっっ!!」


また、相手の力が強くなった。
このままでは押し切られてしまう。


「クローム君!負けないで!!」


マリアから声が聞こえたが、相手に必死で何を言っているかわからない。
応援でもされているのか。


「ほぉ~。彼女に応援されてるね~。彼氏君??」
「えっっ!!か・・・彼女なんて・・・。」
「・・・がぅ。」
「へ?なんか言った?」
「彼女じゃない・・・。」
「えっ??」


「俺の好きな人は、軍師様だ!!」


クロームがそのまま相手を押し切り、致命傷を与えられそうとなったが、それよりも速く相手が後方に跳び距離をとった。


「軍師・・・・様??」
「そうだ!」


なんでこの事を言ったのか自分でもわからなかった。
しかも、黒装束相手に。
言っても誰の事だろうと、頭がおかしいやつなのかと思われるかもしれない。
でも、直感で言わなければいけないと感じた。
こいつに・・・目の前のこいつにマリアが彼女だと思わないで欲しかった。
クロームがはっきりと言うと、相手は短剣を静かに下ろした。
よく見ると肩が震えている。
また、攻撃してくると思い再び剣を構えた。


******


「・・・・・・・あーはっはっはっはっはっ!!おまえ、面白いなぁ!!」


攻撃をしてくるかと思ったのに、相手は突然腹を抱えて大笑いをした。
意外にも声をかなり大きい。
さっきまで刃を交えていたはずなのに、これで一気に戦意が消えてしまった。


(なんだ・・・急に・・・)


クロームは剣を下ろした。
なんで、急に笑いだしたのか。
理由が本当にわからない。


「あの・・・。」
「あーごめん、ごめん。急に、『俺の好きな人は軍師様だー』って言うから笑っちゃって・・・。」
「笑う事ですか??」


そんなに笑うことでもないはずだ。
相手のセリフに少しイラッと来た。
正直に言って何が悪い。


「えーっ!だって、あの時と変わっていないじゃん、君。また、殴られても知らないよ。」


(・・・・今なんて言った。)


衝撃が強すぎて、体が動かない。
俺があの時と変わらない??
殴られても知らない??
何故、相手がその事を知っているのか。
マリアは意味がわからないみたいで、首を傾げている。
それもそうだろう。
あの時いたのは、クロームの父セバスとオーガスタとクローム。
そして、軍師様が率いていた兵士達。
ということは・・・


(軍師様を知っている!)


「貴方は軍師様のこと知っているのですか!!教えて下さい!」
「えっ・・・ちょ・・騎士君??」
「知りたいのです!軍師様のこと!」


「何をしているのですか、フェイ。」
「げっ!!セラ!!」
(女性・・・??)


新たな人物がクロームの前に現れた。
さっきの黒装束の人物とは違い、この女性は黒いワンピースに白のエプロンを着用している。
この人はメイドなのか。
メイドだとしても、なんでここにいるのだ。


「全く・・・何故、ここにいるのですか?貴方の場所はここではないはずです。」
「えーっと・・・作戦まで時間があるから、遊んでようと思って・・・・・ちょっとセラ!!殺気はやめて!!」
「不真面目な・・・。どうするのですか?この2人は・・・」


メイド服の女性が、じっとクローム達を見た。
睨み付けて見ているから、正直に言って怖い。
横にいるフェイは、本気で恐れているのか。冷や汗がダラダラと流れている。


「それは・・・。」
「はぁ~。このまま去れば不信感を抱き、足を引っ張るのが目に見えていますので、私がここにいます。」
「えっ!!大丈夫なのか、あの方の傍にいなくても??」
「部下がいますので、まず大丈夫です。」
「そっそうか!ごめんなっ!」
「あっあの!!フェイさ・・・」


フェイはさっさとこの場所から去ってしまった。
よほど、この場所にいたくはなかったのであろう。
今、この場にいるのは、クロームとマリアとメイド服を着た女性だけ。
メイド服の女性はたしかセラといっていた気がする。
見た感じ、しっかりとした女性で、さっきも思ったことだが、何故この場所にいるのか不思議なぐらいだ。
本当は、疑問に思っていることを聞きたい所なのだが、この人にどう話しかけていいのか迷ってしまう。


「あ・・・あの・・・」
「先ほどは大変失礼を致しました。クローム・サジタリア様。」
「私の名前を知っているのですか?」


この女性とは初めて会ったはずなのに、何故クロームの名前を知っているのか。
驚きを感じた。
どこかで会ったことがあっただろうか。
思い出せない。


「名前だけ存じ上げているだけです。先ほど申し上げた通り、お仲間と合流するまで護衛致しますので、はぐれないようお願いしますよ。」
「護衛など・・・。自分の身は自分で守れますので大丈夫です。彼女だけをお願いします。」


メイド服の女性、セラさんには申し訳ないが
自分は剣を持っている。
それに騎士団までの腕は持っていないが、ある程度の強さをもっていると自負をしている。
もし、敵と剣を交える場合になっても足手纏いには、ならないはずだ。
そう思いながら、はっきりとセラに伝えた。
後ろにいるマリアも、同じ考えだったらしく、頷いている。
でも、セラの顔は目が鋭く無表情だった。


「サジタリア様、もう一度言います。貴女方は作戦の邪魔になりますので、手出ししないで下さい。足手纏いです。」
「足手纏いですか・・・。」
「はい。サジタリア様の戦力など必要ありません。」


セラにはっきりと言われて、ショックを受けた。
言い返そうとしても、なんて言おうとすればいいのだろうか。
もし、何かを言っても更に言われそうで、フェイの二の舞いになるかもしれない。


「そんなことない!クローム君は強いですよ!きっと皆さんの力になれると思います。」
「そんな気休めなんていりません。」
「気休めなんかじゃない!クローム君、もっと自分に自信をもってよ!貴方は国を守る騎士になるのでしょ?」
「貴女は愚かですね。」
「えっ??」


無表情のセラはさらに言葉を紡ぐ。


「サジタリア様は自分の力量を理解していると言うのに、他人である貴女は彼を死ねと言っているのですよ。」
「違う・・・そんなこと・・・」


マリアはセラに「そうではない。」とはっきり言うつもりだったが、言葉が出なかった。
怖くて声がだせない。
顔も引きつっている。
顔の前に両手をくんで体も縮こませてしまった。


「セラさん。」
「なんでしょうか、サジタリア様。」
「貴女方はこれから何を行うかまでは分かりません。ですが、殿下に危険が無いようにお願いしたいのです。」


フェイがいるから、恐らくは戦いがあるのだろうと予想はできる。
セラもただ者ではない。
だからこそ思う。
この人は、いやこの人達は守る方がいて、その人の為ならどんなことでもすると。
俺にも分かる。
だから、この願いも聞いてくれるだろう。
そう思った。


「ご心配には及びません。オーガスタ殿下の件も想定内です。」
「想定内って・・・。」
「サジタリア様、時間がありませんので行きましょう。」


セラがスタスタと進んでしまった。
クローム達は、セラとはぐれないようについていく。
森の中は暗く、どこへ向かっているのだか。
クローム達は暗い森の中で躓かないように歩くのが精一杯だと言うのに、セラは苦もなく歩く。


「お嬢様に連絡を。2名こちらで確保そのまま護衛を、作戦そのまま続行。」


******


(へへっ・・・今日はついてるな・・・)


今日もいつも通り2、3台の商業馬車から金と食料をたんまり奪っていた。
流石、セイント王国。
金はともかく食料には困らない。
この盗賊団も派手に暴れていた。
でも最近、派手に行動をし過ぎた為、騎士団に目をつけられていており、商人達も用心棒を雇う所も増えて行った為、盗賊達からしたらいい迷惑だ。


「すごいですね・・・。お頭、あれブライト商会の馬車ですよ。」
「ブライト商会と言えば、セイント王国一の商会ですよ。」
「お手柄だなぁ」
「どうも~。」


この盗賊達も、大きな商会を狙えず、用心棒などを雇えない馬車にしか襲えなかった。
でも、今日に限っては違った。
アジトに戻る途中、偶々手下の1人が通りすぎていく馬車を見かけた。
遠くて周りに誰もいなかったので、偵察がてら後を着いていったらから、近くの教会まで行っていた。
この教会は、ボロくて人もあまり入らない場所だと言う噂の場所なので、襲うにはちょうどいいと判断し、その足でお頭の所まで走っていった。


「で、まだその教会から馬車が動いていないんですよ。もしかしたら中でなにか秘密の取引とかしているんですかね?」
「それもありえるな・・・。よし、その教会で一仕事するぞ!」
「「オー!」」


******


(これだから、盗賊っていうのは辞められない・・・)


これは天が俺達に味方をしたみたいだ。
ブライト商会という素晴らしい獲物。
誰もいない教会。
そして新月であること。
もう、狙って下さいと言っているものだ。


(準備はバッチリだ・・。)


盗賊達10名ほど引き連れ、森の中で潜んでいる。
秘密の取引があると予想し、全員引き連れた。


「お頭。もう突入したほうがいいですかねぇ。」
「いや・・・まだだ、あせるな。」


同じ森の中に潜んでいる手下に声をかけた。
もう、襲いたいのは薄々感じている。


スッーーーー


ゆっくり左手を上げ、手下に教会へ近づくよう指示を送る。
手下達はなるべく音をたてず、徐々に教会へ近づいて行った。


(周りに用心棒、見張りはいない・・・)
「よし・・・。行くぞ!!」


掛け声と共に、教会へ向かって駆け出した。
教会の中にいるやつが今頃、気づいても、もう遅い。
あと少し・・・。
あと少しで扉まで到達する距離までいった。
もう、顔がにやけてしまう。
それは、盗賊団の頭だけではない。
皆が思っていることだ。


バンッーーー
「ご苦労様です。盗賊団達。」


突然、扉が開く前までは・・・

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