お嬢様は軍師様!

葉月 飛鳥

第8話 お嬢様 愚痴を聞く



ダンッ!!!ーーー


「あーもー!何なんだあの夢見女は!」


ここは王都にあるヴィクトリア領が所有する商会。
王都の商会地区にある極々普通の建物である。
売っているものはヴィクトリア領で生産されている雑談用品がメイン。
陶器や木製食器などの物や石鹸や香水を陳列している。
後、こっそりとアメリアが開発した消臭の香水の売っているが、これは余り売れ行きが良くない。
その理由はセイント王国の人達は香りが強い香水が好みみたいだ。
値段的にも庶民達が普通に買える金額にしてある。
建物も高級風にはしていないので貴族の方々などこの店には来たことがない。
で、今いる場所はその商会2階。
1階はお店になっていて、2階はアメリア達の部屋となっている。
まぁ、2階と言っても極一部の人達しか知らない、いわば隠し部屋と言うものだ。
ヴィクトリア兄妹はその隠し部屋で現在、話し合いをしていた。
していたはずなのに・・・


「なんでこっちが夢見女の尻ぬぐいをしなければならない!」


さっきからイーゼスの愚痴が止まらない。
よほど学園生活での余程、鬱憤が溜まっているようだ。
因みに夢見女とは、もちろんヒロイン=マリアのこと。
アメリアも時々、遠目からヒロイン達を見たことはあるが、かなり酷かった。
攻略対象であるイーゼスは、もっと酷い目に合っているのだろう。
同情だけはする。


「お兄様。あの子は何をやらかしたのですか?」


アメリアはイーゼスにそっと尋ねた。
本当は聞くつもりはなかったのだが、聞かないとイーゼスがストレスで倒れそうになるかもと考えてしまうので、ストレス発散の為に愚痴を聞くことにした。


「・・・人間関係と経済関係、先にどちらが聞きたいか?」
(どれだけ掻き回しているの、あの夢見女マリアは?)
「さ・・・先に経済関係を・・・」


今度、兄に胃薬でもあげようかな?
アメリアはそう心に誓った。


******


イーゼスside


「あの!怒鳴りつけるなんて、酷いと思います!」
(は???何を言ってるのだ?)


大袈裟に勘違いをする令嬢。
これがマリアの第一印象だ。
自慢ではないが、俺は優秀に入ると思っている。
成績は幼いころから英才教育で勉強していたから成績は上位だし、剣術は化け物級の師匠と実戦級こ訓練をしているので、そこそこは強い。
だからなのか、学園に入学をしてから他の生徒とかに質問とか相談を受けたりしていた。
もうリーダー的な扱いだな、これは。
そして学園に入学してから早数十日、いつの間にか派閥リーダーまでになってしまった。
ハッキリと言っておくが俺が作ったのではない。
周りが勝手に作ったのだからな。
俺はむしろ被害者だ。
何度も止めろって言っても聞かないし、逆に慈悲深いとか色々で余計、信者が増えそうだったので諦めました。
今は監督生として貴族のバカど・・・・いや、生徒達を問題なく平和な学園生活を送ってもらおうと日々頑張っている。
俺は地味に頑張っているばずなのに・・・。


「彼も一生懸命やっているのです。それを否定するなんて・・・」
「あっ・・・あの、誤解ですけど・・・」
「彼が可哀想です。」


何故か俺が悪い奴になっている。
監督生とは地味に忙しい。
まず、学園の生徒達の監督。
学園には貴族の他、商人や平民出身の生徒だっている。
貴族は貴族で格式などにはうるさいし、平民出身の人なんて集団で問題を起こす。
特に共用スペースであるテラスやロビーな場所は問題なんて日常茶飯事だ。
そのたびのに俺達が駆けつけて場を収めてきた。


次に金銭の管理。
管理と言ってもお金を扱うわけでもなく、生徒から申請をしたい物を確認し上にあげる様なことをしている。
確認の時点でダメだった物はその理由をまとめて上に提出しているので、個人贔屓が出来ないようにしている。
だって変だろ?
個人用の食器などを何故学園の金で払わないといけないのだ。
そんなもの個人で買え!国の金を使うな!
兎に角そんなくだらない申請が多かったので全て断ってやったら、直接俺に怒鳴り込みに来るやつとか襲撃も受けた気がする。
闇討ちなんて受けた事がないけど会ったりするのかな?
いや、でもそれは騎士道に反する行為だな。
まぁ、最初の一年間はつかみかかって来るやつとかいたけど、全て返り討ちにしてやった。
そんなこんなの一年が過ぎ、二年目に入った俺は相変わらす忙しい日々を送っていたのだ。


「貴方は人の優しさを知るべきです!」


行きなり出てきたかと思えば言うこと言ってそのまま去ってしまった少女。
確か、マリアとか言ったな。
全く俺が何をしたというのだ。
俺も一緒にいた生徒もポカンとするしかないじゃないか。


「イーゼス様・・・。彼女は何がしたかったのでしょうか?」
「・・・こっちが聞きたい。」


本当に聞きたいよ、まったく。


******


それから早数日・・・


「今のは酷いと思います!謝って下さい!」
「大丈夫ですか・・・っっどうしてそんなことするのですか?」
「貴方には、優しさいうものがないのですか!」


誰か俺に安らぎと言うものを下さい・・・。
まったく、事あるごとにマリアが俺に突っかかってきている。
言っておくが俺は何もしていない。
むしろ被害者だ。
最初は、ある令嬢に告白されて断っただけだ。


「イーゼス様・・・あの私・・・イーゼス様のこと好きです。」
「申し訳ありませんが、婚約者がいる方とは・・・」
「良いのです。これは私の自己満足ですから・・急にごめんなさい。」


断られた令嬢は目に涙を浮かべながら、その場から去ろうとした所にマリアがやって来て大声で言われた。
本当に場所を考えてほしい。
ここは共同スペースだぞ。
俺は相手の令嬢に気をつかって、穏便にしようとしたのにマリアが大声で言った所為で、共同スペースにいた他の生徒達にバレてしまった。
その結果、噂が一気に広まってしまい令嬢の婚約者にも知られて色々問題になったらしい。
風の噂では婚約破棄になったと聞いている。


次は、返り討ちをしたときに来た。
呼び出し、決闘、逆恨み、そんなもの毎日来ている。
そんなに皆さん暇なのかね。
受ける身にもなってくれ。
しかも、断ると騎士道を侮辱するのかとかを言われるから、非常に面倒だ。


「貴様がイーゼス・ヴィクトリアだな!」
「あぁ、そうだ。」
「商人貴族の癖に生意気だぞ!」
「はぁ、そうですか・・・。」


またいつもの呼び出しをされました。
もちろん、お決まりのセリフ付きで。
相手は・・・誰だ?分からん。


「おいっ!聞いているのか!」
「すみません。誰ですか?」
「生意気な・・・。おい・・・お前ら出てこい!」


パチンッーーー


相手が右手を鳴らしたら、後ろ、前、横からも、剣をもってぞろぞろと出てきた。
人数はざっと見て10人ぐらいだな。


「はっはっはっ。怖じ気づいて声もでないか、イーゼス・ヴィクトリア。」
「・・・・。」
「そうかそうか。でも、恨むのであれば己の行いを省みるのだな。はーーはっはっはっ。」


相手はそう言って笑いながら剣を構える。
周りのやつも顔をニヤニヤしながら構えはじめた。


「さぁ、叩きつぶせ!」
「「「うおおおおおぉぉぉ」」」


合図とともにイーゼスに迫って来た。
前からが1名、後ろから2名。
横に反れようとしても、相手の手下がいるから攻撃にあってしまう。


(全く、俺も暇ではないと言うのに・・・)


「くたばれ!商人貴族がぁ!」


前から来た生徒がイーゼスに向かって剣を思いっきり振り下ろした。


バキッーーー
「へっっっ???」


一瞬にして3人が倒れた。
相手の顔が真っ青になったのが分かる。
俺が倒されると思ったのであろう。
でも俺にとっては軽い訓練ぐらいしか感じなかった。


「な・・・・なんで・・・・」
「言っておくが・」
「ひっっ!!」
「これは正当防衛だからな」


で、軽くあいつらを瞬殺した後この場から去ろうとしたらマリアがやって来て言われた。
状況を見てほしい。
武器を持っていないぞ、俺は。
しかも、ご丁寧に倒れている1人1人に「大丈夫ですか!」と声をかけている。
そんな暇があったら医療科の人を呼んで来ればいいのに・・・。
仕方がないので俺が呼びに行った。


最後は執務室に乗り込んできた。
監督生の人達は執務室で日々書類等の作業に取り組んでいる。
俺も執務室で作業をしているのだが、みんな静かに作業をしているので、ちょっとした癒しになっている。
言っておくが基本、一般の生徒は入室禁止。
用がある場合は名前と用件を言えば入れる。


「ちょっ・・・まっ・・・さい」
「どいて・・・この・・・・の」
(外が騒がしいな・・・。)


今さっき生徒からの申請書を終わらせて休憩をいれようと思ったのに。
他のメンバーも外の騒ぎに気付いたのか、チラチラと顔を向けている。


「すまないが、誰か確認をしてくれないか?」
「そうですね・・・ちょっと確認をして・・・」


バンッーーー


「イーゼス様!どうしてですか!」
(((また、このクレーマーか・・・。)))


執務室にいる監督生全員がそう思った。
実は、マリアが執務室に来るのは初めてではない。
ほぼ毎日と言っていいほど執務室にやって来ては文句を言ってくる。
アメリアに相談をしたら「凄いクレーマーね。」と呟いていたので、監督生の中では隠語としてクレーマー=マリアで使っている。


「マリアさん。何度も言っていますが、この部屋に入室する場合、先ず名前と用件を言って下さい。」
「何故、この申請が通らないのですか!理由を教えて下さい!」


そういいながら、バンッと目の前で出されたのは、俺が却下をした申請書だ。


「理由も教えて下さいと言っても申請書を返したときに伝えましたよね。」
「必要がないと一言、言われただけです。納得がいきません!」
「本当に必要がないからです。」


マリアが申請してくる物は、必要がないというよりも簡単に言ってしまえば、余計なことをしていると行った方が正しい。
以前、『王都に住む貧しい人達の為に、学園で炊き出しをするべきだ』との理由で彼女からの申請書を確認したら、金額がとんでもないことになっていた。
食材は高級な店に出てきそうな食材と料理人は店のシェフ。
それは金額が高くなるはずだ。
予算が無理という理由で却下をした。


他にも、『教会にいる子供達にお菓子や玩具を配りませんか?』とか、言っていることは素晴らしいことであるが、内容があまりにも酷い為、申請が通ったことがない。
しかも毎回、必ず俺に抗議をしてくるのだ。


「いいですか?何度も言いますが、慈善活動のパーティーなんて必要がありません。」
「慈善活動ですよ。決して私利私欲ではないのに、人の為になることではありませんか?」
「人脈の多い方でしたら分かりますが、貴女は入学したばかりの学生ですよね?もし、パーティーをやっても不利益になるだけです。」
「ひ・・ひどぃです・・イーゼス様。」
「すみませんが、まだ作業がありますので退室をお願いします。」


俺がそう言うと、マリアは無言のまま執務室を退室した。
対応するだけなのに、一気に疲れが来たような気持ちになってしまった。


******


「これが経済関係の出来事だ。」
「素晴らしいお話ありがとうございます・・・。」


イーゼスから聞いた話は想像していた物よりも大変だなと思った。
話した本人は話疲れなのか、冷めてしまった飲み物を一気に飲み干した。


「次は人間関係の話もあるが聞くか?」
「いえ、結構です。」
(聞かなくとも想像はつきますので・・・。)


アメリアだって学園での噂は知っている。
誰かとは言わないが学園内の目立つ存在達と常に一緒にいると言われている。
中には婚約者がいる方もいるので、色々と良くない話が耳にはいってくる。


「最近、盗賊が荒らしているって噂が広まっているから、あの夢見女が、でしゃばって来そうな気がするよ。」
「兄様、多分それマリアは出てくると思いますよ。」


マリアがゲームのイベント通りに進めているのであれば、これからあるイベントが発生する。
多分アメリア達が必死にマリアの耳に入れないようにしても厳しいと思う。
理由は一回アメリアは失敗しているのだから。
いくら手を打とうとも、このイベントは発生するのだろう。


「準備は大丈夫ですが、1つ問題がありまして・・・。」
「問題??」
「それは・・・。」
「お嬢様!イーゼス様!大変です!」
「ルーナ?」
「どうした?」


突然、入って来たメイドのルーナにアメリアとイーゼスは嫌な予感がした。


「セラからのつなぎです。」


ルーナは右手に握り締めていた用紙をテーブルの上にバンッと置いた。
アメリアとイーゼスは、直ぐ様セラからの手紙を読むと二人とも顔が真っ青になってきた。


「あのっっバカ共が・・・無謀すぎる。」
「直ぐに行き先を確認しないと・・・」


セラからのつなぎの内容はこうだ。


『マリア他2 ブライト商会にて王都出 追跡』


セラからマリア達3人がブライト商会の馬車に乗って王都を出て現在その馬車を追跡していると言う連絡だ。


「他2名は、多分ヒューデガルド達ね。」


マリアと他2名と書いてはあるが、ブライト商会が関わっているとなると、他2名と言うのはヒューデガルドとポールだと想像はできる。


「セラと合流をした方がいいな。早くあいつらを回収しないと盗賊にでも会ったら大変なことになる。」
「ちょっと待って兄様。」


アメリアはイーゼスを止めた。


「ルーナ。オーガスタ様達の今何処にいるの?」
「殿下達は騎士の一団と一緒に戻っている最中かと。」
「となると・・・。」


アメリアは手に持っていた白い羽毛扇を口元に当てて考えた。
これは策などを考える時、アメリアがいつもやるクセのようなものになっていた。
アメリアがこのポーズになった時は、羽毛扇が下ろすまで、誰もアメリアに声をかけたりはしない。


「イーゼス様・・・これは・・・」
「しずかにっ・・。今、リアの頭の中で模擬試験をしているんだ。」
「模擬試験ですか??」
「リアいわく、シミュレーションと言うらしい。」


ルーナは口が開いたまま固まった。
ヴィクトリア領でアメリアは軍師だとは、他の人達から聞いていたが、実際にこの目でその姿を見るのは初めてだからだ。


(久しぶりに見たな・・・。この光景。)


イーゼスもアメリアの姿を久しぶりに見た。
幼い頃から2人で対戦遊戯をすると、必ずアメリアは口元等を隠して目をじっと盤上を見つめていることがあった。
最初は不思議に思っていたら、急に手を下ろし駒を進めると、必ずというほどイーゼスが負けるのだ。
今思えば、あの時から戦略に関してアメリアの頭がキレていたのだろう。
我が妹ながら恐ろしい。


「兄様。ロンとフェイに連絡を・・・。」
「いい作戦が思い付いたのだな。」
「えぇ・・・。」


アメリアがそっと羽毛扇を下ろした。
その口元は、弧を描いている。


(準備はこれから。やってやろうじゃない・・・。)


「作戦開始ミッションスタート」

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く