一般六人で異世界無双するそうですよ!?

宴帝祭白祭兎

プロローグ1


 「ねぇ、汰空斗(たくと)。異世界って言っても、前と大して変わらないんだね」

 汰空斗と呼ばれた少年の目の前には笑顔で語りかけてくる一人の少女がいた。赤色の髪をセミロングの長さで整えている彼女は綺麗というより可愛いの方がよく似合う。
 年は汰空斗と同じ17歳、高二。背丈は高くもなければ低くもない。
 今をときめく女子高生の割に、服にはこだわりがないようでどちらかというと男性用の黒ジャージを違和感がないように着こなしている。

 
 「いや、十分変わってるだろ!」
 

 汰空斗は顔を歪めながら思い切り怒鳴った。
 もし、本当に変わらない状況なら汰空斗も笑って言葉を返していたのだろう。少女はおしゃれに無頓着だとしても可愛いと思える少女に違いはないのだから。
 ではそんな少女に微笑みかけられたにもかかわらず、怒鳴って返すほどの状況とは何か。
 そう。それは――
 

 「少なくとも前いた世界では、突然森から出てきたコボルドの群に襲われたりなんかしねぇーよ!」

 ――16方位全てから刃物を持ったコボルドに襲われている状況だ。
 先ほども言った通り汰空斗や少女はごく普通ではないが高校生だ。北海道にある私立高校の普通科に通っている。詰まるところ、ただの一般人なのだ。

 「別にそういうことを言ってるんじゃないよ。まぁ、これもこれで大差ないとは思うけど。でもそうじゃなくて、私が言ってるのはみんなのことだよ」

 一般人なのだが、少女は拳ひとつでコボルドの群と戦えているのだ。
 コボルドの攻撃をいとも容易く避けたり流したりするだけではなく、的確に拳を入れて次から次へと返り討ちにしている。その上で汰空斗に話しかけたり周りの様子を気にしているのだから凄い。    

 「おい、紅葉(あかね)! 話してる暇あんならもっと数を減らしてくれ。こっちはもう手一杯だ」

 紅葉と呼ばれたジャージ少女の後方、刃物を持ってるコボルドをこれまた素手で対処している少年と少女が一人ずつ。
 その二人の背後には、ろくに戦いもしないで暇そうに座っている少女と手ごろな石を手に取り弄んでいる少年が見える。
 刃物の軍勢を素手で対処できる一般人はそうはいないだろうが、その中で暇そうに座っていられる少女と石で遊んでいられる少年も、十分そうはいない類に分類できるのは間違いない。

 「えー。私だって結構手がいっぱいなんだよ? それにそっちは二人いるでしょ。こっちには戦いじゃ全く役に立たない汰空斗がいるんだよ?」
 「悪かったな。てか、そもそもこうなったのはお前のせいなんだぞ?」
 「あれ? そうだっけ? まぁ、そんな怒らないで。そんなこともあるよ。それに、暇よりは断然いいでしょ?」
 「死ぬくらいなら暇な方がマシだ!」

 時折飛んでくるコボルドの攻撃を紙一重でかわしながら返す汰空斗は紅葉よりも手一杯のようだ。

 「またまた~」

 コボルドの攻撃をゆるりとかわすと紅葉は茶化すように笑って見せる。

 「何がまたまただよ! 全然手一杯じゃないだろ!」
 「もう、てっちゃんまで怒らないでよ」
 「そうだよ。鉄(てつ)。怒ってる暇なんてないよ。一体も逃しちゃ駄目なんだからね」

 背後で暇を持て余している二人を庇っている黒髪の少年。彼は鉄という名前らしい。
 人並み外れた高身長に加え全身の筋肉が隆起するくらい鍛え上げられている鉄は、腕まくりしたジージャンに白のインナー。クリーム色のズボンという服装で、クビにはネックレスをかけている。

 「彩葉(いろは)、お前後で覚えとけよ」

 その鉄に庇われている、薄緑色の髪をショートヘアーに切った少女。彼女が彩葉だ。
 首にヘッドホンをかけ前髪をヘアピンで分けている彼女もまた、美女というよりは可憐だ。
 手首まで隠れる灰色のパーカーに黒のミニスカート姿の彼女はあまりの退屈さに指の逆むけを気にしている。

 「鉄。いいから黙ってやれ。私達には紅葉ほどの余裕などないのだから」
 「姫燐(きりん)の言う通りだと思うよ。鉄。頑張って」
 「んなこたぁ言われなくてもわかってんだよ! てか、紫草蕾(しぐれ)! お前も戦えるだろ!」

 鉄とともに後ろの二人を守っているのが姫燐と呼ばれた黄色いロングヘアーの少女で、比較的冷静に声援を送った紫色の髪の少年が紫草蕾だ。
 姫燐は六人の中で2番目に背が高く、一言で言うなら美人だ。
 ポニーテールに縛った長い髪とネックレスを揺らしながら戦う彼女は、ダメージの入ったショートパンツに胸元が大きく開いた白のシャツという、随分と露出が多い真夏のような格好をしている。
 一方、紫草蕾は黒のロングパーカーに金色の横文字が入った白のインナー、黒い長ズボンとハットという姿で日差しに当たるととても暑そうな服装だ。

 「戦えないわけじゃないけど、まだ僕の出番じゃないよ。だから、それまでは、カバーよろしくね」
 「鉄……お前、大変だな」

 おどけて笑っている紫草蕾と言い、先ほどから非難しかされていない鉄に汰空斗が憐れみの視線を送った。

 「そう思うなら早くまともな作戦でも立案しやがれ。お前は参謀だろ!」
 「は!? 作戦ならもう立てただろ!」
 「ただ殴るだけってそんなの作戦なんて言えないんだよ! はぁ。たく、なんでこうなったんだぁ」

 鉄は泣き言を言いながらも忙しそうにコボルドを殴り飛ばしている。

 「たしかに! なんでだろうね?」

 そんな鉄とは対照的に余裕がある紅葉は腕を組むと真剣に原因を考え始めた。器用なことにそんな体勢でさえコボルドを返り討ちにしている。

 「紅葉、お前がそれを言うな」
 「てへ。ってことだから汰空斗。回想お願い」
 「ってほんとに覚えてないのかよ!」

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