人工知能な女の子

伊吹若葉

下校

自分の席に戻った僕は放課後の会話のシミュレーションに全力を注いでいた。


誘った時に彼女がなんて言ってきても良いようにあらゆるパターンを考えているのだ。


前回の様に理由を訊ねてくるのか、それともシンプルに断ってくるのか。あるいはそれ以外なのか。


どのパターンできたとしても本心で話す事だけは忘れてはいけない。強く胸に誓った。 


今回も特に語る必要のない学校生活を過ごし、放課後を迎えた。荷物をまとめ帰ろうとしているとススキが声をかけてきた。

「おう!ナルセ。今帰りか?もし良かったら一緒に帰らないか?」


普段なら二つ返事で了承するところだが今日はそういう訳にはいかなかった。

「悪い。今日は別のヤツと帰るんだ。」


誘いを断ると、ススキは驚いた顔をして

「お前俺以外に一緒に帰るような仲のヤツがいたのかよ!?」
と言った。


…相変わらず失礼なヤツだ。

「なーんて、冗談だ。また近いうちに一緒に帰ろう。今度は俺を優先しろよ?」


続けてそう言いながらススキは笑っていた。帰る前にトイレに寄っていくというススキと別れた後、昇降口に向かうとセンカは既にそこで待っていた。

こちらに気がつくとセンカは突然
「大丈夫です。私も今来たところですから。」
と言った。


「昨日ドラマで見たんです。待ってた側はこう言うんですよね?」


「間違ってはいないけど、それは待たせた側が一言謝ってから言う言葉かも」 

彼女がドラマを見ると言う事実に驚きつつ訂正させてもらった。


「あら、そうなんですね。ではもう一度。ナルセさん、一言お願いします。」

どうやらTake2が始まったらしい。


「ごめん、お待たせ。」
戸惑いつつも彼女に一言謝ると

「大丈夫です。私も今来たところですから。」
となぜだか少し誇らしげに返ってきた。


「確かにこんな感じのやりとりだったかもしれません。ありがとうございます。お陰でまた一つ成長してしまいました。」

不思議な時間だったが、彼女が満足そうだったのでそれで良かった。




「じゃあ帰りましょうか。」
一日を通して今日のセンカは明るい気がした。

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