勇者に彼女を寝とられた僕の復讐

こうじ

勇者に彼女を寝とられた僕の復讐

 カランカランと鐘の音が響いている。

 今日は結婚式だ。

 幸せそうなカップルが友人達から祝福を受けている。

 僕は、その様子を遠くから見ていた。

 本来ならば、花嫁の横にいるのは僕のはずだった。

 だけど、彼女が選んだのは『勇者』だ。

 ここまで言えばわかりますよね?

 そう、僕は結婚を約束していた彼女を勇者にとられた。

 僕の名前は『ラセン』、名も無き小さな村で薬売りをしている。

 年齢は17歳だ。

 幼い頃に両親を亡くしてからはずっと一人で生きてきた。

 山で薬草を採り、調合して薬にして町の薬屋に納めたり、自分で売ったりしながら細々と生活をしていた。

 そんな僕にも幼馴染みの彼女がいた。

『将来は一緒に薬屋をやろうね』

 そんな約束をしていた。

 でも、ある日王国から使いがやって来て、彼女が勇者の仲間に選ばれた、と言うのだ。

 彼女は嫌がっていたが、国の命令は絶対だ。

 僕は「旅を終えたら結婚しよう。」と言った。
 彼女も『うん、絶対に結婚しよう。』て言ってくれた。

 そして、彼女は旅立っていた。

 最初のうちは手紙をくれていて、『今はなんとかという町に来ている。』、『モンスターに襲われて怖かった。』とかだったんだけど、徐々に勇者の事が増えてきた時、嫌な予感がしたんだ。

 あ、心変わりしてる、て。

 それから3年が経って、魔王が倒されて勇者パーティーが凱旋で僕の村にもやって来た。

 勿論、村出身の彼女も来たんだけど、出た頃の彼女とは違っていた。

 綺麗になっていて、凄く自信に溢れていた。

 泣き虫の彼女はそこにはいなかった。

 そして、僕の顔を見て開口一番に告げたのは

『私、勇者様と結婚するから』

 その一言だけ言って僕の前で勇者とイチャイチャし始めた。

 その視線も僕を見下している感じで、好きだった彼女の面影は無かった。

 もう何かね、百年の恋も覚める、てこういう事を言うんだね。

 村の皆も『こんな奴よりも勇者と結婚した方が良い』て言うんだよ。

 こんな事ってある?

 何もかも信じられなくなったよ。

 彼女への未練なんて無いけど人間不振に陥って暫く誰にも会いたくなかったよ。

 正直、死のう、て思った。

 でもね、やっぱり悔しいんだ。

 この腹ただしい気持ちをなんとかしたかった。

 その為にはどうすれば良いか考えた。

 毒でも仕込んでやろうか、て思ったけど流石にバレると思うので止めた。

 目の前で首を切って死んでやろう、かと思ったけど、痛いのは嫌なので止めた。

 結果、僕は『無視』する事に決めた。

 勇者や彼女の話題は出来るだけ避けた。

 なるべく普通に振る舞う事にした。

 彼女の事も『あっそ』の一言で片付けた。

 結婚式の招待状が来たけど返事は出さなかった。

 手紙が来たけど読んでないし返事も書かなかった。

 彼女が直接来たけど会わなかった。

 徹底的に無視を決め込んだ。

 彼女という存在なんて最初からいなかった。

 そう思うようにした。

 そして、今日の結婚式。

 彼女は幸せそうな顔をしているがキョロキョロしている。

 僕を探しているみたいだけど絶対に姿は見せない。

 僕は教会が見える丘にいた。

 彼女に1度でも姿を見せたら復讐にはならない。

 僕はこれから村を出て流浪の薬売りになるよ。

 これで村にも戻ってこないし、もう彼女にも会わない。

 自己満足にしかならないけど、これが僕の復讐だ。

 幸せに、なんて言わないし、不幸になれ、なんて思わない。

 何にも思わないよ、僕は。

 一歩一歩、教会から離れていく。

 何か、悲鳴みたいなのが聞こえるけど気にしない。

 え?悲鳴?

 思わず振り返って丘の上から見た。

 勇者が首を斬られていた。

 斬ったのは女性らしく何か叫んでいた。

 彼女は白いウェディングドレスが勇者の血によって真っ赤に染まっていた。

 彼女はその場にしゃがみこんでいた。

 修羅場とは正にこの事だ。

 僕は改めてその場を去った。

 さっきとは違って『巻き込まれたくない!』て言う感情が強かった。

 
 
  

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