廃人は異世界で魔王に

暇人001

#11 ゴビュラの大森林

 ベリアル一行は馬車揺られること約30分、ようやく目的地に着いた。

 ヒヒィーンという馬の鳴き声と共に馬車が停止する。

「ゴビュラの大森林に着いたようだ、着いて早々で悪いのだが、さっそくクエストの方に取りかかってもらえないだろうか?」

 ギムルがベリアルにそう訊くと、ベリアルは無言で頷き馬車から降りる。

「ギムル殿、ここまで送って頂き感謝する。帰りは自力で戻る故先に馬車で帰っていて欲しい」

 ベリアルはギムルに向けてそう言う。

「了解した、ではベリアル殿、健闘を祈る」

 ギムルはそういい馬車を走らせた。

◇◇◇◇◇

「さて、クーガよ。これを使ってみろ」

 ベリアルはそう言ってクーガに虹色に輝く水晶のような球体を手渡した。

「これは??」

 クーガは手に取りベリアルに尋ねた。

「それは、オーブという物だ。主にレベルの上昇を促すためのアイテムだ、おそらくそのオーブならば1つでレベル80までは上昇するはずだ。握りつぶしてみろ」

 そう、ベリアルがクーガに手渡したのは『イグニティ』に登場したオーブと呼ばれる経験値アイテムである。

 クーガはベリアルに言われるがままオーブをグシャッと握りつぶす。
 瞬間、オーブは砕け虹色のチリがヒラヒラと宙を舞いながらクーガに吸い寄せられてく。
 虹色のチリはみるみるうちにクーガの体内に入っていき、最終的に全てのチリはクーガの体内に入りきった。

「こ、これは……」

 クーガは声を震わせながらそう言う。

「どうだ?レベルの上昇を感じることはできたか?」

「はい、体の底から力がみなぎってきます……」

 その言葉を裏付けるものとして、クーガの全身からは黒色のオーラが少しだけほとばしるように発生していた。

「うむ、それは良かった。ではキングオーガの討伐に向かうとしようか」
「御意ッ!」

 そう言って2人はゴビュラの大森林に足を踏み込んだ。
 それから約15分程度が経った頃──

「ふむ、なかなか見つからないものだな」

「そうですね、ギルドからの情報が大雑把すぎると言うのもあると思われます」

 2人は愚痴をこぼしながら大森林の中を歩いていた。

 ガサッ──
 茂みが微かに揺れる。
 その音をベリアルは聞き逃さなかった。

「出てこい、出てこないのならそこで死をくだす」

 ベリアルの声と同時に茂みから出てきたのは七体のゴブリンだった。

「キィッ!キィッ!」

 一体のゴブリンが仲間を呼ぶような仕草をしながら声をあげた。
 そして残りのゴブリン達は不敵な笑みを浮かべながらベリアルに襲いかかった──

矮小わいしょうなる分際でベリアルさんに近づくな、汚らわしい」

 六体のゴブリンは襲いかかったわずか数秒後に首と胴体がおさらばしていた。

「ほう、以前より剣速が上がってるんじゃないか?」

「はい!剣速の上昇と威力も上がっているように感じました」

 クーガは嬉しそうにそう言った。

「さて、残るは1匹か。おいそこのゴブリン、キングオーガを呼ぶことはできないのか」

 ベリアルは残ったゴブリンに対してそう言葉を言い放つ。

「キィ?」

 ゴブリンは何やら不思議そうな表情を浮かべ首を傾げている。

「ふむ、やはりゴブリンとオーガでは種族間の違いで共存や共闘はしていないのか」

 ベリアルが1人納得していると、茂みの奥がガサガサと揺れ、ドスンドスンと言う音が聞こえてきた。

「ようやく援軍のお出ましか」

「グギィ……」

 胸に響く程の低い声を出したのは、援軍で駆けつけてきたゴブリンの中で最も大きなゴブリンだった。

「ほう、ゴブリンロードか。久しぶりに見た気がするな」

 ベリアルがつぶやく。
 ゴブリンロードは『イグニティ』にも存在した下級モンスターなのだ。
 一応、ゴブリンの長という設定だが強いか弱いかで言うなら間違いなく弱い部類に入るモンスターだ。

「ゴブリンロード以外のゴブリンを全て排除せよ」

 ベリアルがクーガに命ずる。

「御意」

 その言葉と同時に、黒い残像がゴブリン達の周囲を縦横無尽に駆け回った。

 ドシャ──

 肉塊と化したゴブリン達の生首が地面に叩きつけられる音が、1つまた1つと静かな森林に響き渡る。

「よし、とりあえず雑魚の掃除は終わったな」

 ベリアルのその言葉と同時に黒い残像が消えてクーガの姿が現れた。

「全てのゴブリンを排除しました」

「うむ、ご苦労。さて、そこのデカブツお前に聞きたいことがある」

 ベリアルはクーガに労いの言葉をかけて、ゴブリンロードに向けて問いかけをする。

「ナントイウ……チカラ……」

 ゴブリンロードは、腰を抜かしながらおぼつかない人間語を口にした。

「ほう、人の言葉が話せるのか。ならば答えてもらおう、キングオーガを呼ぶことは可能か?」

「キング……オーガ……コノダイシンリンノ……ヌシ」

「ふむ……主が誰だろうがそんな事は聞いていないが」

「ヨベマス、イマスグヨベマス」

「それでいい、さっさと呼べ」

 ゴブリンロードに指示をするベリアルのその姿はまさしく魔の王だった。

 ゴブリンロードは大きな雄叫びを上げた。
 その直後、少し離れた場所でガサガサという音と共に木々が揺れ、鳥類が空へ羽ばたいた。

「来たか、クーガ構えよ」
「御意」

 クーガは剣を構え、獲物キングオーガを待つ。

 ドスンドスンという鈍い音と共に5メートルはあろう巨体が一歩また一歩とベリアル達の場所まで近づく。


「ほぅ……なかなかの威圧感ではないか」

 キングオーガを目前にしたベリアルは圧倒される。
 画面で目にするものと実物を見にするのでは訳が違う。

 大きな身体に、隆々とした筋肉、それから頭部に生えた二本の角はまるで強さを誇張しているように見えた。

「グォォォ!!」

 空気を切り裂くような雄叫びを発したと共にキングオーガは拳を握り、ベリアルに向けて放つ。

「《純白の硬壁グレーターウォール》」

 ベリアルの前には白い魔法陣が出現し、キングオーガの一撃を受け止める──はずだった。

 パリンッというガラスが割れるような音と共に白い魔法陣は消え去り、キングオーガの拳はベリアルに向けて進み始める。

「サタン様ッ!」

 クーガが、焦りのあまりサタンという名前を出すのも仕方がない。
 絶対無敵の主人が放った魔法が一瞬にしてかき消されたのだから。

「アレを突破するか……ただのキングオーガではないな」

 焦る従者クーガとは裏腹に冷静な主人ベリアルはキングオーガのその一撃を軽く躱して見せた。

「良かった…… 貴様、よくもベリアル様に牙を剥いてくれたな」

 クーガは一安心したと同時に怒りが爆発した。

「剣技〈魔狼斬〉」

 クーガの放ったその一撃は、狼の形へと変形していき、キングオーガの頭部を食いちぎった。

 吹き出す血しぶきと共にキングオーガの胴体と首は分離した。

「ほほぅ……」

 ベリアルはクーガの圧倒的な成長ぶりに感動していた、又それと同時に疑問を抱く。

(なんだ今の技、しかもさっき倒したのは恐らく変異種のキングオーガだろう……それを一撃で倒しただと?そんなことできるのはLRクラスでないと不可能なはずだ。一度確認しておく必要がありそうだな……)


「クーガよ素晴らしい一撃だったな」

「とんでもございません」

 そんなことは言いつつも主人ベリアルに認めたれた従者クーガは幸福感に満たされていた。

「ところでクーガよ、少しステータスを見せてもらっても良いかな?」

「ステータスですか?構いませんがなぜでしょう?」

「少し気になることがあってな」

 クーガはベリアルの目前に直立する。

「ステータス」





レベル80

 HP385,000/385,000
 MP126,800/128,000
 攻撃力5900
 防御力4200
 俊敏性7500
 魔攻力2800
 魔防御3100




「ふむ……ステータス自体にこれといった異常は無いな、と言うことはこの世界のモンスターは弱体化されているのか?いや、それでは私の魔法を突破したのが腑に落ちない……」

 ベリアルはクーガのステータスをまじまじと見ながら、独り言を呟き続ける。

「どうかされましたか?」

「うむ……少し腑に落ちぬ事があってな、もう少し詳しく調べても構わないか?」

「御意」

 クーガの返事を聞くなり、ベリアルは〈オープン・スキル〉と呼ばれる魔法を使用した。

 〈ステータス〉と同様に、半透明のプレートが浮かび上がる、そこには様々な特性やスキルなどが表記されていた。




特性
《魔王の従者》主人の敵に与えるダメージ量が5倍になる。
解放条件:不明。

《黒の剣士》剣技によるダメージ量が2.5倍になる。
解放条件:レベル50以上

《剣技の果て》剣技による消費MPを33%軽減する。
解放条件:レベル80以上


スキル
《黒き刃》発動中、剣技によるダメージ量を2.5倍にし、消費MPを2倍にする。

《不屈》発動中、マインド系による効果を100%の確率で無効にする。


剣技

《黒刺突》敵単体に(小)攻撃
消費MP25

《黒喰斬》敵単体に(大)攻撃
消費MP70

《狼牙斬》敵単体に(特大)攻撃
消費MP350

《魔狼斬》敵単体に(極大)攻撃
消費MP1200




「魔王の従者……なんだこのスキルは、聞いたこともない。しかも解放条件が不明確だと?」

 そう、『イグニティ』では《魔王の従者》などと言うスキルは存在せず、通常解放済みのスキルに関しては解放条件が表示されるのだった。

「なにか、おかしなことでもありましたでしょうか?」

 クーガは明らかなベリアルの動揺に、自分が何かしてしまったのかもしれないと言う焦燥に駆られていた。

「いや、何でもない。協力感謝する、とりあえずこれでさっきの瞬殺については説明がつくな……」

 とは言いつつも、どこか腑に落ちない様子のベリアル。それもそのはず『イグニティ』の世界と見た目は何ら変わらない場所にもかかわらず、『イグニティ』の常識が通用しないのだから。

「まぁ、良い。とりあえずコイツを運んで戻るとするか」

「御意」

 ベリアルは、転移魔法の一つである〈ゲート〉を使用する。
 2人の近くに突如として禍々しい門が出現した。

 クーガはキングオーガの足首を右手でしっかりと握り引きずるように門の前まで行き、左手で門を押し開いた。
 開門された向こう側は黒く淀んでいて、混沌がどこまでも続いているような景色だった。

「気が効くじゃないか、後、もう自由にして構わない、私達の気が変わらぬ内に何処へでも逃げるが良い」

 ベリアルは、クーガに対し労いの言葉を述べた後、キングオーガを呼びしたゴブリンロードに向けてそう言い放ち、門をくぐり姿を消した。

 クーガもそれを追うように、無言で門をくぐり抜けた。


 
 



 

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