廃人は異世界で魔王に

暇人001

#10 盗賊

 馬車の前に立ちふさがる複数名の汗臭そうな毛むくじゃらの男達の目の前に純白の魔道士が杖をつきながら現れた。

「テメェがこの馬車の主人か!」
 盗賊の筆頭らしき人物がベリアルに向けそう言う。

「いや、私はこの馬車の主人に雇われた冒険者だ」

「なるほどな、お前がこの馬車の用心棒ってことか!」

「現状だけ見ればそうなるな。一つ提案してやる、今ここで退けばなにも手出しはしないがどうだ?」

 盗賊達はその言葉を鼻で笑ってのけた。

「バカ言ってんじゃねぇよ!れッ!」

 盗賊達は、思った以上の連携プレーを見せ、ベリアルを撹乱しながら攻撃のチャンスを伺う。

「フン、唯一助かる方法をあれほど容易に蹴るとはな。大した度胸だ」

 ベリアルはそういうと続けざまにこう言った。

「貴様らのその度胸に免じて10秒間、私は無抵抗かつこの場から一歩も動かないことを約束しよう」

 そう言って、ベリアルは杖を地面に突き刺し、直立したままピタリと動かなくなった。

「何やってんだ?諦めたのか?まぁ良い、今のうちにやっちまえ!」
「「「「「おぉぉ!!」」」」」

 盗賊達は一斉にベリアルの元まで駆けて、腰に携えた剣を抜き斬りかかった。

 その瞬間──グウォンという音が鳴り響いた。
 その音と同時に盗賊達の大半はベリアルの目の前から姿を消した。

「なんだ、所詮は虫ケラか。私に立ち向かうその度胸はどこから来たのだ」

 ベリアルは呆れた声でそう言う。

「クッ……卑劣なヤツめ何もしないなどおかしな話だと思っていたが、やはり何か仕掛けていたってのか」

 盗賊の筆頭らしき男がそういう。

「言っておくが、私は魔法などは一切使っていない。10秒間何もしないと言ったであろう。まぁしかしその10秒ももうすでに終わってしまっているのだがな」

 ベリアルはそう言うと一歩だけ足を前に進めた。
 それに反応するかのように、筆頭らしき男と他数名はジリジリと後ろへ退がる。

「テメェら、覚悟を決めろ!一点突破だ!」
「「「おおっ!」」」

 窮鼠猫を噛む、と言ったところだろうか、盗賊達は再び己らを奮い立たせベリアルに剣を向ける。

「〈武技・軽足ソニック〉〈武技・筋力増強パワーポテンシャル〉 行くぞテメェら!」
「「「おぉぉ!!!」」」
 筆頭らしき男は自身を強化してベリアルに立ち向かった。


「ほう、武技ぶぎを使うのか。そういえばココに来てからは初めて見るな。 うむ、良いものを見せてもらった、せめてもの礼だ受け取れ。《千珠業炎サザン・クロスチェイン》」

 ベリアルは地面に突き刺した杖を抜き取り、魔法を放つ。

 杖の先端からは真紅に染まる炎が吐き出される。

「うっ……ぐぁっ!」
「「「ぐぅあっ!!」」」
 その炎は瞬く間に盗賊達を呑み込んでいき、炎が消えるころ、盗賊も同様に跡形もなく消えていた。

 その現場を目視し確認したベリアルはゆっくりと馬車へ戻る。
 戻る途中、血が混じった焦げ肉のような臭いが、一瞬だけ香った。

「今戻った、外の敵は全て排除したこのまま進行を続けてくれ」

 ベリアルは席に座りそう言った。

「べ、ベリアル殿、そなた何者なのだ……?」

 ギムルは額に汗をかきながらそう訊く。

「先ほど説明した通り、ただの冒険者だが?」

「そんなバカなはずはない!Bランク程度の冒険者が盗賊団を一瞬でしかも単身で退治するなど聞いたことがない!それに、なんださっきの魔法は!あのような魔法は、王宮に務められておるかの有名な大賢者様しか使えないはずだ!」

 ギムルの質問責めに合うベリアル。
 ベリアルは一度うつむき考え、こう言った。

「私は強い、今はその情報だけで十分ではないかな?」

 さらっと答えたその一言でギムルの質問責めは終わりを告げる。

「そ、そうであるな、あまり詮索するのもマナー違反だ。先の無礼詫びよう」

「構わないとも。 ところでギムル殿に聞きたいことがあったのだが聞いても良いかな?」

 ベリアルは、盗賊に襲われる前に聞きたかったことが一つあった。

「もちろん、答えられる範囲であればなんでも質問してくれたまえ」

 ギムルはベリアルの質問を快く聞き受けた。

「ギムル殿は、貴族でいうところのどの程度の位に位置するのだ?」

「ふむ、そんな質問か。私は子爵だ準貴族も含めるのであれば下から4番目の位だとも」

「なるほど……下から4番目、あまりピンとこないが、質問に答えてくれた事感謝する」

 ベリアルは自分の質問に答えてくれたギムルにしっかりと頭を下げて礼をした。

「もしや、ベリアル殿は貴族に興味がおありなのかな?そなたがその気ならば準貴族である士爵くらいにする事はできますぞ?」

「心遣い感謝する。しかし、残念ながらそういうことではないのだ。私は単に貴族がどのような階級に分かれているのかを知りたかっただけだ」

 ベリアルには貴族になろうなどというつもりは一切無かった。

「ほう、ベリアル殿は世情に疎いタイプの方なのかな?」

「うむ、簡単に言えばそういうことなのだ。だから少しでも情報が欲しくてな、例えそれが自分の生活と関係ないところの話であると分かっていても、つい聞いてしまったのだ」

「なるほど、このクエストを無事に遂行してくれたのならばその暁に私の家紋を渡そう」

 その言葉にいち早く反応したのは──
「ギムル様!無礼を承知で申し上げます、いくらなんでも軽率すぎるかと思います」
 リシュムだった──

「まぁ、良いではないか。先の戦闘で見せた破格の力。あれほどの力を持ちながら反乱を起こしていないという時点で信頼に値すると私は考えているが?」

 ギムルは冷静に言う。

「確かにそうですが……」

 ギムルの的を射た発言にぐうの音もでないリシュム。

「と、言うわけだベリアル殿。 今回のクエスト、精進して臨んでくれたまえ」

 ギムルは笑顔でベリアルにそう言った。

「何が何だか分からないが、ギムル殿の要望に応えられるよう精一杯努力はしよう」

「あぁ、よろしく頼んだ」

 ギムルは右手をベリアルに向けながらそう言う。
 ベリアルはそれに答えるように差し出された右をしっかりと握り、硬い握手を交わした。

 その握手を交わしてから数分後──
 ようやく目的地である、ゴビュラの大森林に到着した。

 





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