廃人は異世界で魔王に

暇人001

#4 圧倒的強者

 眩い光を放つ魔法陣とともに姿を現したのは、サタンだった。

 強大な力を誇張する壮大なオーラと魔王に相応しい装備を身につけいる。その圧倒的な威圧感は後ろ姿でさえ他を寄せ付けない迫力を醸し出している。

「サタン様っ!!??」

 深手を負った黒騎士が、驚嘆の声を上げる。

「随分と酷い有様だな《上位治癒魔法フルヒール》」

 何かの力に引き寄せられるように、黒騎士を貫いている大剣が離れて行き、黒騎士の鎧に出来た風穴は次第に塞がって行った。

「サタン様っ…… 申し訳ありませんっ」

 黒騎士はすぐさま立膝をつき全力で謝罪をする。

「まぁ、レベル30の割には良くやった方だろう。後で限界値まで鍛えてやろう」

 そう、この時黒騎士はまだレベル30だったのだ。
 
 URのレベルの上限値は80レベルである、通常URが排出されたとなったら全力で80レベルまで秒速で育成するのが常識だが、素晴は違った。

 悪魔種のみに限るがLRを全てコンプリートした彼にとってURなど取るに足らない存在だったのだゲームの世界では。


「ところで貴様ら」

 サタンが振り返り、冒険者たちに問う。

「我のシモベを随分といたぶってくれたようだな、この礼はきっちりさせて貰うぞ?」

 サタンの口角が上がる。一見笑っているように見えなくもないがそれは誤りである。
 目の奥は全く笑っていない。
 むしろその逆、憤怒の感情を宿した目をしている。


「誰だかしらねぇが、お前もしんどきなっ!オラァッ!」

 剣士が大剣を振り下ろす。

「《幾億の刃ビリオブ・スラッシュ》」

 剣士の大剣は、魔術師の放った魔法の使用時と同じように光の粒へと姿を変えて行った。

「うそ……だろ?」

 剣士は天を仰ぎそういった。
 光の粒はみるみるうちに巨大化してき、魔術師が放った時のよりも何百倍も何千倍も何万倍も大きい球体が頭上を覆い、影ができるほどだった。


「ま、待ってくれ!降参だ!降参する!」

 剣士は必死に命をこう、絶対的な死を悟ったのだろう。


「降参? 剣を抜いた戦いにそのような選択は元より皆無だ、大人しく死んでいろ」

 サタンが右手を挙げ、脱力するようにしなやかに振り下ろす。

 それと同時に光の球体は光線となった冒険者たちを襲う。
 その光は当然のごとく、形状変化を経て大剣へと姿を変える。

  数千万、いや数億だろうか。とにかく数えきれないほどの大剣が5人の人間の体を貫き、そのまま大地をも貫かん勢いを見せる。

 おそらく既に彼ら冒険者の息の根はないだろう。だが攻撃の手が休まる事は決してない。

 大剣が降り注がれて数十秒たったが未だに球体が無くなる様子がない。それどころかほとんど変化がないといっていいほどだ。

 そこで、サタンはパチンッ!と指を鳴らす。
 瞬間、光の球体はとんでもなく巨大な1本の大剣へと姿を変えたのである。
 
その大剣が大地に向けて落とされる。空を切る音を立てながら大地へ近づき、大地を割り大剣は鍔部分まで突き刺さった。


「なんと強大なる力か…… 流石はサタン様……」

「我は一度帰還する。悪いが黒騎士よ、コイツらの残骸の後処理を頼む」

「御意ッ!」

 黒騎士と清々しいその返事を聞くなり、サタンは再び転移魔法を使って移動した。



「しかし…… これほどまで強いとは……」

 無数に散在する大剣に一際目立つ巨大な剣。その下には冒険者たちの無残な死体、いや肉塊が転がり落ちている。

 黒騎士はその散り散りになった肉塊1つ1つと無数に突き刺さった剣を全て黒き炎で燃やし尽くした。


「うむ…… これくらいで良いか」

 黒騎士は、全ての肉塊と大剣を灰にし、残った巨大な大剣も時間と魔力をかけてカケラも残らぬよう消し終えた後、街を目指し歩みを進める。






「少し時間がかかってしまったが、たどり着くことができたな…… 人間の国、バミロニア国か」

 黒騎士は、正方形に広がった高い塀に囲まれる国を、見晴らしの良い丘の上から俯瞰していた。

「ふむ…… この姿のまま行ってはまだ先のような騒ぎになってしまうかもしれない…… 《擬人化フェイケスト》」

 その魔法使った瞬間、黒い鎧を見にまとった戦士は途端に姿を短髪黒髪に黒い鎧を装備し、顔を隠していたヘルムは消えており、露わになった顔は冒険者のような荒々しい顔ではなく、品のある整った顔だった。

「こんなものか……」

 ゆっくりと、バミロニア国付近まで足を運ぶ。

 国を守る壁は石で作られており、東西南北の四箇所に木製の門が設置されている。
 黒騎士は、北門から入国を試みる。

「とまれ、見ない顔だが冒険者か?ギルドカードの提示を」

 門の前で目を光らせる門番に声をかけられる。

「うむ…… すまないが私はただの旅人だ。 ギルドカードとやらは持ち合わせていない」

 門番は、黒騎士の装備を下から上に舐め回すように見てこう言う。

「その装備で旅人と言うのか…… まぁいい、仮入国を許可する」

「あぁ」

 黒騎士は止めていた足を再び前へ進める。

「まて、仮入国は銀貨3枚だ。払えないなら帰りな」

 門番は黒騎士を引きとめ、そう言う。

「銀貨3枚…… 悪いが今そのような持ち合わせはない。国を一周見て回ったらすぐに帰る。だからさっさと入れてくれ」

「だったら入れてやる事は出来ねぇな。回れ右して帰りな」

 グッと握り拳を作り力を込める黒騎士。ここで騒ぎを起こせば先ほどの二の舞いになってしまう。と自分に言い聞かせなんとか怒りを鎮める。

「わかった。わがままを言ったようですまなかった」

「おう、わかりゃあ良いんだよ」

 門番は得意げな顔をして、黒騎士を追い払った。




「あのクソ門番め…… なんとしてでも侵入してやる……」

 黒騎士はそう言い門番の元を離れ人気の少ない場所まで移動し、不敵な笑みを浮かべながら聳え立つ壁を見上げる。

「この壁をよじ登って……」

  壁を登らんと足を進めようとしたとそのとき、聞き覚えのある一声が黒騎士の鼓膜を揺らした。

「何をしている?」

 その声の主は──

「サタン様っ!?どうしてここにっ」






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