廃人は異世界で魔王に

暇人001

#3 偵察


「サタン様から直々に承った任務、必ずや成功させなければ」

 サタン素晴より、命令を受けたのは『イグニティ』におけるURキャラクターである黒騎士である。
 因みにURの排出率は0.00012%だそうだ。
 LRは……URよりも低い。としか言えない程、数字に表せばエゲツない確率である。






「サタン様は、街の偵察をして来いと仰っていたが…… 一体どこの街を偵察したら良いのだろうか…… しかし、あまり時間をかけるのも失礼。ここはもっと近いニンゲンの国を覗きに行くか」


 魔王城(仮)から最も近い場所に位置する街といえる規模の大きい人口密集地帯は人間種の国である。
 ちなみに公式の魔王城は人間種の国から最も遠い場所に位置している。

「走れば30分、いや20分ほどで着くか? まぁ良いとにかく急ごう」

 大地を蹴り、もの凄まじい速さで黒い鎧が移動するその姿は、はたから見れば滑稽に見えるかも知れないが、対面すればその考えも変わる。 死が凄まじい速さで向かってきているのと同じことを意味しているのだから。


 しかしそんな、死の具現に向かって一本の弓矢が放たれた。
 当然、その弓矢が黒騎士を捉える事はなかったが敵対意識を持っているのは明確だった、黒騎士は一度立ち止まり、矢が飛んできた方向を向くとそこには5人組の冒険者らしき団体がいた。


「聞こう、そこニンゲン供、私が黒騎士で知っての行為か?」


「黒騎士か何かは知らんが、俺らに見つかったのが運の尽き。有り金全部置いてくなら命だけは見逃してやってもいいぞ?」

 雑魚にふさわしいセリフを吐く冒険者たち。

「愚かな。 ここで全員殺す。と言いたいがサタン様のご命令に叛くわけにはいかん。サタン様の寛大なる意思と自らの強運に感謝をするんだな」

 黒騎士はあくまで、サタンの命令には叛かない姿勢をとる。

「何言ってんだよ、自分の立場がわかってねぇな…… おい、殺るぞ」
「「「「おうよ!」」」」


「全く…… まぁ良い、全て耐え切ってやろう」


 冒険者たちが勢いよく黒騎士に飛びかかってくるが、先程までの黒騎士のようにもの凄まじい速さで向かってけるわけでない。

 当の本人、黒騎士からすれば止まっているように映るだろう。


「オラァッ!」

 剣士が黒騎士に向かって、大剣を振り下ろす。

 パシッ

 振り下ろされた剣をいとも容易く片手でとらえる。

「フン。こんな程度か…… 少しは己の無力を悟ったか?」

「くっ…… だがなコレで勝負はついたぞ? やれッ!」

 剣士は剣から手を離し素早くその場を離れる。
 それと同時に1番後ろで待機していた杖を片手に持ち、ローブで身をまとった魔術師が魔法を放つ。

「《百刃ハンドレア・スラッシュ》」

 瞬間、黒騎士の手に握られている大剣が光の粒に変化し、上空に上がって行く。
 一箇所に集中した光の粒は弾け飛ぶように散り散りになった。否、正確には黒騎士に向けて放たれたと言った方が正しいか。

 黒騎士に百の光線が降り注がれる。 さらにその光線1つ1つが形を変えて、元の大剣へと姿を変える。

 計100本の大剣が黒騎士に向けて注がれる。

 凄まじい土埃とともに、鎧に傷をつける音が鳴り響く。
 土埃が収まり、100の刃をその身で受け切った黒騎士の姿は無残な者だった、肩に2本、左太ももに1本の大剣が突き刺さっている。


「ハァ…… よもやニンゲン風情がここまでやるとはな」

 黒騎士は完全に不意を突かれたのである。防御をしっかりと取っていればここまで酷いダメージにはならなかった、ましてや黒騎士ほどの俊敏性を持つなら全て躱すことも容易だっただろう。
 
 それほどの実力差があったのだ、それ故に奢った。その程度の速度の攻撃、その程度の威力しか持たない攻撃ならば全て受け切っても何ら支障はないと。


「へぇ〜、アレを喰らって生きてるなんてすごいじゃねぇか」

 剣士が賞賛とも挑発とも取れる声を上げる。

「フン…… こんなもの、かすり傷程度だ」 

 否、甚大なダメージである。

「ほぅ?ならもう一度食らってみるかァ!? やれっ!」

 その掛け声と同時に魔術師が再び杖を掲げる

「《百刃ハンドレア・スラッシュ》」

 魔法発動の瞬間、黒騎士と冒険者の間の地面に魔法陣が浮かび上がる。
 


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