アフ◎トリ(after trip)~廻るカルマの転生譚

アルト

第7章『結界とネクロマンサー』

『あの世はこの世。この世もまたあの世ーーーーです』

 階段を上る途中、首にかけたこのネックレスは(哲学)といった感じのことを言う。

 なんのことか気になるが後回しにし、ドアを開け足を踏み入れようとした灯夜を停止させてくる。

『待つです。……なるほど、結界ですか』

「結界? なぜ俺家おれんちに……てかお前みたいのが他にもいるのかよ」

 結界なんてものを鵜呑うのみにしてる自分に少し驚いてしまう。

「つっても俺は普段出入りできてたぞ?」

 結界とやらを探すも灯夜の目では捉える事ができない。

『これは女避けの結界けっかいです。浄土じゃどの家庭にも使われてるですがーー』

 ネックレスは黙り込み、なにか分かったのか慌てた様子で声を発する。

『おまえ、とんでもない女をもらったですね。……対象者を殺すような結界…浄土じゃ御法度ですよ! 危うく死ぬとこでした』

「また殺すとか死ぬとか……お前て厄病神なの?てかやっぱ女なの?」

 淡い水色に光り出すネックレスは俺を無視。玄関の方へとチェーンを伸ばし小刻みに震える。

 するとだんだん褐色かっしょくもやが現れ、ヘッドの部分でそれを真っ二つに裂く。

『これで結界は解いたです』

「そっか、やるじゃん!…………て、ちょっと待てよーー」

 頭が真っ白になった。女避け? そして対象者は死ぬ? ならーー

「今ーー家の中にの友人が俺の帰りを待ってるんだ……」

 背筋が凍り急いで靴を脱ぎ捨てる。

『その女 死んでたらそれですが、生きてたら術者でーー』

 ネックレスの見解を静止させたのは部屋の奥から放たれてくる無数の黒いなにか。

 翼をはためかす音が響き渡る。
ネックレスは俺もろともを包むうすい光の盾を展開し身を守る。

 バリアにも似た盾にバシバシと張り付くそれは羽。

 やむことのない横殴りの黒い雨は勢いを増していく。

「ーーこれが魔法」

 辺りが漆黒の闇に襲われてる中、とっさに口からこぼれる。 

 魔法てのは詠唱があり魔法陣やエネルギーの集合体が発射したりするもんだと思っていた。

 しかし飛んでくるのはただの羽。これに怯えたりはできない。

『これは魔法ではなく、魔術の類です』

「エリだったっけか、マナ? がないんしゃ…?」

『お前の首筋から供給してるです』

 手で確認してみると、チェーンから小さな棘が生え灯夜の首を刺している。

 痛みは感じず気づかなかった。

『ーーそれよりも、いったい何者です?さっさとこの小汚いもんをしまいやがれです』

「……とうやは渡さない」

(こ、この声は!)

「飛鳥! 飛鳥なのか!?」

 すると翼をばたく音が止み、黒い羽は蒸発するように消える。

「とう……や!?」

 視界が晴れた部屋にいたのはーーーー飛鳥だ! 

 良かった。彼女が無事で。

 ただいつもと違って見えるのは、背中に生やすデカい翼のせいだろう。

「とうや、これは違くて、その……忘れて」

 慌てた様子で弁明を始める飛鳥だが、どうも無理そうだ。

 黒い煙を放流させる翼は折りたたまれ霧散する。

 とにかくクールにならねばと、灯夜は飛鳥に歩み寄ると、

「ーー近づかないで!」

 飛鳥は慄きながら後ずさるように震えた声でそう言い放った。

「オーケー、それにしてもカッケー羽だな」

 彼女の目には動揺と警戒の色が濃く見える。

 殺伐とした空気を打開したく、床にまだ残る消えかけの羽に手を伸ばす。

 そんな俺の行動に、飛鳥は悲鳴混じりに叫ぶ。

「触っちゃダメ!!」

 初めて聞く飛鳥の声を荒げた一喝に、両手を上げ戯けてみせる。

「とりあえず飯だな!ちょっち待ってろ」

「私の、こと、聞いたり……しない、の?」

 歯切れが悪い。不安そうな喋り方だ。

「それは飯を囲んでからだ。今はお前が無事で良かった……それだけだよ」

 灯夜の優しさに満ちた台詞を聞き終え、飛鳥は頷く。

 しかし納得のいかない者が1名。
 落ち着き出した場を壊したのは性悪ネックレス。
 
『ふざけろです!命狙ってきたやつです。死刑執行デス!』

「飛鳥のは多分事故だよ。てか、お前こそ俺の命狙ってんだろーが!」

『そ、そうです!まずはお前からです!!』

 グサリとチェーンの棘が太くなりマナ?を大量に吸われる。

「痛えーわ!」

 灯夜はすかさずネックレスを外し投げ捨てる。

『ぎゃふんっ』

 エプロンを身につけリビングに入る灯夜は、飛鳥にさっきの攻防で散らかった部屋を片付けるように指示する。
 
 これには飛鳥も素直に従う。

 テーブルの脚に縛られたエリは文句を言いつづけているが誰も相手をしない。

 カレーが作り終わるまで会話はなかったーー

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