34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました

丸めがね

第69話 ソニアとシルク(19)

「ここどこ・・・?」

シータが魔法でシルクを連れてきた場所は、一面が花畑という場所だった。

さっきまでは確かに夜だったのに、ここの空はカクテルみたいな夕日だ。

上から紫、青、白くぼやけた後、オレンジ、ピンクが重なり合う。

シータは不貞腐れたように、シルクに背を向けて花畑に座り込んでいた。

(人を押し倒して襲おうとした割には、ロマンティックな場所じゃん。)
と思いつつ、シータからそーっと離れようと静かに移動するシルク。

しかし、妙に寂しそうなシータの背中が気になってしまった。

どんなに美しい、イケメンの魔法使いでも、シルクの中の人(34歳サラリーマン)よりは若者で、

多分ずっと1人で暮らすしかなかった、孤独な青年だ。

生まれ落ちた時、頼るべき王に殺せと命じられた。

命を救ってくれたブルーライオンのソードは、シルクに会うために助けたという。

実の父親は、母親は、我が子を庇うことはなかったのだろうか。

涙もろいシルク(の中の人)は、勝手に妄想を膨らませて目頭を熱くした。

「あのっ、シータ…」

シルクが振り向いた時、そこに座っていたのは小さな少年だった。

「えっ…」

背中を丸めて座る5歳ぐらいの小さな小さな少年が、花をプチプチちぎっている。

「キミ…だれ…?」

シルクが話しかけて振り向いたその顔は驚くほど美しく、青と緑のオッドアイ、紛れもなくシータだった。

シルクは、シータが自分に幻を見せているのだと思ったが、寂しそうな小さな子供を放ってはおけない。

「キミ、シータくんでしょ?どうしたの?」

「どうしてぼくの名前知ってるの…?アンタ、誰?」

子供のシータは怪訝な顔をする。

「あ、怪しいものではありません!…えーと…あ、そうそう、ブルーライオンのソードと知り合いです!シルクと言います!」

「ソードの知り合い?ふーん…。」

シルクはシータの横に座った。さっきまで恐ろしかった相手だが、小さくなると妙に可愛い。

白くてふわふわのほっぺたは花のような淡いピンクだ。

シータはまた、手近な花をちぎり始めた。

「ねぇシータくん、せっかく咲いた花をちぎっちゃったら可哀想だよ」

「じゃあどうしてこんなに綺麗に咲くの?誰にもちぎられたくないのなら、もっと醜く、ひっそりと咲けばいいのに。」

シータはおおよそ子供らしくないことを言う。

でもそんな小さなシータがやっぱり可哀想で、シルクは頭を撫でた。

「当ててみようか、キミはきっとソードに叱られたんだね?」

「…!どうして分かったの?アンタも魔法使い?」

シルクはニッと笑う。シータが関わって落ち込む相手といえばソードしかいないのだから当てるのは簡単だ。

「ソードのヤツ、ぼくが森から出るのは絶対ダメだって言うんだ。
森の外には悪い人間がたくさんいるからって。

でもぼく、魔法が使えるんだよ?誰に負けないのに!」

「キミを傷つかせるのは暴力だけとは限らないんだよ」

シルクは、中の人(気弱なサラリーマン)が小学生の頃1年間いじめられたことを話した。

暴力も辛かったが、悪口を言われたり騙されたり、嘘をつかれることの方が何日も辛かった。

中でも1番辛かったのが、〝見捨てられる〝こと。

仲の良かった友達や、助けてくれると思っていた教師までもが見て見ぬ振りをした時の、心臓が凍りつくような絶望感は、四半世紀経った今でも思い出せばまだ辛い。

シータは所々首を傾げて分からない部分もあったようだが、概ねシルクの話を理解したみたいだった。

「じゃあ、ぼくは、傷つかないためにずっとひとりぼっちなの?」

「違うよ。傷ついても大丈夫な時までもう少し待った方が良いだけだと思うんだ。
そしてその時期はソードが知ってるんじゃない?」

「ふーん…」

シータが納得したのかどうかは分からないが、花をむしり取る手は止まっていた。

「いいよ、ぼく、たまたま今暇だからお前の話を聞いてやる!何かもっとたくさんお話していいよ!」

シータは少し笑顔になってシルクに近寄って来た。シルクはちょっと胸キュンしながらシータに色々話してやった。

シルクの話(主に失敗談)は1時間以上続いて、花の色が分からないほど辺りが暗くなる。

話が途切れたところで、シルクは

「もう、おうちに帰らなきゃね」と言った。

シータは名残惜しそうだったが、すっくと立ち上がった。
「今日は楽しかったぞ。お礼に、とっておきの魔法をかけてやる。
ぼくはそのうち魔法でこの世界を支配するんだけど、間違えてお前を傷つけない魔法をかけてやろう。
アンチマジックの魔法は、この世でぼくにしかできないってソードが言っていた!

じゃあ目を閉じて・・・」


シルクは言われるまま目を閉じる。

次に目を開けた時に、目の前にいたのは大きくなったシータだった。




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