34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました

丸めがね

第63話 ソニアとシルク(13)

「あそこには森の魔女がいるの?!」
あまりにも驚いて、食べていたリンゴを落としそうになるシルク。

「いるよ。魔女の事、知ってるの?酷い変わり者でね、その正体は誰も知らないんだ。顔も名前も年も、すべて謎に包まれている。たまに彼女に挑もうとする者も現れるが、大抵はひどい目にあわされて逃げて帰るのさ。

シルク、退屈になったら行ってみるかい?」

シルクは思いっきり首を横に振った。絶対に会いたくない。

ハンスは笑いながら小雨が降り始めた草原の小道を急ぐ。


ソニアが、シルクがいなくなったことに気が付いたの昼前、もう2時間は経ってからだった。

忙しい中様子を見に行き、部屋にいなかったので中庭をのぞいてみると、ハンスとシルクに背格好が良く似た二人がいたので安心していた。
気晴らしに庭いじりしていたのだろうと。

しかしどうも様子が違うので近づいてみると全くの赤の他人、ハンスに頼まれたというおじいさんと小柄な召使の女だった。

「ハンスが頼んだということは・・・ハンスがシルクを連れだしたのか?!いったいなぜ・・・!」

王がシルクの部屋に来るのは夜、あと6時間ほど。それまでに連れ戻さなければ大変なことになるだろう。

しかしそんな事よりもソニアは、シルクがいなくなってしまったことに自分でもびっくりするぐらい動揺していた。

シルクの身に危険が迫っているのかも、と思うと心臓が破れそうだ。

この思いをなんて言えばいいのだろうか。



一方、ソニアのそんな気持ちを知らないシルクは、森を目の前にして大興奮している。

「これが魔女の森かぁ・・・すごいなぁ・・・!」

「怖いかい?」ハンスが小さなシルクの顔をかがんで覗き込む。

「うー・・・ん。はい、怖いです。でもちょっと、ワクワクしてます!」
中身の中身がおっさんと言えども男のせいだろうか、冒険の予感で胸が高鳴る。

(絶対会いたくないと思っていたけど…。もし、森の魔女をやっつける事が出来れば、多くの犠牲が必要な魔法をかける者がいなくなるわけで、これも解決法かもしれない!)とシルクは思ったのだ。

怖いけれど、ソニアのためならできるかもしれない。


「まあ、私の小屋は森の入口近くの川のそばにあるから、ずっと奥に進まなければ魔女に会うことはないんだよ。」
ハンスは馬車を降りて馬の手綱を引いて歩く。シルクも荷台から降りててくてく歩いた。

森は1歩進むたびに薄暗くなり、外から見た以上にうっそうとしている。

赤、青、紫、目の覚めるようなピンクに蛍光オレンジなど、少し変わった色の植物がたくさん生えていて、魔女の森っぽさを演出していた。

森に入って20分ぐらい歩いただろうか、ハンスの小屋が見えてきた。

小さくて煙突と緑色の屋根が可愛い小屋である。

「しばらく来ていなかったから掃除をしよう。」
もともとよく整頓されていたし、部屋も小さいのでブラシでゴシゴシ水拭きすれば良かった。

無心で掃除をしていると、嫌なことも忘れられる・・・ような気がする・・・ゴシゴシゴシ・・・

「シルクはお姫様なのに、お掃除が上手なんだね。ブラシなんか持ったことないかと思っていたが。」
ハンスが、一心不乱に掃除をするシルクを見て感心したように言う。

中の中のサラリーマンの人が、会社で新人の頃毎朝事務所を掃除させられていて、それが意外に性に合っていて掃除は嫌いではないのだった。(むしろ仕事より好き)

雑巾がなかったので、頭にかぶっていた布で小屋中を拭き上げる。

水は川から何回も汲んできて綺麗な水でピカピカに磨いた。

ハンスは人が変わったように掃除を続けるシルクを面白そうに眺めている。

異世界に飛ばされて、性別年齢まで変わって日々いろいろあって、自分では自覚がなかったがよほどストレスが溜まっていたのだろう、何かをぶつけるように一生懸命体を動かして掃除した。

小屋中がピカピカになったのはお昼から3時間は経ってからで、やり遂げた感と共にすっかりお腹が空いていた。

そんな時にハンスが衝撃の一言を発する。
「食料を入れた樽を忘れた・・・。」


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