34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました

丸めがね

第17話 ロックと食事

コンコン、と床下から叩き返す音。


その、遠慮がちで気弱な響きに、クロちゃんはシンパシーを感じた。

また、コンコンと叩いてみると、やっぱりコンコンと返してくる。

「誰かいるんだ…動物かも?」

トントコトントン、トントン

今度はリズムを付けて叩いてみた。

やはり、同じように返してくる。

「人間だ…!」
何となく嬉しくなるクロちゃん。

「どうにかして、下の部屋に行けないかなぁ」

色々壁や床を探ってみるが、特に出られそうな所はない。

クロちゃんが床に這いつくばっていると、バタンと勢いよくドアが開いてロックが入って来た。

「何してんだ、お前。」

カエルみたいな格好をしているクロちゃんを訝しむ。

「…ちょっと運動をしております…」

「変な奴だな!まあいい。ほら、着替えと食い物だ。医者は見つからなかったから、後でどうにかしてやる。」

ロックはクロちゃんに、粗末な青いドレスを投げてよこした。

クロちゃんが何の躊躇もなく赤いマントを脱いで着替えようとしたので、ロックの方が思わず目をそらす。(クロちゃんはまだ女の子の自覚が足りません)
顔は赤く腫れ上がり、醜い少女だが、体は美しいのだ。

青いドレスはクロちゃんの小さな身長に合わせて選んだせいかどうやら子供用で、大きな胸の所がキツくて強調されてしまうが、ここで文句など言えるわけがなかった。

クロちゃんが着替えている間に、意外にもロックはテーブルにキチンと食べ物を並べていてくれた。
きっと育ちが良いのだろうと思われるテーブルセッティングだ。

クロちゃんはイスに座って、パンと干した肉のようなものを食べる。小さなりんごも1つ、置いてあった。気がつけば空きっ腹、有難い。
死と直面する異世界だと、食べることは生きることであるとシミジミ実感できる。

ロックはクロちゃんの向かいにあるイスに足を組んで腰掛けた。

パクパクと食べるクロちゃんをジーっと見る。どうやらこの少年は、人をジーっと見るクセがあるらしい。

「黒髪の美少女…」
思わず呟く。

「あ、あの、ボクじゃないと思うので、早く本物が見つかるといいですね」
何となく返事をするクロちゃん。(中身サラリーマン)

ふん、と鼻で笑うロック。

「レオ様はお前をどうなさるつもりなのか。女としても働き手としても、役に立ちそうにないのになぁ」

ロックはパンのかけらが口の周りに残るクロちゃんの顎を持って顔を近づけ、またジッと見た。
さすがに焦るクロちゃん。

「え、え、どうしたんですか?!」
「…」

肌や髪を抜きにしてよく見ると、クロちゃんがすごい美少女だと気付く。

もし、この腫れが治り、髪が元に戻ったら…?

ロックは少し考えて、いきなり席を立った。

「早く食べてしまえ。この下の部屋に行くぞ!」





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