34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました

丸めがね

第9話 出発前夜の事件

村長キリマの行動は素早かった。

翌日には、クロちゃんの旅の準備はすっかり出来上がっていた。

心配かけるといけないので、ハッキとガガ以外の家族には本当の事は言わずに、コナンの街でクロちゃんの素性の手掛かりが見つかったから行く、という事にしていた。

それでも、クロちゃんを気に入っていたお母さんや小さな兄弟たちはとても寂しがった。

「もしコナンの街で困ったら、いつでも帰って来ていいのよ。」
お母さんは涙していた。

「それにしても、村長さんはキミに特別に親切だね、クロちゃん。アレンさんまでご一緒して下さるなんて一体どういう事だろう。」

お父さんだけがこの状況を少し訝しむ。

出発前夜、いつまでも離れない小さな兄弟たちをお母さんがやっと引き離した後、
クロちゃんは1人ベッドで横になっていた。

明日からの自分の行く末が不安過ぎて眠れない。

(ボクどうなっちゃうんだろう…。まさか本当に食べられちゃうってことはないよね…。

逃げ出したいけど、この世界で頼る人もなく生き延びられる気もしないし、

お世話になったハッキたち家族には迷惑をかけられないし…。

クロちゃんがため息をつきつつ横になっていると、ドアが静かにそーっと開いた。

「だれ?」

小声で尋ねる。

その影は返事をせず、クロちゃんに素早く覆い被さり、手で口を塞いできた。

「!!」

間近に迫った顔は、

ガガ

だった。

「静かにして…」

ガガは、もう片方の手に光るモノを持っている。

「!!??」

クロちゃんは必死で逃げようとしたが、馬乗りされて両腕も足で押さえられているので身動きが取れない。

ガガは

「ごめんね、クロちゃんごめんね」

と言いながらナイフを近づけてくる。



ザクリ



ハラリと、黒髪が床に舞い落ちた。

ガガは、クロちゃんの髪の毛を切り始めたのだ。

「危ないから動かないで…」

首元からナイフを髪に刺していく。

瞬く間に、クロちゃんの髪はかなり短めのショートカットになっていた。

さらにガガは巾着から泥みたいなものを取り出し、クロちゃんの髪に塗りたくった。

口を押さえられているクロちゃんは、止めてと言えずに涙が出てきた。

クロちゃんの中身は34歳サラリーマンなので、20歳も歳下のガガのことは弟か、なんなら息子のように思ってきたが、

実際にはクロちゃんの方が歳下の、力の無い女の子であることを思い知る。

(女の子にとって、男の人ってこんなに怖いんだ…)

ガガは泥をザンバラになったクロちゃんの髪に塗った後、

「ごめん、ごめん…」
と言いながら口を押さえていた手をそっと離した。

涙と恐怖で言葉が出ないクロちゃん。


「何してんの?!」

バンッと扉が開いてハッキが入ってきた。

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