34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました

丸めがね

第5話 夢の世界のクロちゃん誕生

「自分の名前、覚えてる?」

明らかに凹んだ空気の正十に、ハッキは明るく問いかけた。
正十は力なく首を横に振る。

「そっかー、だろうねぇ。よし!私が名前つけてあげる!思い出すまで使ってよ!7人いる弟や妹たちの名前も私が付けたんだから。
んー、そうねぇ」

ハッキはジロジロと正十を眺めてからドヤ顔で言った。

「よし、決まった!黒い髪が綺麗だからクロちゃんね!!」

ハッキのネーミングセンスは絶望的だった…
正十改めクロちゃんには、安田大サーカスのクロちゃんしか思い浮かばなかったのだが、他に良い提案があるわけではなかったので

「ありがとうございます…」

とだけ言った。

「わーい、クロちゃんクロちゃん!」

小さな子供達だけが大はしゃぎしていた。

だんだん意識がハッキリして、周りが見えて来たクロちゃん。

「そうだ!ここ!ここはどこですか?…日本じゃないですよね?!」

「ニホン?違うよ、ここはチイッポ村。カナンとコナンの間にある小さな村だよ。」

鈍いクロちゃんも流石にピンと来た。
ココはさっきまでいた世界じゃない。異世界だ。
いやまだ、夢を見ている可能性もある。

夢なら醒める。夢の世界かもしれない。

クロちゃんは少し落ち着いた。

夢なら醒めるんだから、大丈夫だし、この状況は夢としか考えられないのだ。

そうだ、こんな変な夢を見たんだよって、明日会社のリーダー斎藤さんや、ぽっちゃり角田さんに話してみよう。

きっと欲求不満の現れじゃないかとか、ロリコンだとか言われそうだが、笑い飛ばしてもらえればそれでいいし。

少しホッとしたところで、

グゥ〜

とクロちゃんのお腹が鳴った。コンビニで買ったお弁当を食べ損ねたことを思い出す。

ちょっと頬を赤らめ、お腹を抑えるクロちゃん。
(夢でもお腹が空くんだ)

ガガは(可愛いなぁ)と思ってその様子を見ている。
白い頬がすぐにほんのりとピンク色に染まって、艶やかな黒髪が揺れている様子がとても可愛いらしい。

「お腹が空いたのね。パンとスープ持って来てあげる。」

ハッキは笑いながら食べ物を用意してくれた。



クロちゃんがすぐに醒めると思っていた夢は、パンを食べてもスープを飲んでも、

夜になって仕事から帰ってきたハッキたちの両親に挨拶をしても、


全く醒める気配がなかった。


「小さな女の子にしては、ずいぶん…しっかりしてるわねぇ。」

ハッキたちのお父さんやお母さんに、中身は34歳サラリーマンの対応をしているとすごく不思議がられた。

「なんて言うか、腰が低い?」

ハッキによく似た赤い髪でソバカスの、逞しいお父さんはガハハと笑う。

「それにしても何て可愛らしい子!こんなに可愛い見たことないわ!
この辺の子じゃないね…。ああ、記憶がないんじゃ、困ったわねぇ。
多分、カナンかコナンの街で聞けば手掛かりはあるはずよ。こんなに可愛いんですもの!
ウチならいつまでいてもらっても良いんだけど、クロちゃんのお身内の方も心配なさっているでしょうから、落ち着いたら探して見ましょうね。」

お母さんはすごくクロちゃんを気に入った様子で、とても親切にしてくれる。

子供達もすぐに懐いて、クロちゃんの周りにまとわりついていた。

ハッキもクロちゃんの事をなんだか嬉しそうに見ているし、ガガが向けてくる視線も熱い。

クロちゃんはこの家族に感謝しながらも、早く夢から覚めないかなとひたすら思っていた。




コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品