34歳気弱なサラリーマン、囚われの美少女お姫様始めました

丸めがね

第2話 山奥の別荘

某県、某避暑地。


電車とバス、そして最後はタクシーと乗り継いで、姉に紹介された別荘に着いた正十。

早朝から出発したのにもう11時過ぎだった。

「仕事で避暑地とは羨ましいわぁ」と、ニヤニヤしていたぽっちゃり事務の角田さん。
ここが避暑地とは名ばかりの、超田舎だと気付いていたのだろう、ちっとも羨ましそうではなかった。

でもおかげで、正十は昼ごはんをあらかじめコンビニで仕入れておくことができ、それは正解だった。

周りにはなーんにもない、山奥だったからだ。
タクシーの運転手さんに場所を説明するのも一苦労して、
「ここ、道があったっけ?!」
とまで言われてしまった。


コンビニのレジ袋をガサガサさせながら、1人正十は別荘前に立つ。古い鉄の門は錆びて朽ち果て、役割を果たしていなかった。

鉄の残骸をまたいで敷地に入る。

玄関に続く道には、夏の日差しを浴びて濃い緑の雑草がおいしげっていた。

右手の奥には庭だったであろう広場があって、真ん中辺りに石のテーブルと椅子が残っている。

「後で、あそこでご飯食べよう」

正十はそれだけを楽しみに、建物の中に入る決意をした。


入り口ドアの鍵は、姉サツキが持ってきた茶封筒に入っていたので、それを使う。

年代を感じさせる、真鍮の大きな鍵が、ガチャリと音を立てて回った。

「開いた…」

大きくて暗い玄関を抜けると、だだっ広いホールみたいな部屋に出た。
高い天井に窓が三方にあるため、意外なほど明るい空間。

「ここでダンスパーティーでもやってたのかなぁ。お金持ちはすごいなぁ」

妙に感心してしまう正十。

少し落ち着いたところで、正十はカバンからカメラを取り出した。

ここを売るとなると1度掃除と修繕に入ってもらうことになると思うが、とりあえず資料に全部の部屋と外観、周りの写真を撮っておく必要がある。

「建物は立派で良い材料も使ってるみたいだけど、こうも田舎で古いと高値は付けられないな…2000万から始めて、1500万底値かなぁ」


パシャリパシャリと写真を撮りながら呟く正十。
この業界で働き始めて10年以上、相場はなんとなくわかる。そしてこの物件はなかなか売れないであろうことも。
それでも、おススメポイントはないかと探しながら。

「いっそ、幽霊でも出た方が話題になって売れるかもね」

と、その時。

カメラのファインダー越しに何かが見えた。

「え?!」

黒い固まり?心臓が一瞬にして凍りつく。

それは、ホール横の部屋に入っていった。

外で、鳥が横切った影だ、と自分に言い聞かせる。

たとえそられが幽霊だろうが妖怪だろうが、仕事を済ませないわけにはいかないので、正十は恐る恐るホール横の部屋を開けてみた。

ギギ…ギギギ

何年も開けていないような音がした。

開けた瞬間埃っぽい匂いがして、白いモヤがかかったような部屋が見えた。
奇跡的に割れずに残っているガラスの窓から光が降り注いでいる。


その光の先に、黒い塊が1つ。

「?」

光がキツくて、それが何かよくわかならい。

正十は恐る恐る近づいた。

「ゴミ?…布…?」

それに向かって手を伸ばす。

正十の指が触れそうになった瞬間、

そのゴミのような黒い塊がモソリと動いた!


「うわっ!!」


驚く正十…倒れそうになったところを、黒い塊から伸びた手が掴む。

2つの力強い瞳が正十を捉えたかと思うと、

黒い塊は、布を被った大きな岩のようにそびえ立った。


「だっ…だっ」

誰?!と言いたいところだが、驚きすぎて声が出ない。


黒い人間は慌てふためく正十を、腕を掴んだまま見下ろし(塊は12メートル近くあり、正十の身長は170センチない)、

スッと静かに正十の匂いを嗅いだ。

「お前でいい…」

「えっ?!」

黒い人間は自身が被っている黒いマントの中に、包み込んで正十を招き入れた。








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