暗闇に溺れる夏の夜

Cherry

暗闇に溺れる夏の夜

 ある暑い夏の夜のことだった。その日は昼間から太陽がアスファルトを非情に照りつけていて、焼けるように暑い日だった。その日は満月だった。ぼんやりとした月の光が横たわった一人の遺体と、その傍らで呆然と自分の両手を見つめる少年を写していた。その少年の両手は、鮮やかな赤色に染まっていた。まるで魂を抜かれたように、ただひたすらと呆然と座っていた。

一1週間前一

 広葉樹や田んぼの緑が永遠と広がる中、それを横切る一本のあぜ道を一台の自転車が風を切って走っていた。H高校に通う高橋輝(ひかる)は所属している陸上部の朝練に向かうために、まだ朝日が登っていない薄暗い中、必死にペダルを漕いでいた。彼の家は学校から約二キロ程のところにあり、その道中には家屋と呼べるものほとんど無い。唯一あるとすれば、最近近くに出来たコンビニとそこで働いている二十代の女性の家くらいだ。通勤が面倒だからと二ヶ月前にこちらに引っ越してきたという。しかし、こんな田舎にも関わらず彼女の家にはたくさんの老人が集まっている。何故だろう。少年はふと思った。そしてペダルを漕ぐ足を止め、彼女の家の前で止まった。不思議と興味が出てきた。どんな人なんだろう。どんな声なんだろう。そんな事を考えていると、窓からこちらを見つめている人の姿に気付いた。彼女だった。彼女もまたこちらをじっと見ていた。僕は軽く会釈し、恥ずかしさを隠すように急いでまたペダルを漕ぎ始めた。

コメント

  • Fs様の下僕

    続きがとっても気になります!

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