ザ・ファイター ――我、異世界ニテ強者ヲ求メル――

ふぁいぶ

第五話 戦闘狂、異世界で嗤う


「皆、人数的に不利だが、依頼人を守るぞ!」

「ああ! 死んだトムとグラシオの仇を取ってやる!」

「いいか、馬車から離れるなよ! 迎え撃て!」

 成る程、あの馬車の護衛か。
 となると、人数的に迎え撃つしか手はないの。
 しかしそれでも人数的に不利な状況なのは変わりない。さて、どう出る?
 というか、今更だが何故儂は彼等の言葉がわかるのだろうか? まぁ後回しにして、戦闘を観察する事に注力しよう。

 すると、三人が同時に何かを言い始めた。

『炎の神よ、貴方の指をお借りします』

 な、なんじゃ?
 神に祈りを捧げた!?

「魔法が飛んでくるぞ! あの詠唱は《ファイヤーボール》だ!!」

「なら、近付く!!」

 あれが、詠唱?
 何じゃろう、とある弟子が漫画やアニメが大好きで魔法の詠唱をよく言っておったが、全く当てはまらなかった。
 そして盗賊の一人の体が光に包まれた。
 何が起こる?

「行くぜ、《加速アクセル》!」

 盗賊がその瞬間、常人とは思えない速度で走り出した。
 これは陸上選手もビックリな速さじゃ。
 しかし、盗賊の判断が遅かった。
 すでに傭兵の掌には、掌と同じ大きさの火の玉が完成していた。

「遅い! 《ファイヤーボール》!!」

 傭兵が放った火の玉の魔法が、高速で向かってきていた盗賊の胴体に直撃。
 そのまま爆発し胴体は粉砕、頭部と四肢は血をあちこちに飛ばしながら四散した。
 うっ、思ったよりエグいの……。
 しかし、後一秒程早く動いていれば傭兵を倒せていたじゃろうが、判断が遅かったのが命取りだった。

 他の二人も魔法を放ち、二人の盗賊を仕留めた。臓物を撒き散らして爆死する様を見た儂は、少し気分が悪くなる。
 流石に《裏武闘》でも、こんな惨い死に様はないぞ。

「ちっ! 野郎共、遠距離だと俺らが不利だ! 近接戦に持ち込め!」

『おう!』

 残り三人と、傭兵と同数になってしまった盗賊達は、ナイフを持って傭兵達に向かって走り始める。
 なかなかの速さじゃな。
 傭兵達はブロードソードを正眼に構えて迎え撃つ。

 結果を言ってしまうと、実力は拮抗していた。
 理由は、剣の死角に入られてしまったからだ。
 一見ナイフと剣、どちらが有利かと言えば、リーチから見れば剣じゃろう。
 しかし、剣の最大の弱点は、零距離に近ければ近い程無力化してしまう点じゃ。
 剣の威力が百パーセント出せるのは剣先から約十センチ程の箇所。振った際に威力が一番乗る箇所なのだが、体に近付くに連れて威力は著しく落ちてしまう。
 逆にナイフは刃が短い事から、懐に潜ったら刺すもよし、斬るもよしと零距離でも自由に出来る。
 これは傭兵の腕の問題じゃろう。通常なら剣が一番有利な射程を維持するべきなのだが、見事懐に潜られてしまった。しかも三人共。
 防戦一方になってしまった傭兵達、そして一方的に攻撃が出来ている盗賊達は勢いに乗っている。
 このままだと傭兵達が死に、あの馬車は漁られてしまう。
 もしあの馬車の中に人が隠れていたとしたら、盗賊共は非人道的な事を好き勝手やってしまうだろう。

「それは流石に、夢心地が悪くなるのぉ……」

 なら、そろそろ観察は終わりにして動くかの。
 身体は草原の中を歩け歩け大会したおかげか、調度良い感じで温まっておる。
 それに不思議と身体が軽い。
 今なら、儂の流派を百パーセント活かせる事が出来るかもしれんな。

「では、参る!」

 儂は勢いよく地面を蹴る。
 やはり思った通り、異世界に来て何故か身体能力が上がっておる。
 これでも鍛練は欠かさず行ってきていたが、歳には勝てずに年々身体能力が落ちている事を実感しておった。
 しかし、まるで二十歳の頃の全盛期位まで戻っているではないか。
 はは、これならやれる!
 魔法とスキル、あれには気を付けないといけない。
 技術的に未熟でも、それらの要素で十分に負かされる可能性がある。
 油断は禁物、じゃな!
 
 あっという間に残り約五十メートル程度の距離。
 幸い、誰もが戦闘に夢中で儂に気付いておらん。
 不意打ちを仕掛けるなら、今!

 儂はさらに駆ける速度を上げて一気に奴等との距離を詰める。
 そして傭兵をいたぶる事に悦に入っている盗賊の一人の脇腹に、ヤクザキックを繰り出す。
 綺麗に脇腹に儂の足が食い込み、あまりの衝撃に盗賊の身体がくの字に曲がる。

「うげぇぇぇっ!!」

 盗賊はそのまま地面に倒れ込み、悶絶している。
 内臓に上手い具合に衝撃が行き渡ったようじゃな。

「お主ら、助太刀するぞ」

「き、君は?」

「通りすがりのじじぃじゃよ」

「じ、じじぃ?」

 何故そこで疑問系になるんじゃろうか。

「それで、儂の助太刀はいるか? いらんのか?」

「い、いる。すまない、助かる」

「ふふ、旅は道連れ世は情けじゃて、お主ら三人は少し休んでおれ。もし盗賊がそちらに行ったら、応戦して欲しい」

「ひ、一人で三人を相手にするのか? 無茶だ!」

「ああ大丈夫。多分こやつらなら、儂一人で相手に出来るからの」

『……は?』

 傭兵達と盗賊達が声を揃えた。
 何じゃ、敵同士なのに随分と気が合っているじゃないか。

「おい、てめぇ。俺達が誰だかわかってるのか? 俺達は泣く子も黙る――――」

「知らぬ。泣く子も黙るのはお主らが怖い訳ではなく、お主らが持っているナイフが怖いだけに過ぎぬ。チンピラ風情が意気がっているだけではないか。儂はそんなちゃちな物では怖がりはせんぞ。残念じゃったな」

「てめぇ、大人しく聞いてやっていれば好き勝手言いやがって……。そこの傭兵はいつでも殺せるから、まずはてめぇを殺してやる!」

 儂を殺す? 殺すとな?
 ほうほう、つまり、この戦いは命を賭けた戦い、という訳じゃな?

「ふ、ふふふふふ」

「な、何がおかしい」

 おかしいに決まっている。
 七十歳にもなって、まさか異世界で血がたぎってしまうとはな。
 いい歳なのに、もう血生臭い事はやらないと絹代さんに誓ったのにな。
 
 すまんな、絹代さん。
 儂は初めて、貴女との約束を破る。

 さぁ、楽しい命のやり取りをしようじゃないか。

「ひっ!?」

 盗賊の一人が悲鳴を上げた。
 何じゃ、人の顔を見てそんな怯えるなんて、失礼にも程がある。
 まぁ仕方無いかもしれんな。
 久々の戦いに、嬉しくて嬉しくて、つい口元が緩んでしまうからの。

「さあ、三人一辺に相手してやるからの。かかってきなさい」

 この異世界、地球で満たせなかった飢えを満たしてくれるだろうか。
 楽しみで仕方無い。

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