潤愛~じゅんあい~
引越し完了
荷物や家具を自分の部屋に運び終えた頃には夕焼けが窓から覗いていた。
ダンボールだらけの部屋を後にし、外に出てみることにした。
「ちょっと散歩してくるよ」
「暗くなる前に帰るのよ」
返事はせずに靴を履いて外に出た。
後ろを振り返ると新生活の実感が湧いてくる。
2階建てのごく平凡な家だが新築なので周りの家より少しだけ目立っていることが気になるがすぐに慣れるだろう。
家の前は斜面になっており、というのは樫町は地形が傾いていて、そのおかげで冬には雪が、秋には紅葉が町に覆い被さるのを観られる。
少し歩いているうちに川が見えてきた。
流れも穏やかで小さな小川だが、水は透き通っていて底まではっきりと映っている。
夏になれば家族連れでさぞかし賑わうのだろう。
「最後に川遊びをしたのはいつだろうか」そんなことを考えていた。
小学6年生のとき、川で溺れたことがあった。
学校のプールの授業で基本的な泳法の練習はしていたし、実際に泳ぎ続けることもできた。
しかし、そんな練習も無かったかのように身体はこわばり、頭の中が真っ白になり、何かを掴もうと水の中で必死に手で探る。
気づけば河原に仰向けで、大和と百合子が心配そうな顔つきで見ていた。
たまたま通りかかった青年が助けてくれたらしい。
苦い思い出に浸っているうちに、あたりは暗闇に包まれていたので帰宅することにした。
「何度言えばわかるの! 」
玄関に入ると甲高い声が家中に響いていた。
「ただいま、どうかしたの母さん」
「また大和がどこからか野良犬を連れてきたのよ! 」
「何だ、そんなことか」
ため息混じりの一言だった。
「そんなことか、じゃないわよ! あんたもお兄ちゃんなんだからちゃんと大和のことを見といてよね! 」
百合子は両手で頭を掻いていた。
怒った時や何かに悩まされている時の癖だ。
「でも可哀想やねんこの犬! ずっと独りやったもん! 」半べそかきながら大和が訴えた。
大和の口調が関西よりなのは2年前、盆に三重の祖父母のところに帰ったとき、
ずっと真似しているうちに染み付いていたからだ。
「ママの家ではペットは飼いません! 」頑なに拒む百合子。
なぜこれほどにも拒むのか、百合子は幼い頃に1匹の柴犬を飼っていたらしいが、死んだ時の悲しみは想像を絶するものだった。
その経験を教訓に、もう金輪際ペットは飼わないと決めていたそうだ。
「どうしても飼いたい……」涙を浮かべながら大和が上目遣いに呟いた。
「わかったわよ、その代わりママは世話しません。自分でするのよ。」
「うん! やったーー! 」
「本当にいいのかよ」大和には無理だろうと思っていた。
「これも教育のひとつなのかなって思ってね」
「変わったな……百合子」
廊下で終始聞き耳を立てていた貴之がリビングに入ってきた。
「まあね、今年でもう四十五よ」確かに最近しわが目立ってきた。気づかなかった。
「もう今日は寝るよ疲れたし」少し頭痛がしていた。
「明日は始業式でしょ、用意してから寝なさいね」
ベッドで仰向けになって天井を見つめていた。風が窓を強く叩いて、うとうとしているのを邪魔してくる。気付けば朝になっていた。
ダンボールだらけの部屋を後にし、外に出てみることにした。
「ちょっと散歩してくるよ」
「暗くなる前に帰るのよ」
返事はせずに靴を履いて外に出た。
後ろを振り返ると新生活の実感が湧いてくる。
2階建てのごく平凡な家だが新築なので周りの家より少しだけ目立っていることが気になるがすぐに慣れるだろう。
家の前は斜面になっており、というのは樫町は地形が傾いていて、そのおかげで冬には雪が、秋には紅葉が町に覆い被さるのを観られる。
少し歩いているうちに川が見えてきた。
流れも穏やかで小さな小川だが、水は透き通っていて底まではっきりと映っている。
夏になれば家族連れでさぞかし賑わうのだろう。
「最後に川遊びをしたのはいつだろうか」そんなことを考えていた。
小学6年生のとき、川で溺れたことがあった。
学校のプールの授業で基本的な泳法の練習はしていたし、実際に泳ぎ続けることもできた。
しかし、そんな練習も無かったかのように身体はこわばり、頭の中が真っ白になり、何かを掴もうと水の中で必死に手で探る。
気づけば河原に仰向けで、大和と百合子が心配そうな顔つきで見ていた。
たまたま通りかかった青年が助けてくれたらしい。
苦い思い出に浸っているうちに、あたりは暗闇に包まれていたので帰宅することにした。
「何度言えばわかるの! 」
玄関に入ると甲高い声が家中に響いていた。
「ただいま、どうかしたの母さん」
「また大和がどこからか野良犬を連れてきたのよ! 」
「何だ、そんなことか」
ため息混じりの一言だった。
「そんなことか、じゃないわよ! あんたもお兄ちゃんなんだからちゃんと大和のことを見といてよね! 」
百合子は両手で頭を掻いていた。
怒った時や何かに悩まされている時の癖だ。
「でも可哀想やねんこの犬! ずっと独りやったもん! 」半べそかきながら大和が訴えた。
大和の口調が関西よりなのは2年前、盆に三重の祖父母のところに帰ったとき、
ずっと真似しているうちに染み付いていたからだ。
「ママの家ではペットは飼いません! 」頑なに拒む百合子。
なぜこれほどにも拒むのか、百合子は幼い頃に1匹の柴犬を飼っていたらしいが、死んだ時の悲しみは想像を絶するものだった。
その経験を教訓に、もう金輪際ペットは飼わないと決めていたそうだ。
「どうしても飼いたい……」涙を浮かべながら大和が上目遣いに呟いた。
「わかったわよ、その代わりママは世話しません。自分でするのよ。」
「うん! やったーー! 」
「本当にいいのかよ」大和には無理だろうと思っていた。
「これも教育のひとつなのかなって思ってね」
「変わったな……百合子」
廊下で終始聞き耳を立てていた貴之がリビングに入ってきた。
「まあね、今年でもう四十五よ」確かに最近しわが目立ってきた。気づかなかった。
「もう今日は寝るよ疲れたし」少し頭痛がしていた。
「明日は始業式でしょ、用意してから寝なさいね」
ベッドで仰向けになって天井を見つめていた。風が窓を強く叩いて、うとうとしているのを邪魔してくる。気付けば朝になっていた。
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