シャッフルワールド!!外伝──scarlet──
一章 悪の胎動(4)
イタリア監査局ミラノ支部。犯行現場、状況……映像確保。本局のヴェネチアに送信。
衛星からのスキャン……アクセス。これは保存……バックアップも……よし、これでライアーさんの無実は証明されるでしょう。
私の偽造証明書の発行は……これもよし。すぐにはバレないはず。今の所、王国やら何やらと多忙のようで、“この手の機関”への侵入も楽ですね。お、ここも埋めておきますか。足が付くのはいやーんですよ。
さて、後は──
「う……んんッ、とぉ。ま、こんなとこですかね」
長時間タブレットをいじってましたからね。身体を伸ばすと気持ち良いのなんの。
「さて、と……ん?」
あらら、立って空を見上げたら、お日様が顔を出しているではありませんか。それにしても、大聖堂の屋根から見えるミラノの景色は美しいですね。流石、都市の中心に聳えるだけある。
ドゥオーモは、イタリアの都市を形成するに欠かせない建物。各都市に必ずという程これら教会が存在しており、それがまた特徴となっているんですよね。
「うぅーん」
大きく、両手を広げて深呼吸っと。今日はいつもより空気が澄んでますね。
百メートル以上にもなる高所からの見晴らしは勿論、髪を撫でるそよ風もまた気持ちいい。このひと時が永遠に続けば良いのに、そんな甘えに誘うものがあります。
ふふ、この屋根へ行くのにお金をぼったくるだけはありますよ。ま、私は払いませんけどね。お得意の空間連結で不法侵入もお手の物。貸し切りの気分を満喫させてもらいましたよ。
さて、そろそろ人も来る頃でしょうし、見つかる前に出なくては。
とりあえず、屋上から紐なしバンジー行ってみますか。座った姿勢から後にふらりとね。
おおう! 風の音、風圧が激しいの何の。このまま落ちたらスイカみたいに頭をパーンッしちゃいますかね?
ふふ、それは御免蒙りますがね。ま、既に落下地点では空間の歪みが私を待ってくれてますから、そんな事故は万に一つもアーリマセーン。そのままダーイブです。
空間の歪みに入る時の感触は、水の中に飛び込む時と似ている。ですが水とは違い、私の身体に物理的な衝突、負荷はかからない。更に、私が出現する場所は、ライアーさんの行きつけの店クオーレの入り口。
その床だ。
「とーうっ!」
ぽーんと床の穴から飛び出す──と、表現するのが良いですかね?
ま、そんな感じで飛び出した訳ですよ私は、して曲芸師みたく空中で回転して着地。Yの字ポーズでフィニッシュッ!
うん、決まった。審査員がいたら間違いなく皆が満点プレートを出すでしょう。
「う、うわぁっ!?」
「ん?」
おや、迂闊でしたね。まさかこんな早朝に人がいるとは。それも店の人ではなく、おそらく一般客。みんな私を見て驚いている。まるで宇宙人や幽霊に遭遇した様。ふふ、面白い顔だ。
「ブォンジョールノ(おはようございます)。私、クオーレ(ここ)に雇われた手品師でありまして。先ほどのは、新作の手品でございます」
と、高らかに、手品師みたく御辞儀してみましたよ。普通に考えてそれは有り得ないのですが、人は理解の範疇を越える出来事に遭遇すると、こういった強引な流れに弱い。自分の常識内に纏めて、とりあえず納得するものです。
「あ、ああ」
「なるほど」
ほぉらね。皆さん拍手、拍手っと。ンッフフフ、チョロいですな。
「なーるほど。皆さん、ライアーさんにねえ」
その後、社交辞令クソ食らえのくだけた態度で接した私は、あっさり皆さんと打ち解けました。ンッフフフ、何でだよってツッコミは無しです。強いて言うなら、美人だからですね。男の人に限っては胸の谷間をチラチラリ、興味津々のようで。
お相手してあげたいが、私も忙しい身だ。“貪る”のはまたの機会にしましょう。
さて、訊いたとこ彼らの用は店にではなくライアーさんにあるとのこと。
昨日、ライアーさんから貰った大金をやっぱり返そうと来たチンピラ風な男。
異獣に襲われたとこ、息子と自分をライアーさんが助けてくれたと証言する淑女。
危険な道で泥酔して転がる父を家まで届けてくれたと、お礼を言いに来た息子さん。
等々、みんながライアーさんに心から感謝している模様。その殆どが貢ぎ物を持って来ているではありませんか……お、閃いた。
「皆さん、ずっとお待ちになるつもりで?」
と、訊いてみれば、やはり皆さん平日なだけあり各々が仕事に向かうようで。
「でしたら、私が皆さんのそれをお預かりしてライアーさんに届けてあげましょう」
「え、ですが……」
戸惑い悩む各々方、まあそうでしょうね。知り合って間もない人に丸投げしちゃう方はいません。ですから、私が実はライアーさんと知り合いであり、これから私の用事が最優先されるであろうこと、皆の都合上この場に留まれば仕事などに支障を来すだろう懸念を述べ、こう提案します。
皆さんの御礼の言葉を、動画に収めるとね。後は、時間がある時にライアーさんに見せてあげましょう──と言えば一人、また一人と私の案を受け入れてくれた。
冷静に考えれば実におかしな話……ですが一人が動けば感染拡大するものです。こうして疑問も次第に薄れゆく訳だ。
「フッヘヘヘ、ぎょうさん儲けたでぇ」
誰もいなくなったとこで集計集計っと、ペロンと指先舐めて束の紙幣を弾く私。きっと先ほどの愛嬌的なものと打って変わりあくどい顔しているでしょうねえ。ま、お気の毒ですが、騙される方が悪いってことで。これら全て私が有効活用してさしあげましょう。
さてと、そろそろクオーレも開店の時間だ。予約は既に入れてますから、気長に待ちましょうかね。ライアーさん達の到着を。
衛星からのスキャン……アクセス。これは保存……バックアップも……よし、これでライアーさんの無実は証明されるでしょう。
私の偽造証明書の発行は……これもよし。すぐにはバレないはず。今の所、王国やら何やらと多忙のようで、“この手の機関”への侵入も楽ですね。お、ここも埋めておきますか。足が付くのはいやーんですよ。
さて、後は──
「う……んんッ、とぉ。ま、こんなとこですかね」
長時間タブレットをいじってましたからね。身体を伸ばすと気持ち良いのなんの。
「さて、と……ん?」
あらら、立って空を見上げたら、お日様が顔を出しているではありませんか。それにしても、大聖堂の屋根から見えるミラノの景色は美しいですね。流石、都市の中心に聳えるだけある。
ドゥオーモは、イタリアの都市を形成するに欠かせない建物。各都市に必ずという程これら教会が存在しており、それがまた特徴となっているんですよね。
「うぅーん」
大きく、両手を広げて深呼吸っと。今日はいつもより空気が澄んでますね。
百メートル以上にもなる高所からの見晴らしは勿論、髪を撫でるそよ風もまた気持ちいい。このひと時が永遠に続けば良いのに、そんな甘えに誘うものがあります。
ふふ、この屋根へ行くのにお金をぼったくるだけはありますよ。ま、私は払いませんけどね。お得意の空間連結で不法侵入もお手の物。貸し切りの気分を満喫させてもらいましたよ。
さて、そろそろ人も来る頃でしょうし、見つかる前に出なくては。
とりあえず、屋上から紐なしバンジー行ってみますか。座った姿勢から後にふらりとね。
おおう! 風の音、風圧が激しいの何の。このまま落ちたらスイカみたいに頭をパーンッしちゃいますかね?
ふふ、それは御免蒙りますがね。ま、既に落下地点では空間の歪みが私を待ってくれてますから、そんな事故は万に一つもアーリマセーン。そのままダーイブです。
空間の歪みに入る時の感触は、水の中に飛び込む時と似ている。ですが水とは違い、私の身体に物理的な衝突、負荷はかからない。更に、私が出現する場所は、ライアーさんの行きつけの店クオーレの入り口。
その床だ。
「とーうっ!」
ぽーんと床の穴から飛び出す──と、表現するのが良いですかね?
ま、そんな感じで飛び出した訳ですよ私は、して曲芸師みたく空中で回転して着地。Yの字ポーズでフィニッシュッ!
うん、決まった。審査員がいたら間違いなく皆が満点プレートを出すでしょう。
「う、うわぁっ!?」
「ん?」
おや、迂闊でしたね。まさかこんな早朝に人がいるとは。それも店の人ではなく、おそらく一般客。みんな私を見て驚いている。まるで宇宙人や幽霊に遭遇した様。ふふ、面白い顔だ。
「ブォンジョールノ(おはようございます)。私、クオーレ(ここ)に雇われた手品師でありまして。先ほどのは、新作の手品でございます」
と、高らかに、手品師みたく御辞儀してみましたよ。普通に考えてそれは有り得ないのですが、人は理解の範疇を越える出来事に遭遇すると、こういった強引な流れに弱い。自分の常識内に纏めて、とりあえず納得するものです。
「あ、ああ」
「なるほど」
ほぉらね。皆さん拍手、拍手っと。ンッフフフ、チョロいですな。
「なーるほど。皆さん、ライアーさんにねえ」
その後、社交辞令クソ食らえのくだけた態度で接した私は、あっさり皆さんと打ち解けました。ンッフフフ、何でだよってツッコミは無しです。強いて言うなら、美人だからですね。男の人に限っては胸の谷間をチラチラリ、興味津々のようで。
お相手してあげたいが、私も忙しい身だ。“貪る”のはまたの機会にしましょう。
さて、訊いたとこ彼らの用は店にではなくライアーさんにあるとのこと。
昨日、ライアーさんから貰った大金をやっぱり返そうと来たチンピラ風な男。
異獣に襲われたとこ、息子と自分をライアーさんが助けてくれたと証言する淑女。
危険な道で泥酔して転がる父を家まで届けてくれたと、お礼を言いに来た息子さん。
等々、みんながライアーさんに心から感謝している模様。その殆どが貢ぎ物を持って来ているではありませんか……お、閃いた。
「皆さん、ずっとお待ちになるつもりで?」
と、訊いてみれば、やはり皆さん平日なだけあり各々が仕事に向かうようで。
「でしたら、私が皆さんのそれをお預かりしてライアーさんに届けてあげましょう」
「え、ですが……」
戸惑い悩む各々方、まあそうでしょうね。知り合って間もない人に丸投げしちゃう方はいません。ですから、私が実はライアーさんと知り合いであり、これから私の用事が最優先されるであろうこと、皆の都合上この場に留まれば仕事などに支障を来すだろう懸念を述べ、こう提案します。
皆さんの御礼の言葉を、動画に収めるとね。後は、時間がある時にライアーさんに見せてあげましょう──と言えば一人、また一人と私の案を受け入れてくれた。
冷静に考えれば実におかしな話……ですが一人が動けば感染拡大するものです。こうして疑問も次第に薄れゆく訳だ。
「フッヘヘヘ、ぎょうさん儲けたでぇ」
誰もいなくなったとこで集計集計っと、ペロンと指先舐めて束の紙幣を弾く私。きっと先ほどの愛嬌的なものと打って変わりあくどい顔しているでしょうねえ。ま、お気の毒ですが、騙される方が悪いってことで。これら全て私が有効活用してさしあげましょう。
さてと、そろそろクオーレも開店の時間だ。予約は既に入れてますから、気長に待ちましょうかね。ライアーさん達の到着を。
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