『ダンジョンの守護者「オーガさんちのオーガニック料理だ!!」』

チョーカー

激闘! 亮に刻まれた敗北の予感

 ダンジョン内に流れる小川。亮は、そこに来ていた。

 釣竿を地面に固定させ、本人は地面に寝転んで本を読んでいる。

 内容は稲作関連の本。どうやら、本気でダンジョン内で稲作をするつもりらしい。



 ピクリと竿が動く。





 「HITだ!?」



 それに反射して、亮が動く。

 手に取った竿から伝わってくる獲物の生命力。

 捕らえられ、なおもあがき続けようとする反骨精神。

 だが、亮も負けるわけにはいかなった。

 何度も深い呼吸を繰り返し、獲物の動きに合わせる。



 狙うは一閃のカウンター



 獲物の動きが緩んだ刹那なタイミング。

 大きく引き寄せる。 だが、その一撃で勝負を決する事はなかった。

 むしろ相手の抵抗力は、より活性化された。



 戦いはスタミナ勝負へ移行する。



 ジリジリと間合いを詰める両者。

 だが、亮の腕も悲鳴を上げている。

 両腕に蓄積された乳酸は分解されず、本人の意思を肉体が裏切り始める。

 相手の動きに合わせて動くのがこの戦いの基本。しかし、大きく乱れ始めた呼吸は、相手の動きと自身の動きに僅かなズレを生み始める。



 悪循環



 僅かに生じたズレは、徐々に乱れを肥大化していく。

 そして疲労が溜まった腕では修復リカバリーも難しい。



 敗北



 この二文字が亮の脳裏に過ぎった。

 それを意識した瞬間、亮の瞳に炎が灯った……ように見える。

 一歩、大きく踏み込む。そのまま前後に大きく広げたスタンスを取る。

 下半身の固定を終える。

 上半身は腕だけの力ではなく、腰そのものは――――全ての背筋を連動させる。

 その亮の姿は、ある種の釣り機械フィッシッングマシーンのようにすら見えた。



 そして、その引きは、失われた腕力を――――否。

 それ以上を膂力を可能とさせた。



 それが烈々たる戦いに終止符を打つ。

 水面から浮上するのは黒い影。 まるで悪魔の象徴である蛇を連想させる悪魔的フォルム。

 なんびとたりとも触れる事を拒むように肉体の表面には滑りが生じている。



 ウナギである。

 そう、それはウナギであった。



 漢字で書けば鰻。

 ウナギは日本人を狂わせる。 そう言っても過言ではあるまい。

 美味い川魚のアンケートを取れば、不動の1位を揺るがす者は存在しないだろう。

 紛れもないキング・オブ・キングの称号を持つ生物。

 それがウナギだ。 それがウナギなのだ!



 一方、それに勝利した亮は――――



 「ペットボトル釣法を試せばよかった……」



 疲労困憊で、呼吸を乱したまま呟いた。

 どうも、ウナギが狭い場所を好む習性があるらしい。

 それを利用してペットボトルを罠として利用した釣法がある。

 しかし、今回はペットボトルの代用品がなかったので見送ったのだ。



 「しかし、本当にウナギが釣れたって事は、この川は外に――――外どころか海に繋がっているのか?」



 ウナギは降河回遊と言われる習性がある。

 回遊というのは海と川を移動する魚の事。例えば、有名なのはサケやアユだろう。

 サケのように産卵の時に海から川に移動する魚は遡河回遊。

 アユのように生後暫くは海で過ごし、大人になると川に移動する魚を両側回遊と言う。

 ウナギの降河回遊と言うのは、産卵時に海に移動。生まれたばかりでありながら川に戻っていくタイプである。



 さて、亮がどうしてウナギを捕まえているのか?

 それは数時間前に遡る。 まるで回遊のように遡るのだ。



 


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