『ダンジョンの守護者「オーガさんちのオーガニック料理だ!!」』

チョーカー

外来種の内面

 白旗を振る外来種。



 「あれは降伏……で間違いないよな?」



 隣のゴブリンAに確認してみると彼は頷いた。

 どうやら『こっち側』でも白旗は降伏の合図サインらしい。

 しかし、なぜ? 急に降伏を?



 「どうしますか? 亮さま?」とゴブリンA。

 いや、彼だけではない。周囲のゴブリンたちも亮の判断を待っている。

 「とりあえず……」と前置きを入れ、



 「彼と話し……は無理でも意思の疎通は、試してみたい」



 亮は、誰に聞かせるのでもなく、小さな声で呟いた。

 しかし、それを聞こえたらしく大声が返ってきた。



 「いいぞ? 俺にだって話くらいできる!」



 誰の声? 信じがたい事に声の主は外来種。

 咆哮と同質の大声が放たれたのだ。 



 「しゃ、喋れたのか? あいつ……」



 亮は……いや、ゴブリンたち全員が、その事実に愕然とした。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 外来種は、白旗を横に置くとダンジョンの壁に両手つけた。

 無抵抗をアピールしているつもりなのだろうが、そう簡単には信じられない。

 だからと言って、そのまま放置しておくわけにはいかない。



 集落の門が開いた。

 亮が最初に出る。 続けて、ゴブリンたちが走り、亮を護衛するように囲む。

 ゴブリンたちの武器は剣。 これは切り札として準備していた武器だ。

 ダンジョン内で冒険者が捨てた剣ではあった。

 しかし、それら全ては研磨されており――――新品同様とまでは言えないが――――通常のゴブリンの武装とは、まるで別次元の殺傷能力を有していた。



 「全員抜刀! 構えたまま警戒!」



 ゴブリンAの号令と共に、一糸乱れぬ動作で剣を抜くゴブリンたち。

 そして、その剣先は外来種に向けられていた。



 「降伏して、無抵抗の相手に物騒だね」



 外来種は壁に手をついた状態のまま、視線だけを亮に向けた。

 その瞳には――――赤く輝く瞳には、それまでの獣性も狂気も潜んでいた。

 残っているの知性の光。



 「なんだ、お前は? 外来種……ゴブリンが強化された姿じゃないのか?」

 「あぁ、俺はゴブリンさ。ただ、強くなりたいと願った1匹のゴブリンだ」



 そう言うと、外来種に変化が起きた。

 彼が身に纏っていた黒い靄。 それが彼の意志に応じたかのように霧散したのだ。

 黒い靄が消えて、現れた姿は――――



 人間だった。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 無造作に伸ばされた髪は腰を越え、太ももまで伸びている。

 筋肉質な肉体。 野生の時代、人類は現在よりも20キロ以上の筋肉を有していたと言うが……

 おそらく、それ以上。

 一糸纏わぬ姿で、何も隠そうとしていない。 むしろ、見ろと言わんばかりの自信を感じる。

 野性味が溢れるような顔。 年齢は20代から30代の間だろうか?

 どこから、どう見ても人間だ。



 「お前、人間……なのか?」と亮は聞いた。 

 しかし、答えは――――



 「人間? お前の目にはそう見えているのか?」



 外来種は「何を言われているのかわからない」と言わんばかりの様子だった。



 「最近、鏡は?」



 亮の問いかけ。よほど、予想外の言葉だったらしく、外来種はキョトンとした顔を見せた。



 「なんだ、鏡だって? 必要か? そんな物が」



 「いいから、待ってろ」とゴブリンが持ってきた鏡。それを外来種に向ける。

 彼はそれを見て、一瞬だけ目が見開いた。

 しかし、それも一瞬だけだ。 あとは――――



 笑っていた。



 潜めていた狂気があふれ出て、ダムが崩壊したかのように笑った。

 そのまま、大地を転がり始める。 



 「お、おい」と流石に警戒を強めていた護衛ゴブリンが剣を向けようとするが――――

 「待ってくれ」と亮が止める。



 「あー 笑った。笑った。待たせてちまってすまないな」



 外来種は、地面に胡坐をかいた。



 「構わないよ。いろいろ、聞きたいことはあるが――――まずは、どうして降伏を?」



 亮は聞いた。  










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