『ダンジョンの守護者「オーガさんちのオーガニック料理だ!!」』

チョーカー

 幕間の夜

 ―――町―――



 周囲に多くのダンジョンがあることから発展した、ここは深夜ですら冒険者の出入りは途切れない。

 夜にしか姿を見せないと言われる魔物を狙いに――――

 逆にダンジョンから、戻ってくる者もいる。

 ネオン街のように魔石で作られた光が煌々と町を照らしている。

 まぎれもなく眠らない町だ。



 しかし、そんな町にも闇は必要だった。

 冒険者と言っても依頼は綺麗ごとじゃ済まされない内容もある。

 暗殺者アサシンのように復讐を頼まれる冒険者もいれば、復讐される側もいる。

 そんな冒険者の暗部を象徴するような夜の酒場。

 店の名前は――――



 『光闇蝶』



 暗幕には盗み聞きを防止する魔法がかけられている。

 客の多くが悪巧みか、その雰囲気を楽しむ遊び人。

 そこに2人の男女がいた。



 街中でもピンク色の鎧をはずなさい男。

 リーダーと呼ばれる男だ。

 もう1人は女性。賢者さんだ。



 「――――それで、何がわかった?」と男が聞く。

 「……」と女は無言で札を取り出した。



 「それは彼に渡した連絡用の札か?」

 「うん、正確にはその片割れだけどね」

 「彼から連絡が?」

 「いや、彼から連絡をしてくれた事はないよ。連絡するのは私から……」



 ピキピキと異音が聞こえてくる。

 賢者さんが持っているコップが握力で軋む音だった。



 「問題なのは、この札にある位置把握機能さ」

 「位置把握機能? つまり、お前には彼の居場所がわかるってことか?」



 「そうだよ」と賢者は悪びれずに平然と答えた。

 「お前なぁ……」と彼女の行為を窘めようとリーダーをしたが……



 「いやいや、待ってくれ。これは重要なことだよ。コレを見てくれ」





 札から薄っすらと画像が浮かぶ。



 「これは……地図か?」

 「そうだよ。この札からチートくんの位置情報を毎日確認しているんだけど……彼、動かないんだよ」

 「動かない? どこから?」

 「どうも彼はダンジョンで生活しているみたいなんだ」



 「ダンジョンで……生活を?」とリーダーは絶句した。



 「何か、それこそチート能力を発動させてダンジョンに篭っているのか?」

 「そうかもしれないし、違うかもしれない。この札だと、そこまでわからない……」

 「だが、彼は何かを隠している。そう言う事か?」

 「そう言う事だね。……ところで、君がさっきから食べてるベーコンなんだけど……」



 リーダーの前には小皿は1つ。

 その上に焼かれたベーコンが乗っている。



 「これ、大猪ビックボアの肉じゃないかい? そんなもの、どうやって手に入れたんだい?」



 賢者がそう聞くとリーダーは、そっと目を逸らした。



 「これ……彼から……今日、町に食料を買いにきていたんだ……亮くん」

 「会ってたの! いや、そんな事よりチートくん町に来てるのかい!?」

 「いや、もう帰ったみたいだ」



 それを聞いた賢者は「きえぇぇ!」と奇声を上げてリーダーのベーコンを奪った。

 もちろん、嫌がらせのためだ。 しかし、それを口にすると――――



 「あら……美味しい。 これ、この店の人が調理したの?」



 賢者が疑うのも無理はない。

 ここ『光闇蝶』は、すねに傷を持つような人間が密談を目的に集まる店だ。

 料理が美味いなら、味で勝負しているはず。



 「いや、どうも亮くんが調理したみたいだ」

 「チートくんがこれを……」



 さてベーコンは豚を塩漬けにしてから薫製くんせいにした保存食だ。

 もちろん、これは豚ではなく猪で作られている。

 主にバラ肉。肋骨からお腹のあたりの肉が使用される。

 お腹は脂肪が多くなりやすい部位。

 その肉を火で炙ってやると隠れている油がぷくぷくと泡のように顔を出す。

 このタイミングこそが最上。



 それを口にした賢者さんは――――



 「はぁ」とため息を1つ。

 そして、こう呟いた。



 「チートくんの結婚したいわ……」



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 さて、深夜に結婚願望を向けられていると知らずに寝ている神埼亮であったが……

 彼は深い夢の中に落ちていた。

 問題は――――



 「また、この夢か」



 そう、亮はここ連日、同じ夢を見ていた。

 夢の中でいつも赤い髪の女性が現れ、何かを伝えようとしている。

 そして、今夜もまた……



 彼女は現れた。

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