『ダンジョンの守護者「オーガさんちのオーガニック料理だ!!」』

チョーカー

『スラリン強化計画』

 まるでゴムボールのような球体のフィルム。

 蛍光色のような鮮やかなオレンジ色。

 片手でも持てそうなな手のひらサイズ。

 本人が自己紹介したとおり、紛れもないスライムがそこにいた。



 「オーガさまが人間と結婚したと聞いて驚きました」



 彼(?)はそう言う。そして、興奮気味に――――



 「でも、もっと驚いたのは、その方の料理を食べると強くなれるそうじゃないですか!」



 亮は話を聞きながら、チラリとオーガさんを見る。

 そもそも、亮の料理を食べると強くなる。それを知っているのは亮自身とオーガさんだけである。

 それが、ダンジョン内で他の魔物が知っていると言う事は――――



 「もしかして、オーガさん。他の魔物に言いふらした?」

 「よせやぁい。いくら私だって分別のある魔物だぜ?」

 「そうか、そうだよね……」

 「ただ、ちょっと皆に自慢しただけだ!」

 「……」



 いつもどおり、豊満な胸を張って、「エヘン」とポーズを決めるオーガさんだった。



 「えっと、それで亮さんに僕も強くしてもらいたいのです!」



 スラリンは必死だった。その小さな体は何度も弾ませ、強さへの渇望を表現する。

 その姿は必死さと比例して可愛らしさに変換されているのだが……



 「ごめんよ。俺が作った料理は食べたものを強化する効果があるのは本当……」

 「そ、それじゃ!」



 「でも……」と亮は続けた。



 「その効果は永続じゃない。大体、30分くらい。それを過ぎれば元に戻る」

 「……え?」



 その表情は絶望だった。 表情と言ってもスラリンの顔のパーツは大きな愛らしい目しかないわけだが……

 まるで「こんな絶望するなら、神はどうして希望なんて与えられたのか?」と言っているくらいの絶望度合いに見えた。



 「そうですか……そうですよね。僕が、スライムが強くなるなんて、夢を見ちゃいました……」



 そう呟き、目に見えて意思消沈になるスラリン。

 その姿を見て――――



 「いや、君はを強くなれる!」



 何かをせざる得ないと感情を――――

 手を差し伸ばさざる得ない感情を過剰に揺さぶれたのだった。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 「魔物モンスターってどうやったら強くなるんだろ?」



 スラリンが嬉々とした表情で帰宅したあと、亮は呟いた。

 間違いなく安請け合いだ。 間違ってしまった安請け合いだ。

 そんな様子の亮にオーガさんは――――



 「何もわからないのに強くするって約束したのか……ふ~ん」



 なぜだか、棘のある言い方だった。



 「仕方ないじゃないか。目の前で、あんなにも落ち込まれたら、助けてやりたいって思ってしまったんだ」



 「そうか、お前らしいな」と頷き――――



 「魔物が強くなる最大の方法はレベルアップだな。冒険者たちを殺しまわり、喰らう事だ」



 そう物騒な事を言った。しかし、この世界の冒険者は死んでも生き返る。 

 死に対する禁忌が薄いのは、オーガさんが魔物であるからだけではないのだろう。

 しかし――――



 「スラリンが冒険者たちを虐殺する姿なんて想像も難しいよ」

 「……だろうな。じゃ、逆に質問だが……」

 「?」

 「人間が強くなるにはどうするんだ?」

 「そりゃ、トレーニングとか……もしかして、魔物って鍛えたら強くなるの?」



 オーガさんは頷いた。

 これによって亮の『スラリン強化計画』の方針が決まった。



 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・



 魔物も鍛えたら強くなる。しかし、疑問は残る。



 人間のトレーニングを魔物に行っても効果があるのか?



 その疑問に答える者はいない。

 もしかしたら、この広い世界――――もとい、この広い異世界では魔物を使役する魔物使いが存在していて魔物を鍛えているのかも知れないが、それを知る術を亮は持たない。



 「ならば、やるしかない!」



 「おー!」と亮の言葉に反応してスラリンが飛び跳ねる。

 こうして『スラリン強化計画』の1日目が開始されたのだった。




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